歯痒い思いをしてるのはステラマリスの科学者も同じだ。予算がなければ調査船も出ない。それでも皆、生涯のテーマと定めた研究に懸命に取り組んでいる。お目出度いかもしれないが、人間の情熱に優るものはない。明日の潜航はどうだ? 面白いものが見つかりそうか?」

「興味深いものはあっても、潜航の機会を生かせそうにありません」

「やりにくいことがあっても、その場に行けるのは『一度きり』だよ」

ランベールは静かな口調で言った。

「深海の珍しい生き物も、熱水が勢いよく噴き出すチムニーも、その場で出会えるのは一生に一度だ。もしかしたら、この数世紀のうちに、それを目にする人間は世界中で君一人かもしれない。それくらい稀少で、宇宙的スケールの出会いを、わたしたちは日常的に体験することができる。そうだろう?」
曙光