ベルサイユのばら ルイ16世

プラハ『飢えの壁』 ~カレル4世とルイ16世

※ 『ベルサイユのばら 第4巻』ルイ16世が寒さで凍てついたベルサイユ宮殿を視察する場面にまつわるコラムです。

8年前、超古代文明(注)をテーマにしたTV番組で、有名な考古学者が、
「ピラミッドの建造と言えば、何万もの奴隷を鞭打って強制労働させたというイメージを持っている人が多いが、あれは国家の威信をかけた一大公共事業だった。建設に従事している限り、労働者たちは生活を保障されたし、ピラミッドの完成という共通の夢もあった。そうでなければ、人力だけで、あのように巨大な建造物を造り上げることはできない」
と仰っていたのが非常に印象的でした。TVスペシャル特番『神々の指紋』に出演された吉村作治氏のコメント

私も、先生が指摘されたように、ピラミッドの建造=強制労働というイメージがあったのですが、そう言われてみれば、何万もの人間を暴力で支配して、あんな巨大な石をクレーンもトラックも使わず何十万個も積み上げることなど出来ませんよね。そう考えると、建設を命じた王たちは、栄華を求める一方で自らが治める民のこともちゃんと配慮しており、だからこそ、あのような砂漠の国に高度な文明が栄えたのではないでしょうか。

東欧随一の国際観光都市プラハ(チェコ共和国の首都)には、「飢えの壁(Hladova zed)」と呼ばれる、長さ1.2キロメートルにも及ぶ石造りの城壁があります。これは貧困に苦しむ民を救うために、神聖ローマ皇帝でボヘミア王でもあったカレル4世があえて必要のない壁作りの仕事を与えたもので、善政の象徴として今に残されています。名君と仰がれたカレル4世の統治により、プラハを中心とするボヘミア地方は空前の発展を遂げ、後にカフカやドヴォルザーク、アルフォンス・ミュシャといった名だたる芸術家を生み出しました。その美しさは今もなお世界中の観光客を魅了しています。

ベルばらでは、冬の庭園を散策していたルイ16世が、樹木の氷を掻き落としている兵士たちに、
ほほう、一面すっかりこおってしまったようだな。ちょうどよかった。パリから失業している男たちをあつめて、氷かきをやらせるといい。賃金をたっぷりはずんでな
と優しく声かけする場面があります。

このエピソードを読んだ時、私は「なんて賢い王様かしら」と感じ入ったものです。
ただ施すだけだと人間のプライドを傷つけることがありますが、労働の対価として支払われるものは、物質的満足のみならず精神的な充足をももたらすからです。

そうしたルイ16世の言葉に感動した兵士たちは、
まったくかわった王さまだよ。めかけのひとりももたないで、王后陛下が豪華な毛皮を身にまとっておられるときも、ごじぶんは質素なコート一枚で……
と王の善良さを語ります。
こうした国民への思いやりが絶えず形に表れていたら、貧窮にあえぐ国民感情もまったく違ったものになっていたかもしれません。

単純な例えになりますが、芝居好きな王妃のために豪華な劇場を建設し、国中の失業者を雇うとか、王子や王女の誕生日には恵まれない子供達にもプレゼントを振る舞うとか、豊かさを民と分かち合い、愛情を示す方法はいくらでもあったと思います。
せっかく君主としての聡明さを持ちながら、それを発揮することなく、断頭台の露と消えたルイ16世の運命を思うと、彼にもう少し人間的な強さがあったなら――と惜しまれてなりません。

日本も、若い世代の非正規雇用の増大と、それに伴うワーキングプア問題が深刻化しています。働く意志があっても安定した職が無いようでは、生活はもちろん、人の心まで荒んでしまうのではないでしょうか。国力の維持発展を望むなら、意欲や能力に応じて誰もが平等にチャンスを掴めるよう、安定した雇用を創出するのは、政治経済を担う人達の務めだと思います。

国民の生活を顧みず、貴族だけで栄耀栄華を謳歌したルイ16世の治世は、「革命」という最も厳しい形で糾弾されました。
夢も仕事もない国の行く末が気になるところです。

(注)「超古代文明」とは、四大文明が成立したとされる紀元前4000年頃より以前に存在したとされる、非常に高度な文明を指す呼称で、代表的なものに、「ムー大陸」「アトランティス」などがあげられます。日本では、90年代後半、超古代文明をテーマにしたグラハム・ハンコックの著書『神々の指紋』が大ブームとなりました。

この投稿は2007年~2008年にかけて”優月まり”のペンネームで『ベルばらKidsぷらざ』に連載した原稿のリライトです。

『ベルばらKidsぷらざ 東欧ベルばら漫談』の一覧はこちら

 

ベルサイユのばら 第4巻より

国を良くするにはどうすればいいか。それは病める者にも貧しい者にも仕事を与えることだと思います。仕事といっても、人権無視の奴隷労働ではありません。労働法に則った正規の仕事、人が人として尊重され、また自らを肯定できる仕事です。人間は社会的存在であるという言葉に象徴されるように、人は社会に必要とされ、また役立つ実感があってはじめて、幸福や自己価値を感じることができます。困窮する人に安定した仕事を与えることは、精神的にも経済的にも社会的にも得策なんですね。暮らしが安定すれば、向上心が芽生え、周囲にも親切になり、飲んだり食べたり、お金も景気よく使いますから。

ベルサイユのばら ルイ16世

ベルサイユのばら ルイ16世

ベルサイユのばら (4) (マーガレット・コミックス (124))

プラハ 『飢えの壁』 Hladova zed

私はプラハは行ったことがないのですが、旅行記を見る限り、綺麗な町みたいですね。

中世の要塞都市プラハの街を一望する絶景ポイント、ペトシーンの丘へ

Praha 2005-09-20 Hungermauer-01.jpg
By Patrick-Emil Zörner (Paddy) – -, CC BY-SA 2.0 de, Link

プラハ 飢えの壁
[File:Praha Petrin Hladova zed.jpg|thumb|Praha Petrin Hladova zed]

広告
>海洋小説『曙光』MORGENROOD

海洋小説『曙光』MORGENROOD

ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

CTR IMG