靴 Notes

本当は自由なんかちっとも欲しくないくせに

刺青、と言ってもただの刺青じゃないんだ。「自由」って彫ったんだよ、お姉さん、右腕のつけ根のところに。
夏美
自由 って?
そうだよ、自由だよ(シャツをめくって)見てごらん!
夏美
本当は自由なんかちっとも欲しくないくせに

戯曲 毛皮のマリー・血は立ったまま眠っている (角川文庫)

『自由』という言葉は水戸黄門の印籠だ。自由の名の下には誰も逆らえない。

表現の自由、選択の自由、個人の自由、国家の自由、etc

絶対正義で、永遠の理想。

もちろん、その通りだが、自由が人間を幸せにするかといえば、決してそうではなく、自由の為に道半ばで迷っている人もたくさんいる。

自分の好きなようにできて、なおかつ生活も保証されるような自由など、どこにも無いのだけれど、こと『自由』に関しては、魔法の杖のように語られることが多い。

自由の本質は、孤独で、不安定で、脆いものだ。

口では自由を叫びながら、本質的には、支配され、庇護されたがっている人も多い。

自由を求めながら、その場を離れようとしないのは、自由のリスクを負う勇気がないからだろう。

自由は人間と社会の解放者ではあるけれど、同時に孤独と不安をもたらす死に神でもある。

生き神と死に神と、同時に手なずけながら道を切り開けるものは少ない。

良も、自由に憧れるだけ、本当のところ、自分が何を為すべきか、この世に何が必要かなど考えちゃいない。

自由という言葉がもつ開放的な響きに憧れているだけで、自分の立ち位置や本当の望みさえ分かってないような気がする。

『自由』は他人に認めさせるものではない。

己の中に深く静かに宣言するものである。

きみは海を見たことってある? ぼくねえ。ことしの夏はじめてみたんだけど海ってのはあれはやっぱり女なのだろうか? 海はフランス語で女性名詞なんだけど。そうそう自由はどっちだと思う。ラ・リベルテ、女だ。女なんだな、自由ってのは……ぼくは自由に恋していたのだ!
 戯曲 毛皮のマリー・血は立ったまま眠っている (角川文庫) (文庫)
 著者  寺山 修司
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