動物の謝肉祭

音楽と子供の想像力が出会う時 サン=サーンス『動物の謝肉祭』(レナード・バーンスタイン)

私が初めて自主的にクラシック音楽のレコードを買ったのは七歳の時。ピアノの先生宅でサン=サーンス『動物の謝肉祭』を聴いたのがきっかけでした。
何の情報も先入観もなく、初めて耳にした『動物の謝肉祭』は、それはそれはカラフルな印象でした。
それまでショパンやベートーヴェンのピアノ曲ばかり聴いていたので、余計で、フルオーケストラの音色が華やかに感じられたのだと思います。

先生宅から戻った私は、すぐにもLPレコードが欲しくて、当時、四条通りでもピカイチの存在だった十字屋さん(今はJUJIYAという)に電話をかけ、「『どうぶつのしゃにくしゃい』はありますか?」と嬢ちゃん声で尋ねたもの。七歳の私には、『謝肉祭』の意味さえ分からなかったのです。

それでまあ、「置いてますよ」とのことで、その日のうちに買いに行ったのですが、それはもう嬉しくて嬉しくて、毎日レコード針がすり切れるほど聞いたものです。今でもジャケットの絵柄、ライナーノーツ、ユニークなナレーション、レコード針のプチプチ・ノイズまで、鮮やかに記憶しています。

しかしら、一つだけ、どうしも思い出せないことがありました。

それは「誰の演奏だったか」ということです。

子供の私は、そこまで知恵も回らず、社会人になって家を出た時、レコードも処分してしまった為、知る手がかりもありませんでした。

そして、思い出せないまま、若い頃から大好きなシャルル・デュトワ&モントリオール交響楽団のCDを購入し(フランスものはデュトワで決まりだった)、それをずっと聞いていたのですが、最近、ふとSpotifyで検索できることを思い出し、あれこれ探し回ったところ、『レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団』と分かった次第です。

どこで、それと分かったか……といえば、『第7曲「水族館」 (Aquarium)』のピアノ&グロッケンシュピールと、『第10曲「大きな鳥籠」 (Volière)』のフルートのテンポ、そして、『第12曲「化石」 (Fossiles)』の木琴です。

何より、このアルバムでは、チェロの名曲で知られる『第13曲「白鳥」 (Le cygne)』が、チェロではなく、ダブルベース(コントラバス)で演奏されているのが特色です。私はこれが標準だと思っていたので、大きくなってから、正規のチェロ版を聴いた時、「あれ?ピッチが高い」と不思議に感じたぐらい。ダブルベースの「白鳥」が記憶を決定づけるものだった……というのも印象深いです。

やはり長く、深く、慣れ親しんだ音は、絶対に忘れないですね。

こちらはナレーション入りですが、私が購入したレコードでは、男性声優が吹き替えており、語りも非常にユニークなものでした。「これはじゃな、水の音を表しておるんじゃな」みたいな。

ちなみに、『動物の謝肉祭』のカプリングは『ピーターと狼』が多いのですが、私が購入したバーンスタイン版はブリテンの『青少年のための管弦楽入門』がB面に収録されていて、子供心にめちゃくちゃ怖かった思い出があります。これもナレーション付きで、ユニークな構成だったのですが、ティンパニやムチの音が怖くて、魅力を理解するまで数年かかりました。

それでは、一つずつ、見ていきましょう。

第1曲「序奏と獅子王の行進曲」 (Introduction et marche royale du lion)

初めてピアノの先生のお宅で聴いた時、『動物の謝肉祭』というタイトルを教えてもらったのですが、『しゃにくさい』という言葉を知らなかった私は、動物の子守唄みたいな曲を想像していました。(ぞ~うさん、ぞ~うさん、おはなが長いのね~ みたいな)

ところが、のっけから、キラキラ、トゥルトゥル……華麗なピアノのトリルで始まって、目が覚めるような衝撃で。

生まれて初めてがっつり聴いた交響曲だったので、余計で重奏の華やかさに胸を打たれたのかもしれません。

「ああ、これライオンや」と言ったら、「そうよ、ライオンよ」と正解だったのも嬉しくて、のっけから引き込まれたんですね。

第2曲「雌鶏と雄鶏」 (Poules et coqs) & 第3曲「騾馬」 (Hémiones)

私のレコードのナレーションでは「バイオリンがコケコッコーと鳴くのです」みたいな解説で、ああ、ほんまや、コケコッコーって鳴いてるわ、って。

そういうのが嬉しいんですよね。

それに続く、騾馬の猛烈なピアノの速さ。人間の指がここまで速く動くのかと子供心に衝撃で、私も演奏に合わせて、指を動かしてみたけど、とても追いつかず、ああ、私にはピアニストは無理だなと、早々に断念した記憶があります(´。`) だって、すごく速いんだもん!

第4曲「亀」 (Tortues)

バーンスタイン版の秀逸なのは、元ネタとなったオッフェンバッハの『天国と地獄』の旋律をナレーションの中で紹介している点です。
これは私の持っているレコードにも入ってました。
ああ、音楽って、いろんな風にアレンジできるんだ、と子供心に感動したもの。曲自体は退屈ですけどね、子供には。

第5曲「象」 (L’éléphant)

可愛い曲なんですけど、子供の私には退屈で、ここだけいつも集中力が途切れてました。象はいらん、みたいな。

第6曲「カンガルー」 (Kangourous)

カンガルーのイメージは分かるのですが、このカンガルーはどう見てもビッコで、あまり健康的に感じられなかった記憶があります。
今でもビッコのカンガルーしか思い浮かびません。
なぜ途中で立ち止まったりするのでしょうか。
一定のリズムでぴょんぴょん跳んでいただきたいものです。

第7曲「水族館」 (Aquarium)

組曲の中で一番好きだった『水族館』。
レコードが猛烈に欲しくなったのも、水族館をもう一度聴きたいが為です。
水が光のように煌めいて、世の中にこんな美しい音楽があるのかと、いつも息を潜めて聴いていました。

しかしながら、レコード盤というのは、曲ごとにスキップする機能がなく、水族館を聴きたい時は、「だいたい、このあたり」とレコード針を目分量でレコード盤に落とさなければならなかったんですね。少しでも位置がずれると、私の嫌いな『象』がかかったり、先に行き過ぎて、耳障りな『耳の長い登場人物』がかかったりするので、けっこうイライラさせられました。
それだけに、針の位置がきれいに『水族館』の所に落ちると非常に嬉しかったものです。

ちなみに、子供の私はグロッケンシュピールという楽器がどういうものか分からなくて、小型ピアノを想像していたのですが、高校で吹奏楽部に入った時、木琴のメタル版と知って、非常に感動したものです。

第8曲「耳の長い登場人物」 (Personnages à longues oreilles) & 第9曲「森の奥のカッコウ」 (Le coucou au fond des bois)

子供心に何がおかしかったか、といえば、『カッコウ』です。
クラリネットが「カッコウ」とさえずるのが、なんともいえず間抜けで、ピアノの先生宅でも、クラリネットが「カッコウ」と鳴く度、生徒同士、顔を見合わせて、くすくす忍び笑いしていました。
姉貴ともよく我慢大会してました。最初に吹いた方が負け、みたいな。

第10曲「大きな鳥籠」 (Volière)

この曲も大好きでした。フルート=鳥のイメージができたのも、この曲の影響。

第11曲「ピアニスト」 (Pianistes)

下手くそなピアニストも動物に含まれる、皮肉のきいた曲です。私もこのレベル。

第12曲「化石」 (Fossiles)

『動物の謝肉祭』といえば、『白鳥』がダントツに有名ですが、私は『化石』こそサン=サーンスの真骨頂に感じます。編曲の点で。
子供心にも、次から次に繰り出される主題が魔法みたいで、何度聞いても感心したものです。
特に木琴の音色が本物の骨みたいで、たまにヤッターマンの『ドクロベエさま』を想像していました。

第13曲「白鳥」 (Le cygne)

代表的な楽曲ですが、子供心にはほとんど響かなかったんですよね。どちらかというと退屈で。
こういう曲は大人にならないと良さが分かりません。
バーンスタイン版ではダブルベースで演奏しています。チェロ版とはまったく音色が異なり、古時計のような趣があります。

第14曲「終曲」 (Final)

これも『化石』に次ぐ名曲に感じました。次々に繰り出される主題が本当に素晴らしくて、最後の方も涙目になるほど。
目の前に、それぞれの動物が鮮やかに浮かんで、まるで宝塚のフィナーレみたいに手を振っているような印象で、子供心にも「まとめ方が上手い」というのが理解できるほどです。

その他の演奏

『化石』の元ネタとなったサン=サーンス自身の『死の舞踏』。アニメにしたらこんな感じでしょうね。

『死の舞踏』に関しては、シャルル=デュトワ&モントリオール交響楽団が好き。後半の盛り上げ方がいい。
一度だけ、来日公演に行ったことがありますが、写真の通り、デュトワの額が神々しくて、嬉しかった記憶があります(何のこっちゃ)

ちなみに、この曲との最初の出会いは、やはり7歳か8歳頃で、ピアノの先生に、京都大学の交響楽団の定期コンサートに連れて行ってもらったのがきっかけです。『死の舞踏』がプログラムに入っていて、当時、コンサートマスターだった牛島さんという方のバイオリンソロが子供心に素晴らしかったのです。この曲も非常に想像を掻き立てられる、映像的な楽曲ですよね。

『白鳥』は、ミーシャ・マイスキーが好きでございます。ヨー・ヨー・マとか、デュプレとか、ロストロボーヴィチとか、有名な方はたくさんいらっしゃいますが、白鳥はマイスキーがよろしいのです。

その他 → マヤ・プリセツカヤの『瀕死の白鳥』~THE DYING SWAN~ サン・サーンス作曲

CDはこちら

日本では、『交響曲第3番 オルガン付き』『死の舞踏』『動物の謝肉祭』のカプリングなんですね。
全体にバランスよく、好きなアルバムの一つです。

サン=サーンス:交響曲第3番<オルガン>/動物の謝肉祭、他
by デュトワ(シャルル), サン=サーンス, ロジェ(パスカル), モントリオール交響楽団, フィルハーモニア管弦楽団, オルティス(クリスティーナ), ハーフォード(ピーター), ロンドン・シンフォニエッタ (CD)
定価  ¥ 1,650
中古 28点 & 新品  ¥ 972 から
5つ星のうち 4.2  (14 件のカスタマーレビュー)

レナード・バーンスタインの『動物の謝肉祭』(Spotifyと同じ)は、こちらのCD。Amazonでも試聴できます。
ナレーション入りですが、英語です。
日本語吹き替えのは、もう音源も存在しないのかもしれないですね。残念です。

■「ヤング・ピープルズ・コンサート」シリーズなどで、若年層向けのクラシック音楽普及に熱心であったバーンスタインならではの1枚。子供向けに書かれた近現代管弦楽の名作を、指揮者バーンスタイン自身も語りを務めてナヴィゲートしてゆく。演奏は子供の感性に訴え得る優れた内容で、2人のナレーターの解説も愛情に溢れた語り口が好ましい。「動物の謝肉祭」のソロは当時気鋭の若手奏者がつとめ、「白鳥」のソロは21歳のゲーリー・カーがコントラバスで弾いている。(Amazonより)

ということなので、私の子供心にビンビンに響いたのも頷ける話です。

プロコフィエフ:ピーターと狼&サン=サーンス:動物の謝肉祭他(期間生産限定盤)
by (CD)
定価  ¥ 1,016
中古 8点 & 新品  ¥ 972 から
 (0 件のカスタマーレビュー)

シャルル・デュトワ指揮 モントリオール交響楽団:ライナーノーツより

組曲『動物の謝肉祭』について

作曲年代:1886年の初頭

この曲はサン・サーンスの友人で、チェロ奏者のC.J.ルブークが、毎年春灰の水曜日に始まる四旬節の前に催す、プライヴェートな音楽のソワレ(夜会)で演奏するために作曲された。

1866年3月9日の初演の時には、サン・サーンス自身とパリ音楽院の名教師ディエメの二人がピアノを弾き、その夜会のホストのルプークが<白鳥>のソロ、またタファネルが<大きな鳥かご>のフルート・ソロをとるなど、当時フランスの第一線暮らすの音楽家が総出演したと伝えられる。また数日後にはパリ理工科大の学生たちによる室内楽コンサート『ラ・トロンペト』でも再演され、さらに評判を聞いたリストの熱心な希望で、4月2日、名歌手ポーリーヌ・ヴィアルドー・ガルシアの自邸でも演奏された。

ところがこの三度にわたる非公開のコンサートの後、サン・サーンスはこの曲の演奏と楽譜の出版を「自分が死ぬまで」禁止したのである。その理由として、この曲はあくまで音楽家同士が私的に合奏を楽しむために書かれたもので、各局にはラモー、ベルリオーズ、オッフェンバック、ロッシーニといった、御h化の作曲家の手による旋律を引用フレーズとしてパロディー的に拝借していることもあって、道義的にも公にするのを謹んだのだろう。

だが、この中の13曲目に当たるチェロとピアノのための<白鳥>のみは、全くのサン・サーンスによるオリジナルであるため、演奏も出版も許可したが、この優雅な小曲について、「これは私の魅力を描写した曲だ」と言う声が何人もの婦人たちの間から起こって、作曲者自身は返答に窮したというエピソードが残されている。

なおこの曲は普通”組曲”と表示されているが、元来は≪動物手学的大幻想曲≫という、まことにふざけたタイトルがつけられている。

同様のエピソードは、ラヴェルの名曲『亡き王女のためのパヴァーヌ』にもあります。この曲は私に捧げられたと、上流の婦人の間で喧嘩になったとか、なんとか。

まあ、気持ちは分かるけど^^;

交響詩『死の舞踏』について

作曲年代:1874年

サン・サーンスは、リストの影響を受けて、4曲の交響詩を残しているが、アンリ・カザリスの詩を基にしたこの今日が、最もポピュラーな人気を持っている。

詩の大意は「木枯らしの吹きすさぶ寒い夜、死神は墓から出てヴァイオリンを弾く。青白い骸骨は、そのヴァイオリンに合わせて闇の中で踊る。やがて暁が近づき、鶏が鳴く。骸骨は慌てて踊りを止め、再び暗い墓の中に消える」

曲はおよそこの詩に従って作曲され、真夜中を告げるホルンとハーブの音で始まり、つづいて独奏ヴァイオリンが神秘的な旋律を奏でる。骸骨の踊りには木琴が加わり、骨の触れあう音を描写する。すると突然鶏鳴がオーボエで奏され、暁の近づいたことを告げる。死神の弾くヴァイオリンは次第に力を弱め、弱々しい木琴と弦のピチカートで、曲は消え入るように終わる。

この曲も非常に映像的で、一つ一つの場面が目に浮かぶようでしょう。

ちなみに、私が初めてこの曲をコンサートで聴いた時、パンフレットに綴られた『死の舞踏』の「ぶとう」が読めなくて、ピアノの先生に聞いたら、「しのぶとう」と仰ったのだけども、私の耳には「死のブドウ」に聞こえて、舞踏という漢字が読めるまで、ずっと「死のブドウ」=果物のグレープと思い込んでいた経験があります^^;

シャルル・デュトワ&モントリオール交響楽団について

1936年10月7日、スイスのローザンヌに生まれた。アルチェオ・ガリエラに指揮法を師事し、1959年にはボストンで、シャルル・ミュンシェの教えも受けた。同年ローザンヌ大学合唱団、63年にローザンヌ・バッハ合唱団の指揮者になり、67年にはパウル・クレツキの後任として、ベルン交響楽団の首席指揮者に就任。1970年に万国博クラシックスのため来日し、スイス・デイのコンサートで読売日本交響楽団を指揮した。1978年にはカナダのフランス語圏の最大の都市、モントリオール交響楽団の音楽監督に就任、以来、このオーケストラの育成に専念し、メジャー・オーケストラに躍進させた功績は大きい。

モントリオール交響楽団は、1934年創立のオーケストラで、ロザリオ・プールドンを初代指揮者に、38年に就任したウィルフレッド・ペレッティエが躍進させ、戦後はデジレ・ドゥフォー、イーゴリ・マルケヴィッチ(55)、ズービン・メータ(60)、フランツ・パウル・デッカー(67)、ラファエル・フリューベック(75)とつづき、78年よりデュトワの時代が始まった。 

シャルル・デュトワ モントリオール交響楽団

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