鮭

45. 親は死んで子どもの血肉となる ~鮭の産卵より

自然の妙 サケの産卵

大海で成長した鮭が、故郷の川を目指して一斉に遡上し、川床に卵を産み付けた後、大量に死んでいく様は、壮絶でもあり、心動かされる風景でもあります。
普通は、産卵した後、子供が孵化するまで親が守り育て、自分で餌が取れるほど育ってから別れゆくものですが、鮭は産卵後、数日で命が尽きてしまいます。でも、親が死んで、自分の身を餌として捧げるからこそ、子供も過酷な自然で生き延びることができます。

また、大量の鮭の死骸は、森の栄養源となりますし、川にやって来る大量の鮭はお腹を空かせた熊のご馳走でもあります。
私も時々、有り難く頂いております。

この世に無駄な鮭は一匹としてなく、全てが生命の連鎖の中で何らかの役割を果たしているんですよね。

このパートは、主人公とヒロインが初めて磯海岸にデートに出かける場面です。
彼は彼女を喜ばせるつもりで、自分の好きな科学番組『オーシャン・プラネット』のビデオを持参します。
自分の好きなものは、彼女も気に入ってくれるだろうという、子供っぽい期待です。
それは彼女の期待していたモノとは全く違いましたが、彼女は付き合いで鑑賞して、ちゃんと感想も言ってあげます。
『愛される秘訣』って、こんな些細なことなんですよね。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。

詳しくは作品概要とタイトル一覧をご参照下さい。

冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】

海洋情報ネットワークの構築に向けて、西に東に奔走するヴァルターは、恋人のリズの束の間の休息を楽しむ。
デートに来ても、父親のことを案じるリズに対し、ヴァルターは科学番組の『鮭の産卵』を見せ、親は自分が死しても、子どもの栄養になる自然と生命の不思議を話して聞かせる。

親は死んで子の血肉となる:鮭の産卵より

二人は馬蹄形の入り江の端っこにピクニックシートを広げて腰を下ろすと、リズの作ったランチを分け合った。
嬉しい反面、父のことも気にかかる。
一人で淋しくないだろうか、父の為に作り置きした料理はちゃんと温め直しただろうか、玄関先で気持ちよく見送ってくれた父の姿が何度も瞼に浮かぶ。

「出がけにパパに何か言われたのか? 時々、『心ここに在らず』みたいな顔をする」

不意に聞かれ、リズは慌てて頭を振った。

「そうじゃないの。パパがちゃんとご飯を食べたか、気になって……」

「デート中にパパのご飯が心配で上の空になる女の子なんて、初めて聞いた」

「ごめんなさい。決してあなたのことを軽んじているわけでは……」

「いいよ、気にしない。君がパパのことなど微塵も気にかけないような人なら、俺も遊びに誘ったりしない」

「でも、周りには『パパ大好き人間』と思われてるわ。いい年して、気味が悪いと――」

「依存と情愛は別だろう。俺には君がパパにべったり依存しているようには見えないけど。そうだ、君にいいものを見せるよ。俺のお気に入りのショートフィルムだ」

彼はバックパックを開き、タブレット端末を取り出した。

「まあ、どんな映画?」

「鮭の産卵」

「は?」

「鮭(トラウト)だよ。サーモン」

「マリネにする魚?」

「そう。君の大好物」

「それが卵を産むビデオ?」

「そう。『オーシャン・プラネット』の中でもベストスリーに入る感動作だ。きっと君の気に入る」

それは長さ三十分の科学ドキュメンタリー番組だった。

大洋を周遊する鮭の群れは故郷の川を上り、パートナーを見つけて川床に大量の卵を生み付け、そのまま死んでいく。番組の最後、大量死した鮭の死骸が川面をいっぱいに埋め尽くすと、さすがにリズも顔色を変え、「なんだか残酷ね」と漏らした。

「でも、こうして卵の側で死んでいくから、その死骸はやがて稚魚の餌になり、厳しい自然を生き抜くことができるんだよ」

「子供の餌に……?」

「そう。親の死骸は自然に腐敗して、卵が孵る頃には栄養豊かな食べ物になる。救われるのは稚魚だけじゃない、熊やキツネなど、冬を越した森の動物たちの食糧にもなる。食い散らかされた鮭の死骸は一つ残らず稚魚や動物の糧になり、川と緑を育むエネルギーに生まれ変わるんだよ」

「そうだったの」

「自然と生命の関わりは本当に不思議だ。どれ一つ欠けても自然は成り立たず、自然が機能しなければ生物も生存できない。まるで緻密に織り上げられた宇宙のプログラミングを見るようだ」

【リファレンス】 鮭の産卵の動画

有名な『鮭の産卵』のビデオ。何百万という鮭が故郷の川に戻り、次々に産卵して、その生涯を終えます。後には、おびただしい数の死体が川辺に打ち上げられますが、いずれ生まれくる稚魚の養分となり、新たな生命のサイクルが始まります。一方、北上する鮭は、森の動物にとって最高のご馳走でもあります。鮭とクマの戦いは有名ですね。鮭一匹といえど、この世の役に立っています。

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。

閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで



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ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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