建築

コンペで勝てなくてもアイディアは残る 安藤忠雄の『連戦連敗』より

今、安藤忠雄氏の自叙伝的建築論『連戦連敗を読み始めたところ。

安藤忠雄氏に関しては、新国立競技場コンペのすったもんだで、ちょっとがっかりしたところがあり(もう少し納得のいく声明を出されるかと期待していたのだけど)、しばらく距離を置いていたのだけど、やはり話は面白いし、考え方に共感する部分も多い。 コンクリート打ちっぱなしのアパートは私には合わなかったけどね(^_^;)

気に入った箇所をピックアップ。

内容的に充分自信のあるものができた場合でも、大抵はこちらの提案が過剰・過大であるがために実際に課されている諸条件を逸脱してしまい、非現実的であるという理由でおとされてしまう。しかしコンペで勝てなくてもアイデアは残る。実際コンペのときに発見した新たなコンセプトが、その後に別なかたちで立ち上がることもある。
そもそも、実現する当てもないプロジェクトを常日頃から抱え、スタディをくり返し、自分なりの建築を日々模索していくのが建築家だろう。
だから、連戦連敗でも懲りずに、幾度もコンペに挑戦し続ける。建築科の資質として必要なのは、何をおいてもまず心身ともに頑強であること。これだけは間違いない。

これは建築に限らず、すべてのアートに共通していえること。

とりわけ、建築は、どれほど素晴らしい設計をしようと、才能に恵まれようと、実際に施主がつき、建築許可が下り、職人が機能して、仕様書通りに仕上がらないことには報われない。中には、実作には結びつかなくても、斬新なデザインを打ち出して、哲学的に問いかけるアンビルト・アーキテクトの分野もあるけれど、やはり自分の設計した建物が実際に建設されて、スケッチブックの絵が具象化する手応えに勝るものはないのではないか。

その点、音楽や小説やマンガや陶芸は、いつでも自分でアイデアを具体化できて、大きなリスクを負うこともない。下手な絵を描いても、せいぜい笑いものになる程度。自分の設計がまずいが為に、屋根が崩落して人が死んだり、工費が異常に膨らんで社会的問題になったり、あまりにも奇抜でありすぎるが為に地元住民や文化保護団体に恨まれたり、ということはない。いわば、自分だけのクリエイティブな世界で、何をどのように描こうと自由だ。だが、建築は違う。まず物理という絶対的な法則があり、建築基準法という法的な縛りがある。おまけに実作するには何千万、何億、時には何十億という費用を要するし、「デザインに失敗したから、最初から描き直します、エヘヘ」と消しゴムで修正するわけにもいかない。家屋のデザインにしても、商業ビルの設計にしても、マンガ読者みたいにそこら中に需要があるわけでもなし、一生のうち、実際に建設できるのは何点か……という世界だ。
そんな限られた世界で、常に神経を研ぎ澄まし、落選も覚悟で最高の作品を作り続ける、って、メンタルが強くなければ、絶対にできない。数時間集中的にデスクワークしただけで、へとへとになるような虚弱体質でも無理だろう。

クリエイティブなものに憧れ、努力してます、という人も多いが、連戦連敗でも続く人はどれくらいいるだろう。

失敗続きでも、そこから学び取れる人は。

どこの世界でもコンクールで優劣が決まったり、コンペに落選するのは辛いものだが、『コンペで勝てなくてもアイデアは残る』というのはその通りだと思う。

この世にはいろんなノウハウがあるが、突き詰めれば、毎回真剣勝負で、新しいものを作り続けることが実力を磨く最短コースであり、王道だろう。

もしかしたら、一生、実作する機会がない建築家の無念を思えば、漫画家志望とか、作家志望とか、ミュージシャン志望とかいうのは、ほんと気楽でよろしい。

最初から物事を見切って、高みの見物を決め込むよりは、連戦連敗でもいいから、作り続ける人生の方が面白いよね、と思うのは、私だけではないはずだ。

20人程度の設計事務所なのに、年にいくつもの大規模なコンペ・プロジェクトに参加するから、それをこなそうとしているうちに、気がつくとスタッフ全員がいずれかのオンペにかかりきりになっているという状況もめずらしくはない、もちろんその一方で、契約された職業的建築家としての仕事もきっちり完遂していかねばならない。スタッフは肉体的、精神的に疲弊しきっている。特に敗退が続いたあとの新たな挑戦は応えるようだ。コンペの招待が来るとスタッフは一様に「またコンペを闘うのか」と諦めともつかない表情をする。

しかし、そのようなギリギリの緊張状態の中にあってこそ、創造する力は発揮される。

敗けて、敗けて、またコンペ。

一度落選したくらいで、もう止めます……と自信なくして、スゴスゴ引っ込んでるようではダメと。

生きるとは何か、人間の生とは何か、その答えは一人一人が、それぞれの生き方を通じて表すものである。私もできるならば、カーン(建築家ルイス・カーンのこと)のように闘い続ける生き方を選びたい。自分の信じる道を最後まで貫き通したい。
カーンの遺した言葉の中に、私がこれまで目にした中で最も気に入ってるものがある。
「……創造とは、逆境の中でこそ見出されるもの

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