カーク・ダグラスって、見れば見るほどマイケル・ダグラスに似てる。
って、ちゃうちゃう。マイケル・ダグラスがカーク・ダグラスに似てるんだよ(←カーク・ダグラスの息子)。
そんなカーク・ダグラス主演の映画『スパルタカス』と言えば、共和制ローマ期に起きた「第三次奴隷戦争」を題材にした古典的名画。剣闘士(グラディエーター)のスパルタカスに率いられたこの大規模な戦いは、「スパルタカスの反乱」と呼ばれ、映画、小説、バレエなど、様々な作品に描かれてきました。
1960年、かのスタンリー・キューブリックを監督に迎え、カーク・ダグラスが制作の総指揮をとった『スパルタカス』もアカデミー賞を総ナメにし、ハリウッドの古典として今も評価が高いです。
私はバレエ『スパルタカス』のファンなので、映画の方はまったく興味なかったのですが、最近、ビル・エヴァンスの名曲『Love Theme from Spartacus』を知り、旋律の美しさに魅了され、この映画に行き着いた次第。
映画自体は、やはり『ベン・ハー』のインパクトが強いので、ちょっと見劣りするかなという感があるけども(人によってはベン・ハーより上と評価)、まず音楽『愛のテーマ』が美しいし、役者もローレンス・オリビエ、ピーター・ユスチノフなど名優ぞろい。戦闘シーンは動きもスローだし、一つ一つのカットが長いせいか、今風のアクション映画になれていると物足りなく感じますが、やたら首が飛んだり、血しぶきが出たり、剣が突き刺さってグエ~と悶えたりしないので、気持ち良く鑑賞することができます。
本来、戦闘の描写はこの程度でいいんじゃないかな、今がやり過ぎなんじゃないか、と思わずにいないほど。
監督は『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』といった大作を手がける以前のスタンリー・キューブリックで、Wikiによると、制作総指揮にかかわったカーク・ダグラスとは意見が合わず、作品や制作サイドの批判をしていたことから、カークにも「才能のあるクソッタレ」呼ばわりされていたとのこと。
確かに『時計じかけのオレンジのキチガイじみた暴行シーンや、両目を金具でこじあけて残虐な動画を見せ続け、少年を矯正する場面などと比べると、『スパルタカス』は優等生的で、きれいにまとまりすぎている印象がなきにしもあらずだけども、剣闘士が殺される場面のさりげない道具使いとか(木の板の隙間から闘技場を撮影し、血や殺戮場面を見せずに殺されたことを示唆する)、女声の裸体を影の中に浮かび上がらせる手法とか、やはり上手いです。
そして何より素晴らしいのは、スパルタカスとヴァリニアの愛の眼差し。
最近の作品がやたら「脱ぐ」「絡む」で、愛し合ってることを表現するのになんでそこまでハードな濡れ場を演じにゃならん? と突っ込みたくなるだけに、この作品の温もりに満ちたラブシーンは胸に迫るものがあります。
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奴隷として自由を奪われているのは女性も同じ事。彼女たちは順繰りに剣闘士にあてがわれ、夜の相手をさせられます。
そしてスパルタカスの独房に送られたのが美しいヴァリニア。「女性は初めてだ」というスパルタカスは、恐る恐る彼女の肌に触れ、長い髪を愛撫します。
が、突然、独房の上から嘲るような声が。
なんとローマ兵たちは独房の格子窓から剣闘士の性行為を覗き見、笑いものしていたのです。
「オレは動物じゃない!」と叫ぶスパルタカスに、「私も動物ではないわ」と答えるヴァリニア。知的で気品のあるヴァリニアの美しさに心ひかれたスパルタカスは彼女に衣類を着せ、互いの人間性を尊重します。
女奴隷は台所などの下働きもしていますが、剣闘士と交流することは許されていません。
が、そんな禁忌をおかしても、スパルタカスは給仕に来たヴァリニアに「彼らは君を傷つけたりしなかったかい?」と優しく尋ね、その手を握りしめます。
ほんの一瞬なのですが、ロミオとジュリエットのような切なさと、あふれるような恋心が感じられ、とても美しい場面に仕上がっています。そっと触れ合う手をアップで映したキューブリックの感性もいいですね。
『スパルタカス 愛のテーマ』がまた泣かせます。
その死を見世物にされる剣闘士。共に励まし、支え合った仲間でさえ、どちらかが死ぬまで戦わなければなりません。
出場者に選ばれた四人が闘技場に着くまでの、切なくも緊迫した雰囲気が印象的な場面です。
この日はローマの将軍クラックスが美しい婦人達を伴い剣闘士の競技を楽しみますが、スパルタカスにとどめを刺そうとした剣闘士がとった行動は意外なものでした・・。
↓ この場面、スパルタカスの前に他の剣闘士二人が戦うのですが、その最期を木の板の隙間越しに撮ってるのが好きなんですよね。あえて殺しの場面をモロ出ししない、死の順番を待っている残り二人の方に視点を置くことで緊張感を高め、剣闘士の悲運をより強く感じさせる演出になっているように思います。
クラックスに見初められたヴァリギアは、ローマへと売られて行きました。それを目にしたスパルタカスはついに決起。仲間も力を合わせてローマ兵と戦い、収容所から脱出します。
スパルタカスを指導者とする反乱軍は、ローマに虐げられた人々の支えもあって、数万の規模に膨れあがります。それに対し、ローマはクラックスを指揮官とする大軍団を投じ、討伐に乗り出します。
圧倒的な力の差により反乱軍は敗北し、クラックスは「首謀者のスパルタカスを差し出せば、他の者の命は助けてやる」と捕虜に呼びかけますが、スパルタカスを心から信じる捕虜たちは、「俺がスパルタカスだ!」と次々に名乗り出、クラックスはスパルタカスその人を捕らえることが出来ません。
↓ 「ブレイブ・ハート」や「グラディエーター」に比べると小学校の騎馬戦のような感じで、「血みどろの戦い」にはとても見えないけれど、腕が富んだり、顔に弓矢が突き刺さったり、とか、もういい加減、ウンザリでしょ? やっぱ、これぐらいでいいんじゃないかなー、なんて思います・・。
そうして捕虜達は次々にアッピア街道に磔にされ、その数は6000にものぼりました。やがてスパルタカスの存在に気付いたクラックスは、最後まで生き残った彼の友人アントイナスとデスマッチを要求し、生き残った方を磔にすると命じます。アントイナスは「俺にお前を殺させろ。お前を磔刑になどさせるものか(磔の方がより酷い苦しみを与えるため)」と言いますが、スパルタカスはアントイナスを絶命させ、自ら磔を選びます。
同じくローマに捕らえられたヴァリニアはクラックスの求愛を受けますが、それをきっぱり拒絶し、かつての敵だったバタイアス(剣闘士収容所の長)の手引きにより脱出します。そして、アッピア街道で磔にされたスパルタカスに生まれたばかりの息子の顔を見せ、「この子は自由になったのよ」と告げると、新しい命と人生のために遠く旅立って行くのでした……。
剣闘士を描いた作品と言えば、リドリー・スコットの『グラディエーター』も有名ですが、キューブリックの『スパルタカス』は、「自由への戦い」をより色濃く描いており(グラディエーターは将軍マキシマスの復讐がメインですが)、『freedom』がキーワードになっています。ちょっとプロパガンダな匂いがしないでもないですが、1960年代のハリウッド大作はどれも「共通の匂い」がするので、素直にエンターテイメントとして楽しめば気にならないかもしれません。
それにしても、この頃の映画はセリフも綺麗でシンプルだし、俳優さんの発音も明瞭で分かりやすいし、『良質』という言葉を絵に描いたような傑作が多いですよね。
しかも美男俳優はギリシャ彫刻のように顔立ちが整い、女優も気品があって、立ち居振る舞いが美しい。
アン・ハサウェイやペネロペ・クルズのような現代風美女もそれはそれでカッコイイとは思うけど、本来、銀幕のスターというのは、侵しがたい美しさをもち、手に届かない存在だから「スター」と呼ぶんですよね。
ともあれ、カーク・ダグラスの渋い魅力と古典的名画の品が輝く『スパルタカス』。
現代ハリウッド映画の騒々しさに疲れたら、ぜひ土曜の夜にのんびりご鑑賞ください。心があらわれますよー。
ビル・エヴァンス
『Love Theme from Spartacus(スパルタカス 愛のテーマ)』ジャズ・ピアノの傑作にも紹介しているビル・エバンスの傑作です。繊細で美しいピアニズムに酔いしれてください!
キューブリック
キューブリックといえば、ワタシ的には「時計じかけのオレンジ」。
映画ファンなら、これは一度、見ておいた方がいいです。
暴力とかアクションとか、単純にカテゴライズできない世界がここにはあります。
着想そのものが芸術というか、タダモノじゃないですよ。
これを支援し、公開に踏み切った配給会社や制作会社もスゴイです(今じゃムリかも)。
ただし感じやすい人、下品で残酷な描写が苦手な人はご遠慮ください。
↓ 予告編のセンスからして凄い。
喧嘩、盗み、歌、タップ・ダンス、暴力。山高帽とエドワード7世風のファッションに身を包んだ、反逆児アレックス(マルコム・マクドウェル)には、独特な楽しみ方がある。それは他人の悲劇を楽しむ方法である。アンソニー・バージェスの小説を元に、異常なほど残忍なアレックスから洗脳され模範市民のアレックスへ、そして再び残忍な性格に戻っていく彼を、スタンリー・キューブリックが近未来バージョンの映画に仕上げた。忘れられないイメージ、飛び上がらせる旋律、アレックスとその仲間の魅惑的な言葉の数々。キューブリックは世にもショッキングな物語を映像化した。当時、議論の的になったこの作品は、ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀作品賞と監督賞を受賞し、アカデミーでは作品賞を含む4部門にノミネートされた。現在でも『時計じかけのオレンジ』のその芸術的な衝撃と誘惑は観る人々を圧倒する。