焼却した遺体の調査

ブルーレイ画質が明かす特殊メイクの芸術 ~こんな凄いものを作っていた『遊星からの物体X』by ジョン・カーペンター

1982年公開、ジョン・カーペンター監督、カート・ラッセル主演のSFホラー『遊星からの物体X』のDVDが遊星からの物体X ユニバーサル思い出の復刻版 ブルーレイ [Blu-ray]として再リリースされた時、最新デジタル技術でスケールアップされた画質を見て、知人が「1980年代に、こんな凄いものを作っていたんだな」と感嘆したのを思い出します。

私もまったく同感。

なぜって、1982年、私が映画館で観た時は、画質もいまいちだったせいか、クリーチャーを手掛けたロブ・ボッティンの卓越した技術も、ジョン・カーペンター監督の緻密な演出も、そこまで伝わらなかったからです。

遊星からの物体X ユニバーサル思い出の復刻版 ブルーレイ [Blu-ray]
出演者  カート・ラッセル, A・ウィルフォード・ブリムリー, T.K.カーター, リチャード・ダイサート, トーマス・ウェイツ
監督  ジョン・カーペンター
定価  ¥ 2,268
中古 12点 & 新品  ¥ 2,268 から
5つ星のうち 4.3 (24 件のカスタマーレビュー)

オリジナルの画質。こんな感じのもやーっとした映像でした。TV地上波も同様。

こちらがデジタル処理されたHD版。画像の美しさが一目瞭然です。

私も初めてブルーレイの映像を見た時は感動しました。

こんな凄いものを作っていたのか

その一言に尽きます。

古い映画のデジタル化に心底感謝したのも、これが初めてではないでしょうか。

スネーク恋しや、ほうやれほぅ

公開当時、スネーク・プリスキンに夢中だった私は、唯一の映画ファンである友人以外に打ち明けられずにいました。あまりにも馬鹿丸出しで、こんな事が周囲にばれたら、学校に行けなくなると恐れたからです。(昔から校内イジメってエイリアン並みに凄いんだよね・・)

そんなある日、一年年上の先輩で、これまた筋金入りの映画マニアの男子学生に、恐る恐る『ニューヨーク1997』へのカルト愛を打ち明けたところ、

「好きでええやん。あれ、面白かったし。……そう言えば、今、カート・ラッセルの主演の映画、やってるで」  

「うっそーーーー!! どこで、どこで?」

「タイトル、何やったかな……物体なんとかや。帰って、新聞で調べてみ。まだ、やってるはずや」

そう……当時は映画のタイトルや上演時間を調べるのも、新聞の映画館情報が頼りだったんですね。

こちらの記事に事例があります↓
大映株式会社宣伝部 ~ 番外編 (7) 宣伝マンの功名心?
昔の映画情報は新聞広告から(その2)

言われた通り、家に帰ってから新聞で調べたら、本当にやってる。しかも、明日が最終日!

というわけで、翌日、午後の授業が終わったら、一人で映画館にすっとんで、ぎりぎりセーフで鑑賞しましたよ。

最終日の夕刻ということもあり、観客の数は10人ほど。それも男性ばかり。

座席取り放題とはいえ、ちと怖かった。(当時はシャイな女子高生だったので)

それでも映画が始まると、目がハート ❤

瞳がブルーだわ、サングラスがスネークみたいだわ、やっぱ映画っていいな、とつくづく。

カート・ラッセル

カート・ラッセル演じるマクレディ

では、高画質で何が明らかになったのか、順を追って見て参りましょう。

アメリカの南極基地でのんびり過ごす越冬隊。

そこへ一匹の犬と、狂ったように追い回すノルウェー隊員が駆け込んできます。

犬を追うノルウェー隊員

突然の出来事に戸惑うアメリカ隊員たち。銃を乱射され、命の危険を感じた隊長が、ノルウェー隊員を射殺します。

何も知らずに犬を確保する越冬隊員

犬の飼育係クラークが、シベリアンハスキー犬を保護します。しかし、この時、すでに、犬の体内には謎の生命体が寄生していたのでした。

犬の飼育係と謎のシベリアンハスキー

基地内をうろつく寄生犬。その姿は、さながら知能をもった人間の変わり身のよう。
のそのそとした動き方や、窓越しに隊員らをじーっと観察する表情が、本当に「ただの犬」とは思えないんですね。
このあたりの演出が上手い。

基地内をうろつく寄生犬

隊員らの様子を窺う寄生犬

飼育係のクラークは、寄生犬を犬小屋で休ませますが、途端に変身が始まり、ブチュブチュ、ニチャニチャの、地獄絵図と化します。

ここからは画像がグロテスクなので、見たい方だけスポイラーを開いて下さい。

突然、犬の頭が四つに分裂。中からぶちゅぶちゅの何かが飛び出す
寄生犬の頭が分裂

この場面の動画クリップは Movie CLIP – It’s Weird and Pissed Off (1982) HD でどうぞ。

崩壊する犬の擬態とドロドロの内臓、および触手
犬が完全に崩壊

この後、コピーされた犬の頭が飛び出て、ウォォォ~と吠えるのですが、この動きが作り物とは思えないほど上手いんですよね。
これを手掛けたロブ・ボッティン、なんと22歳ですよ。これは映画館で観た時も迫力がありました。

彷徨する犬の頭のコピー
正体を現す寄生犬

驚いた隊員たちは、銃弾を浴びせ、火炎放射器で焼きますが、寄生犬は擬態を重ね、巨大な怪物に変身。
犬小屋の天上を突き破って逃走します。
ぬるぬる、ベトベトの両腕がずず~っと伸びていく場面と、巨大化した寄生犬の頭がじろりとこちらを見る場面がぞぞげ満開。

最後は巨大な怪物に変身。目が気色悪い
擬態に擬態を重ねて巨大な怪物に

いったい、あの犬は何ものなのか。ノルウェー隊員に何があったのか。
真相を求めて、マクレディ(=カート・ラッセル)と数人がノルウェー基地に赴きます。

そこは完全に廃墟と化し、研究室には、絶望から自殺したと思われるスタッフの姿が。

パニックで自殺したノルウェー隊員

マクレディは基地の一室で四角に切り出された氷を見つけます。何かがここに埋まっていた模様。

氷から何かを掘り出した痕跡

マクレディさま・・

調査を進めるマクレディ

基地の外で、慌てて焼却しようとした「何か」を見つけます。

焼却した遺体

さっそくアメリカ基地に持ち帰り、調査が始まります。……つうか、こんなもの、持ち帰るなよ。。

焼却した遺体の調査

変身の途中で焼却されたと思われる、気味の悪い遺体。この悪夢のような造形はロブ・ボッティンならでは。
ちなみにこの場面は21世紀になって制作された前日譚『遊星からの物体X ファーストコンタクト』とちゃんと繋がっているんですね。後述しますが、非常に忠実に作られています。

変身の途中で焼却された顔。悪夢のような造形
変身の途中で焼き殺された

早速、医師のドクター・コッパーが解剖を始める。『エイリアン2』でも、アンドロイドのビショップがエイリアンの幼生、フェイスハガーを「すごいよ、こいつは」と嬉々としながら解剖してましたな。
マッドな科学者たち。

内臓に手を差し込むドクター・コッパー。胃袋は人間のものに近い
内臓を調べる医師のドクター・コッパー

ロブ・ボッディンの技術がいかに凄いか、ブルーレイ画像を見れば手に取るように分かります。
何が凄いって、リアルな質感。まさに「血がしたたるような」ジューシー感です。
私もこんなの作ったことがありますよ。リブ肉をオーブンで焼くのに失敗した時。

焼けただれた擬態人間の足の生々しさ。まさに人間グリル
リアルなクリーチャー

これら、全て、手作りなのですよ。CGではありません。
しかも、劇場公開時は、ここまで鮮やかな色彩ではなかったのです。
ブルーレイ画像で、初めて「凄さ」を実感しました。

ぶちゅぶちゅのエイリアンの体内。細部にまでこだわった作りとジューシー感が凄い。画像3枚
クリーチャーのジューシー感

細部にまで凝った作り

ブルーレイ高画質の威力

やがて基地内の常温で生命活動を取り戻したエイリアン細胞は次々に隊員を襲い、擬態を繰り返す。

こちらは人間コピーの最中。
もろに作り物と分かるけど、触手のグイグイと締め付ける感じが妙にリアルなんですね。

触手の動きと人間の生皮の質感がリアル
次々に隊員に寄生する

寄生されたベニングス隊員は基地の外に飛び出すが、もはや人間ではない。
手だけがエイリアンで、叫び声も獣のよう。
隊員らは戸惑いながらも、ベニングスを焼却する。

手だけがエイリアン

マクレディは死を覚悟し、メッセージをカセットテープに吹き込む。

隊員たちは互いにエイリアンではないかと疑い、基地内を不穏な空気が包む。

死を覚悟するマクレディ

パニックになる中、マクレディは、各自の血液を熱した鉄線で焼くことを思い付く。
エイリアンならば、血液さえも意思を持ち、シャーレの中から反撃するからだ。

だが、誰かが先回りして、血液バッグを壊し、検査を阻止する。

互いの疑念とストレスも頂点に達し、ついに殴り合いの修羅場になる。

殴られ、心臓発作を起こした隊員に心臓マッサージを施そうとすると……

この場面の動画クリップは Chest Defibrillation – The Thing (5/10) Movie CLIP (1982) HDでどうぞ。

隊員の腹部が真っ二つに裂け、両腕を食いちぎる
突然隊員の腹が割ける
寄生された隊員の腹部から新たな頭が飛び出す
エイリアンの擬態

マクレディたちは慌てて焼却するが、頭だけがもげ落ちる。このあたりの色使いも、ブルーレイ画像で初めて知りました。
細部まで精密に作り込まれた、特殊メイクの芸術品ですね。

寝台の上で焼かれながら頭だけがもげ落ちる
首だけ切断

もげ落ちた頭部は触手が生えて机の下に逃げ込み、カニと化します。
頭部が逆さま向いてるのが気持ち悪い。

落ちた頭部が机の下でカニに変身
カニと化した頭部

カニ化した頭部が、どさくさに紛れて、トコトコと部屋から逃げ出す演出が凄いんですね。
映画館で見た時ものけぞった。
これでもか、これでもか、の、キモさのオンパレード。

カニになって脱出する頭部

さらにエイリアンによる寄生は進み、正体がばれた隊員の顔面がぐちゃぐちゃに崩壊。
とにかくロブ・ボッティンの特殊メイクが凄いんだわ。

顔面崩壊で目玉が落ちる
顔面崩壊

最後はモンスター化したエイリアンとマクレディの一騎打ちですが、こいつの体内から、一番最初に寄生された犬の頭の擬態が再び出てくる演出が上手いのです。
行き当たりばったりではなく、エイリアン細胞が、コピーにコピーを重ねて、新たなボディを獲得する過程がきっちり描かれています。

再現される寄生犬の頭部
最初に寄生された犬の頭

映画史に残る特殊メイク職人 ロブ・ボッティン

私もロブ・ボッティンの存在は物体Xで初めて知ったのですが、その後、ハリウッド映画に登場する凄い特殊メイクの大半はロブによるものでしたね。

一番有名なのが、アーノルド・シュワルツネッガー主演のSF大作『トータルリコール』の特殊メイク。

トータルリコールの 2weeks といえば、非常に有名です。
火星に不法侵入を試みるシュワちゃんが特殊メイクで中年のおばさんに化けて入国審査を誤魔化そうとするのですが、途中で機械の不備(?)で正体がばれて、「滞在期間は?」「2週間よ、、、2週間よ、、、2週間よ、、、あわわわ」となっちゃう名場面。

次に有名なのが『ミッション・インポッシブル』のイーサンの変身。
作品に登場するマスクはロブ・ボッティンによるものです。

今はCGが主流で、ロブの出番もだんだん少なくなってきましたが、やはり昔ながらの手法は質感が違いますね。
物体Xも臭ってきそうでしょう。
映画の技術もいっそう進歩して、「臭い付き」なんてのが出てきたら、観客全員、あまりの生臭さに失神すると思います。

そこまで感じさせるのは、ひとえに職人芸。

そして、それを明らかにしたのが、30年後のデジタル技術と思うと、本当に感慨深いんですよね。当のロブ・ボッティンもブルーレイ画像を見て「オレ、こんな凄い仕事をしてたのか」と感激したんじゃないでしょうか。

Amazonでベストレビュアーの「ヒー」さんが『吹き替えは魅力ですが輸入盤の方が・・・・』というタイトルで熱いレポートをされていますが、ここまで拘る気持ちも分かります。

やはり公開当時、劇場で体験した者には特別な思い入れがあるんですよ。

多分、ブルーレイを観た往年のファンの感動のポイントは、みな同じじゃないでしょうか。

こんな凄いものを作ってたんだ、って。

Amazonカスタマーレビュー

私もカスタマーレビューを読んで安心しました。

公開当時、スネークが好きとか、ロブ・ボッティンが凄いとか、こんな話をする人もなくて、「物体Xがイイと思っているのは、世の中で私一人ではあるまいか」と誰にも言い出せず、孤独感を抱いてきましたが、全国にこれほどの同志がいたことが、やっと分かったから。

インターネットもバンザイなら、日本語吹き替え版でリニューアルしてくださったユニバーサル様にも感謝感謝です。

オタクも長生きすると、いいこといっぱいあるよ。

次なる私の楽しみは、「臭い付き 遊星からの物体X」です (´ー`)

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