結婚して「心が自由になる」ということ 池田理代子の『セイリング』より

漫画家・池田理代子さんの短編に『セイリング』(収録:池田理代子短篇集 (3) (中公文庫―コミック版))という作品があります。

主人公は大学を卒業したばかりで、エリート公務員との結婚が決まっている元崎典子。

婚約者にも気に入られ、式場選びなど準備も着々と進んでいますが、典子はどうしても彼と結婚することに幸せを感じません。

そんな時、ゼミの飲み会で知り合った、フリーカメラマンの香山に心惹かれるようになります。

完全な箱入り娘で、右も左も分からない典子は、香山から教えられたロッド・スチュワートの「セイリング」という曲を聞きながら思います。

I am sailing
I am sailing home again ‘cross the sea
I am sailing stormy waters
To be near you
To be free

I am flying
I am flying like a bird ‘cross the sky
I am flying passing high clouds
To be near you
To be free

『嘘よ……

誰かのもとへ行くってことは束縛されに行くってことよ……
どうして『自由』になるためなの……』



それまで世の中のことなど何一つ知らず、親のすすめるままに結婚相手を選び、自分の意志で何一つ決めたことがない典子。

しかし、香山と深く結ばれることで、典子ははじめて悟ります。

だって、わたし分かってしまったの!

あなたのもとへ行くことがどうして『自由になること』なのか。

自分を解き放ちに行くことなのよ。

あの人のそばで、わたし、生まれて初めて、自分を解き放つことができたように思うの!

池田理代子 セイリング

そして典子は香山と暮らすために家出をしますが、突然、自分のしたことに怖じ気づき、何も言わずに彼のアパートを去っていきます。

予定通り、公務員の婚約者と結婚し、平凡な家庭を築きますが、「どう生きても、人生は一度きり」と、苦い痛みはいつまでも消えないのでした──。

*

おそらく、結婚に「心の自由」を思い描くことができない人は、自由というものを物質的な側面でしか見ていないのかもしれません。

「お金を自由に使える」とか「いつでも好きなことができる」といったことです。

しかし、物質的に自由だからといって、心も自由であるとは限りません。

人と接するのが怖い。

本当の気持ちを話すのが苦手。

心からリラックスして振る舞えない、等々。

自分の好き勝ってに振る舞い、物質面では恵まれても、本当の自分を生きているような気がしない人も少なくないのではないでしょうか。

結婚は、「あなたがあなたらしく居られる場所」を見つける旅です。

そこでは、偽ったり、強がったり、自分を大きく見せる必要はありません。

自分の感じたこと、考えたことを、素直に語っていいのです。

そして、等身大の自分を受けとめてもらえた時、あなたは心を解き放つことの意味を知るでしょう。

自分らしく生きられる場所があってはじめて、人は本来の魅力を発揮することができるのです。


アイテム

 池田理代子短篇集 (3) (中公文庫―コミック版) (文庫)
 著者  池田 理代子
 定価  ¥ 1
 中古 17点 & 新品  ¥ 1 から
 5つ星のうち 4.5 (2 件のカスタマーレビュー)

短編集です。

QUOTE CARD

  • どんな高邁な理想も、言葉だけでは人は動かせない。 身をもって示して初めて、理想が理想としての意味をもつ。 その後、彼は死ぬまで父を忘れず、その生き様を指針にするわけだが、愛とは何かと問われたら、慈しむだけが全てではない。身をもって生き様を示す勇気も至上のものだろう。 誰でも犠牲は怖い。  自分だけ馬鹿正直をして、損したくない気持ちは皆同じだ。  だが、その結果、一番側で見ている子供はどうなるか、いわずもがなだろう。  言行の伴わない親を持つほど不幸なことはない。  たとえ現世で馬鹿正直と言われても、本物の勇気、本物の優しさ、本物の気高さを間近に見ることができた子供は幸いである。 どんな高邁な理想も、言葉だけでは人は動かせない。 身をもって示して初めて、理想が理想としての意味をもつ。...
  • 「創造的」というのは詩を書いたり、絵を描いたり、という意味ではありません。無の平原から意味のある何かを立ち上げることです。 より良く生きる為に、日々、考えること、実行すること、その全てが『創造』です。 どんなに小さくても、昨日よりは今日、今日よりは明日、少しずつでも歩みを進め、善きものを積み上げることを「創造的な生き方」と言います。 「創造的」というのは詩を書いたり、絵を描いたり、という意味ではありません。無の平原から意味のある何かを立ち上げることです。 より良く生きる為に、日々、考えること、実行すること、その全てが『創造』です。...
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この記事を書いた人

石田 朋子

文芸愛好家&サブカルチャー・ファン。主に70年代~90年代の作品に思い入れがあります。寺山修司の名言『詩を作るより、田を作れ(揶揄)』をモットーに、好きな作品を次代に伝えることを目標にしています。海外在住につき、現代日本とは相容れない所がありますがご容赦ください。
※ 現在、制作巣ごもり中につき、ほとんど更新していません。