僕はうかつにも涙を流してしまった。
靴の先が丸くにじんだ。

西日の当たる通勤電車。
人の顔はみなどこか優しい。
自動扉にもたれながら、
僕は流れるプラットフォームを見つめる。

涙でぶざまに濡れても、誰も気にも留めない。
話しかける人さえ、ない。
気楽といえば気楽だが、
自分がまるで実体のないもののように感じる。

いつの頃からだろう。
僕は自分の気持ちを話すのが苦手になった。
知って欲しいと願う一方で、
誰にも触れられたくないという思いに閉じこもる。
つらいとか淋しいを通り越して、
心が粉を吹いたように渇いてゆくのを感じる。

世界にたった一人でいい。
こんな僕を愛してくれたなら、
僕は今すぐにも駆け出して、
君に本当のことを話すだろう。

僕が一番叫びたいこと。
誰かに受け止めて欲しいこと。
何もかも正直に。
そして、恐れずに。

眼下に新しい町並みが広がる。
だけど、そこに僕を待つ人はない。

涙の向こうに、いつもの駅が見える。
いつもの一人の夜がやって来る。

初稿:2005年2月10日