21世紀の終わりか、22世紀。
恋人や配偶者が当たり前のように宇宙植民地に出張する時代になれば、遠距離恋愛も夫婦生活もずいぶんハードルが高くなるだろう。
「火星に単身赴任? 冗談じゃないわよぉ? 結婚はどうなるの? あたしのキャリアは?!」
「えっ、火星に出張? いつ帰ってくるの? 20年後? そのうち往復に10年? 子供はどうすんのっ!!」
人類の次のフロンティアは月や火星に違いない。
しかし、恋人や配偶者がその仕事に従事すれば、意味合いもずいぶん違ってくる。
10年、20年、離ればなれは当たり前。
……というか、家族そろって宇宙赴任はやむをえない流れ。
その時、都合よく、超時空要塞マクロスみたいなのが地球に落ちてくればいいが、そう訳にもいかず、置いてきぼりをくったパートナーは、毎晩、輝く月夜を恨みの眼差しで見上げながら、「やっぱり付いて行けばよかった」と、ほぞを噛むんだろうな。
*
そんな宇宙の果てから、久々に恋人から電話を受け取った模様を歌っているのがThe Rah Bandの『Clouds Across the Moon』。
歌詞はまったく違うが、そんな雰囲気。
『Clouds Across the Moon』というヒット曲も、The Rah Bandというバンドも、知っている人の方が稀だろう。
私もSpotifyを通して、つい最近知った。
Googleで調べてみたけれど、日本語の情報もほとんど上がらない。
唯一、松竹剛さんのブログに詳しい解説が上がっていたぐらい。
曰く、
The RAH Bandはストリングスのアレンジャーとして60年代から活躍するRichard Anthony Hewsonというイギリス人の一人バンド。RAHは名前の頭文字です。アレンジャーとしての仕事で一番有名なのはビートルズのアルバム「Let It Be」で、「The Long and Winding Road」「I Me Mine」「Across the Universe」が彼の手によるものです。他にもJigsaw「Sky High」なんかも彼の仕事です。
ジグソーの「Sky High」! ジグソーといっても、ホラー映画『SAW』の「Make your choice」のおっさんではございません。
シンフォニックな曲調で一世を風靡した70年代の代表的なヒット曲です。
あれを手がけた人なら、これほど美しく個性的なメロディが書けるのも納得。
The Rah Band も宇宙的な広がりのあるテクノポップではあるけれど、旋律の美しさとアレンジメントの密度においては一線を画しています。
だから、何度聴いても飽きない。
たとえるなら、宇宙神がジュークボックスに乗って降臨した感じ。
サウンドは機械的だけれど、旋律や和音の一つ一つが丁寧に作られ、BGMとして聞き流すには余りにもったいない曲ばかりです。
アルバム『Something About the Music』のジャケット。
このヘッドホンした宇宙人みたいなのがカワイイ
まず代表的な『Clouds Across The Moon』。
恋人同士のスイートなやり取りと、遠い昔の黒電話を思わせる演出が素敵。
カヴァーした日本人歌手もあるようですが、なるほど、サビが80年代の歌謡曲っぽいです。
これを聞いていると、宇宙赴任も悪くないな……というか、恋人同士は離れている時が一番楽しいんじゃないかと思ったりもします(´。`)
私の好きな曲『Rock Me Down to Rio』。
リオのカーニバルを思わせるブラジリアンなノリが「音楽に理屈はいらない。楽しければ、それでいい」という事を思い起こさせる。
さびの「ロック・ミィ・ダウン り~お」の部分がたとえようもなく脳天気で嬉しい。
『Shadow of your Love』
80年代、こういうノリのヒット曲がたくさんありました。
一度聞いたら忘れられない主旋律に、繰り返されるサビ。
The Rah Bandの魅力は、メロディとメロディの追いかけっこみたいなアレンジメントにあります。重層感とでもいうのですか。合いの手となる裏旋律も作り込まれていて、さながらテクノの交響曲ーを聴いているよう。深みと広がりがああります。
女性ヴォーカルも透明感があって、とってもキュート。
『Performed Garden』
いきなり「カム・ウィズ・ミィ~」で始まるメロディが素敵。これもStrings入りとか、Asid風Remixとか、いろんなバージョンがあるけど、やはり、このオーソドックスなサウンドが一番好き。
一世紀、二世紀後の若者はどんな音楽を聴いているのかしれないけど、こういうのはマニアからマニアに口コミで受け継がれ、ずっと残るんじゃないかな。
思うに、The Rah Band の楽曲にはストーリーがあるんですね。
クラシックの交響曲やピアノ曲みたいに、数分間の中に「起承転結」があって、「はい、これがサビ。これが掴み」と、シナリオが見える。
淡々と流れ、淡々と終わる、その他のヒット曲と違い、「はい、ここで盛り上がりますよ」というシナリオに添って曲が展開するので、聞く側も安心するし、心に残りやすい。
以前、ゴーストライターの交響曲の設計書うんぬんという話があったけれど、実際、曲作りにもシナリオが存在するんだろう、というのは何となく分かります。
では、その核になっているのは何かと問われれば、やはり基礎的な知識と音楽のセンスでしょう。
鼻歌なら誰でも作れるけれど、レイヤーのある楽曲を作るには、曲の設計図がマッスとして浮かぶ、というのが重要なポイントかもしれませんね。
私のSpotifyリストです。いつか機会があれば、是非。
アイテム
Amazonで一曲からダウンロードできます。興味のある方はどうぞ。
アルバムもたくさんあるのですが、私の一押しは上記ジャケット写真の『Something about the music』。こちらはMP3のバラ売りで、アルバムとしては売ってないみたいです。
上記のShadow of Your Loveなど、ヴォーカル主体の楽曲が収録されています。