アレクシス・ワイセンベルク ラフマニノフ ピアノソナタ

己の美学のままに アレクシス・ワイセンベルクの『ラフマニノフ ピアノソナタ 第二番』

『哀愁』という言葉はラフマニノフから教わった――

とするなら、その極美はピアノソナタ 第二番 第二楽章と思う。

最初に聞いたのは誰の演奏だったか、私自身も記憶にないが、購入したのはアレクシス・ワイセンベルクのCDだった。

アレクシス・ワイセンベルクの魅力 ドビュッシー名曲選よりにも書いているように、ともかく、並み居る巨匠を差し置いて、私はついついワイセンベルクのCDを買ってしまうのである。(アシュケナージやリヒテルも持っているけども)

しかしながら、アレクシス・ワイセンベルクが録音した『ラフマニノフ ピアノソナタ 第一番&第二番』は日本の音楽市場から姿を消して久しい。

Amazonにも無いし、Spotifyにもない。

YouTubeにどこかのファンがアップロードしているのが最後、忽然と消えてしまった。

ワイセンベルクの死後にリリースされたアンソロジーも探したが、どこにも収録されておらず、演奏が演奏だけに、需要も少ないのだと思う。

コメントでも、too fast だの、Hammer だの、the speed junkiesだの、辛口コメントが並んでおり、アシュケナージやホロビッツなどの演奏に親しんでいる人には粗雑に聞こえるのだろう。
(※USのAmazonでは販売されている)

アレクシス・ワイセンベルク ラフマニノフ ピアノソナタ

アレクシス・ワイセンベルク ラフマニノフ ピアノソナタ

確かに、速いといえば、速い。

下方に、アシュケナージとホロヴィッツの演奏も掲載しておくが、あれらに比べたら、スピード・ジャンキーといわれても仕方ない。

しかし、ワイセンベルクの演奏にも美学はあり、一つの解釈として聞けば楽しい。

第一楽章。
のっけからビンビンに飛ばしてます。
苦手な人は、導入部を聞いただけで拒否反応を起こすはず。気持ちは分かるが、もうちょっと待って欲しい。
どうしてもムリという人は、第二楽章に飛んで下さい(´。`)

第二楽章。
私の中で、ラフマニノフのイメージを大きく変えたのが、この演奏。
たっぷりと叙情的に弾く人が多い中、ワイセンベルクのLentoは一つ一つの音がきらきら輝くようで、特に高音の美しさは白眉のもの。

中間部(約2分)の、ためて、吐いて、重ねて、ためて、の、ため方もいいし。

約3分20秒あたりの、音の洪水みたいな弾き方もワイセンベルクらしくていい。ピアノがグワングワン反響するのもご愛敬。

きっと、彼の中では、この部分が一番盛り上がるんだろう。

でも、最後は、一音一音まで、とても丁寧で、まとめ方もよかろう。

都会的というか、現代的というか、こういうラフマニノフがあってもいい、と思うんだ。

こんなのはラフマニノフじゃない、という玄人の意見も分かる。

しかし、ベタベタと情に訴えるだけがラフマニノフでもないと思うんよ。

冒頭を聞けば分かるけど、ワイセンベルクの『哀愁』は多くがイメージする演歌的な響きではなく、パリの秋空みたいに、どこか洒落ていて、天まで抜けるような広がりがある。内に内に沈み込むような演奏が多い中で、ワイセンベルクは、ドビュッシーみたいに弾くんだよね。さながら音と戯れるような。

でも、ちゃんと音と音の会話になってるでしょ。

右手が何かを語れば、左が受け止める感じ。

曲自体は哀しいけれど、最後に、少し希望があって、音の向こうから光が射してくる。

全力で泣いた女の子が、ふと顔を上げて、涙を拭うような、魂の明るさだ。

第二楽章に関しては、曲の締め方が上手いと思う。

第三楽章。

第二楽章の主題を繰り返しながら、突然、グワ~ンと、いつものワイセンベルク節が入るので、嫌いな人は嫌いだろう。
最後も爆発しとるし。

そりゃアシュケナージの演奏を聴けば、ああ、これこそラフマニノフ、これが正しい弾き方よね、と納得する。

しかし、正しいだけが音楽か?

そもそも音楽における”正しさ”って、何?

その点、どや顔でビンビンに弾き飛ばすワイセンベルクにも美学はある。

それは世の中の常識なんぞ無視しても、己の道を真っ直ぐに突き進むというやつだよ。

なんちゃってアシュケナージや、なんちゃってホロヴィッツは大勢いるけど、なんちゃってワイセンベルクは聞いたことがないだろ。

それだけ特異で、自分の音楽がハートのど真ん中にある証(好きか嫌いかは別として)

音楽をやるからには「聴衆を感動させる」のが第一義だろうけど、自分の為に奏でる音楽があってもいいと思うの。

その結果、誰かが振り向いてくれたなら、それこそ本当の愛じゃないかな。

ピアノソナタ 第二番に関しては、第二楽章が圧倒的に美しいね。

交響曲第二番の第二楽章もそうだけど、ラフマニノフは第二楽章がいいのが多い。
https://youtu.be/QNRxHyZDU-Q
(ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー&ロンドン交響楽団)
↑ これもハンス・ジマーやジェームズ・ホナーが逆立ちしても作り出せないメロディだと思う。彼らもいい曲作るけどね。

ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品36

ソナタ第2番は、第1番から6年後の1913年に作曲されている。ラフマニノフは、しだいにピアニストや指揮者としての活動が忙しくなり、創作に専念する時間がなくなってきたために、1912年暮れから思い切って家族とともにスイスからイタリアへ旅行に出かけた。そしてローマでは、ピアッツァ・ディ・スパーニャにある住居を借りて創作に打ち込んだ。この住まいは、以前長らくモデスト・チャイコフスキーが所有していたもので、そのために作曲家チャイコフスキーもしばしば滞在していたところである。

このローマで彼は2曲の大作を作曲し始めた。ひとつは合唱交響曲≪鐘≫であり、もうひとつがこのソナタである。しかしローマ滞在も約2ヶ月経ったころ、ふたりの娘、イリナとタチャーナがチフスにかかったために、彼らはローマを引き払ってベルリンで治療することになった。その後ロシアに帰り、これらの作品の創作を続けて、1913年の夏には≪鐘≫を完成し、そのあと秋になってからソナタ第2番も仕上げている。そしてピアノ曲としては、練習曲≪音の絵≫第1集作品33(1911)と同第2集作品39(1916-17)の間の時期にあたる。

初演は、この年の12月16日に作曲者自身の演奏によりモスクワで行われ、この曲はかなりの好評をもって迎えられた。この版は、翌1914年に出版されたが、ラフマニノフはそれから18年も経った1931年に、このソナタを大幅に改作している。そのころラフマニノフは、次のように言っている。

「私の以前の作品を見るにつけ、その中にはあまりにも無駄なものが多いように思います。このソナタも例に漏れず、同じような音楽の運びがたくさんあり、長すぎます。ショパンのソナタは、19分しか要しないのに、それですべてを語っています」

そこでラフマニノフは、全体を約5分の4に縮小した改訂版を作り、この年に出版している。ワイセンベルクが演奏しているのは、この改訂版の方である。これにより構成的には音楽が引き締まったが、その代わりにいくつかの魅力ある部分が落ちてしまったとして、ウラディミール・ホロヴィッツがさらに補訂したホロヴィッツ版というのもある。

CD『ラフマニノフ:ピアノソナタ 第1番&第2番』 ライナーノーツより 渡邊學而

ライナーノーツに関するポリシーはこちら

アシュケナージとホロヴィッツ

アシュケナージのピアノソナタ 第2番 第一楽章。

第二楽章。
さらにスローテンポで、語りかけるような演奏が印象的。
ワイセンベルクがたたみかけるように弾く中間部の盛り上がりも、一音、一音、丁寧に奏で、模範的な演奏です。

第三楽章。
私にも分かる。これがきっと正当なんだろう、って。
高音のさばき方が、ああ、ラフマニノフやね、ピアノ協奏曲を思わせるね、
これほど説得力のある演奏もまたとなく、万人が支持するのも納得。
ラフマニノフ・ファンなら、皆、通る道です。

ホロヴィッツのピアノソナタ 第2番 第一楽章
ただ単に私とは相性が悪いというだけの話。。。

第二楽章。
遠い夢でも見ているような、叙情的な演奏。
こちらは、しっとり雨模様ですな。
ワイセンベルクとはまったく解釈が異なります。

第三楽章。

ワイセンベルクのおすすめCD

ワイセンベルクさまがお弾きになるショパン。

のっけから、おいおい、昼メロかよ! と突っ込みを入れたくなるような、激甘ショパン。

ポリーニみたいな優等生の演奏に親しんでいると、ワイセンベルクさまのショパンはさながら宝塚歌劇ですよ。

びんびんに弾き飛ばすラフマニノフからは想像つかない、チャーミングなショパンです❤

セザール・フランクの『前奏曲、フーガと変奏』の「変奏」。まるで映画音楽のように繊細でスウィートなメロディに、ワイセンベルクさまが己を滅して(?)ロマンティックに弾きあげる。……いやいや、これがほんとのワイセンベルクさまなのですよ。ラフマニノフは指がすべったか??

パンチョ・ヴラディゲロフの『Improvisation』。ドビュッシーのようでもあり、ラヴェルのようでもあり。
映像的な美しさはワイセンベルクさまの真骨頂。光が跳ねるような、透明感あふれる演奏です。

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ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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