猿の惑星 ティム・バートン

『猿の惑星、一枚』 おひとり様の映画列伝 ティム・バートン版の思い出

「おひとり様」や「一人で生きること」がすっかり市民権を得て、今や女性が一人でカラオケに行こうと、ホテルのシングルプランを満喫しようと、誰にも何も言われなくなりましたが、私の青春時代は、彼氏・彼女がいるのが当たり前、休日はデザイナーズ・ブランドのワンピに身を包み、カフェバーだの、ラウンジだので、お洒落にディナーを楽しむのが当たり前みたいな風潮でしたから、おひとり様は本当に肩身が狭かったし、周囲からのプレッシャーも相当なものでしたよ。「休みの日は何してるの、デートはしないの、なんで彼氏がいないの、いつ結婚するの」、今も質問攻めだと思いますが、現代はそういうことを口にするとセクハラだ、人権侵害だ、と庇ってもらえる部分があるから、まだ救いがありますけど、80年代、90年代、2000年の初頭ぐらいまでは、おひとり様はまだまだ肩身が狭かったし、シングルライフが市民権を得たのは、ここ10年ぐらいのことではないでしょうか。まあ、社会の風潮がどうあれ、一人で行動して、それが当たり前に受け入れられる傾向は良いことですよ。一人でレストランで飯食ってるからって、何だってんだよ、周囲の客をじろじろ観察してる暇があったら、自分の飯に集中しろよ、と思いますね。日本も一億総小姑化して、他人の言動のウォッチングに余念がないようですが。

そんな私の一番恥ずかしい思い出は、『猿の惑星、一枚』でしょうか。

ここでいう『猿の惑星』は、チャールトン・ヘストンの名作でもなければ、21世紀に制作された新三部作でもない、2001年にティム・バートンが手掛けた『猿の惑星』です。

PLANET OF THE APES/猿の惑星 [Blu-ray]
出演者  マーク・ウォールバーグ, ティム・ロス, ヘレナ・ボナム=カーター, マイケル・クラーク・ダンカン, ポール・ジアマッティ
監督  ティム・バートン
定価  ¥ 1,954
中古 19点 & 新品  ¥ 1,000 から
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独特の世界観で定評があるティム・バートンが不朽の名作のリメイクに挑んだ話題作で、今をときめくマーク・ウォルバーグの出世作でもあるのですが、なぜか世間の評価はいまいち。私はオープニングも美術もティム・バートン監督らしい意欲作だと感じたのですが、あまり捻りのない脚本やチャールトン・ヘストン版とはまったく異なるエンディングなどが、オリジナル原理主義者の不興を買ったのでしょうか。未だに『駄作』と公言する人もあり、本作を気に入っている私としては少々淋しい気がします。

それにしても、何が心に刺さる、って、劇場のチケット売り場での『猿の惑星、一枚』でしょう。

当時は、オンラインサービスもそこまで充実してなかったし、スマホのQRコードもなければ自動券売機もない。

土曜日の午後、上映開始の30分前には映画館に行って、チケット売り場の長い行列に並び、窓口で買い求めなければならなりませんでした。

そして、土曜日の午後といえば、仲好しグループやいちゃいちゃカップルが入り口付近でペチャクチャとはしゃぎ、おひとり様に居場所なし、みたいな雰囲気です。

居場所が無いだけならまだいいが、チケットを買い求める時、幸せそうな人々の間に挟まれて、自分が鑑賞したい映画のタイトルを売り場のお姉さんに口頭で伝えなければならない、という苦行が待っているんですね。

いちゃいちゃカップルが「恋人たちの予感、二枚」とか、仲好しグループが「プレデター、四枚」とか、楽しそうにオーダーしている並びで、洒落たブランドのスーツに身を包んだ30代の独女が「猿の惑星、一枚」とか言うんだよ、周りの視線がどうなるか、容易に想像がつくでしょう。

しかもさ。

チケット売り場には意思の伝達がしやすいよう、マイクが設置されていて、ガラス窓の向こうでお姉さんが大きな声で生真面目に復唱するわけですよ。

「ありがとうございます。猿の惑星、一枚、でございますね」

復唱はええから、さっさとチケットを寄越せ、みたいな気持ちですわな。

また、そういう時に限って、お姉さんの動作がゆっくり丁寧で、釣り銭の取り出しにも時間がかかり、こっちが晒し者になるの。

「うわー、この人、こんなキラキラした格好で、猿の惑星なんか見るんだ、しかも一人で

えー、えー、そうでございますとも。

だって、ティム・バートンの最新作だよ?

かの名作のリメイクだよ?

映画ファンがこの作品を見逃すなんて、もぐりじゃん。

彼氏とデートや暇つぶしで観に来る、あーた達と違って、あたしは映画鑑賞に命かけてんの。

猿の惑星だろうが、エマニエル夫人だろうが、話題の作品は一人でも観ますよ。

どのみち、この世は一人じゃないか、オギャアと生まれる時も一人、死にゆく時も一人、一人で悪いか?! といつも思いながら、一人分のチケットを買い求めていました。

その点、今はいいですよね。

恥ずかしい映画のチケットも漫画本もオンラインでこそっと買えるし、おひとり様にも市民権があるし。

これだけ理解が進んでいる中で、おひとり様を躊躇するなんて、本当にもったいないですし、気になるものがあれば、一人でもどんどん行動して頂けたらと思います。

私は今でも、観劇、買い物、旅行は一人を好むタイプですよ。機会があれば、極力、一人で行ってます。

一人が好き、というより、世界観をぶち壊されるのが嫌なんですね。

こっちは映画の余韻にひたってるのに、連れに「評判のわりに、イマイチだったね」とか言われたら、せっかくの感動が木っ端みじんになって、すごく損した気分になるから。
それなら解り合える人がなくても、自分の見方や感想をいつまでも大事にしたいタイプです。
あるいは、見方がまったく違っても、自分の感想をとうとうと語ってくれる人の方がいい。
蘊蓄だらけは嫌いだけど、自分と180度、違う考えのできる人って、逆に尊敬しますからね。

私を磨く贅沢な時間。お休みの日は“おひとりさま”を楽しもうみたいな価値観もありますけど、おひとり様って、「ほら、私って、こんな素敵な生き方をしてるわよ」みたいに、いちいち勝利宣言するものではなく、それしかない、という心境だと思います。

『猿の惑星、一枚』であっても。

ティム・バートンの『猿の惑星』

ティム・バートンといえば、アメリカンコミックの『バットマン』もポップなのりで仕上げ、熱心なオリジナル原理主義者の不評を買いましたが、私はこれほどユニークな造形のできる監督も二人とないと思ってるし、『シザーハンズ』はもちろん、『The Nightmare Before Christmas』のオープニング、This is Halloweenの美術や演出も神業や思っています。

1989年公開のバットマンも、クリストファー・ノーラン版のファンには違和感があると思いますが、この作品は、『バットマン』というキャラクターを横において、ダークなゴッサムシティのアニメヒーローものとして観れば、色彩の美しさ人物描写に魅了されると思います。ジャック・ニコルソンのジョーカーも最高でしょう。プリンスのヒット曲にのせながら、町中に札束をばらまく場面もよかった。

ジョーカーの衣装も、本当に色使いがいい。

そんなティム・バートンの『猿の惑星』だから、通には観る前から予測がつきそうなもの。
私も、チャールトン・ヘストン版の焼き直しではなく、バートン色のユニークな造形が売りなんだろうと予想していたら、本当にその通りで、前作の哲学性を期待していた人からすれば噴飯ものだったと思うけど、これはこれで見応えがあって、「猿社会がなぜ火器を禁じるか」という理由もちゃんと描かれています。このエピソードが21世紀の新三部作にも繋がっていて、ヘストン版から通して観た人には、すとんと腑に落ちるはず。このあたりの連携は見事ですよ。

このオープニングも、今はほとんど話題にならないけども、映画館で観た時には引き付けられました。

いつか高画質で観る機会があれば、ぜひご覧になって下さい。

ラストもヘストン版とは全く異なりますが、それはそれで風刺が利いて面白かったです。

美人女優のヘレン・ボナム・カーターが、ここでは心優しい学者を演じ、その魅力は猿の特殊メイクにも負けない。

ヘレン・ボナム・カーター

猿社会では足で文字を書くという、小さな場面にも拘り。

足で文字を書く

猿の上流社会のダイニングルーム。ティム・バートン監督らしい、ユニークな造形。

猿社会独特のインテリア

人間が奴隷として売り買いされる。

人間が奴隷として売り買いされる

人間の女の子が猿の少女にペットとして飼育される。逆の立場から見れば、そうなりますね。

女の子がペットとして飼われる

小猿に飼育される少女

猿社会に突然現れた未来人のレオ・デイヴィッドソン大尉(マーク・ウォルバーグ)に怪しさを感じるセード将軍。

野心的なセード将軍

人間の最大の負の遺産である火器を手にして、冷酷さを増す。

人間の最大の悪の遺産 銃を手にする

他にも細部までこだわった作りがされています。

確かに、SFアクションとしても、人間ドラマとしても、ストーリー的に中途半端な印象は否めませんが、決して駄作ではないし、所々に散りばめられた人間社会への風刺や警告も興味深いですよ。

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