会議 プレゼンテーション

一般ユーザーに説明する プロジェクト・マネジメントと大衆の理解

子どもにも分かりやすく

世の中には何でもマルチに理解して、博識な人がいます。一見、何の欠点もないようですが、実は非常に大きな欠点がある。
それは「知らない人の気持ちが分からない」ということです。
あまりにも知りすぎているが為に、逆に、知らない人の目に映る世界観が見えない、とでもいうのでしょうか。
宇宙物理学を知らない人に対して、専門用語を駆使し、高度な理論を説いても、その本質は理解できません。
政治、科学、事業、教育、すべてにおいて「知っている人」と「知らない人」の間には圧倒的な差異があります。
同じ目線で語っても、その言葉は決して届きません。
そこにどれほど優れた理論や思想があっても、万人に理解しがたいものは、半分、その意味をなくしているのと同じです。

プレゼンテーションというと、自分がどれほど詳しいか、いかに優れたアイデアを有しているか、アピールする場所でもあります。それは決して間違いではないし、誰もが「いかに伝えるか」に腐心されていると思います。
でも、広く共感を呼びたいなら、知っている者同士の阿吽の呼吸を優先にするのではなく、「知らない人」の目線で考えること。
何も知らない人が、この用語を聞いたら、どう感じるだろう。
何も知らない人が、主旨を理解するには、どうしたらいいだろう。
常に「知らない人」の側から考え、アプローチをする。それが一番重要だと思います。

本作では、海洋に詳しいヴァルターが、何も知らない一般人のゾーイから「独善的」と指摘されます。
それは後々、市民全体にプレゼンテーションするにあたり、大きなヒントになります。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。

詳しくは作品概要とタイトル一覧をご参照下さい。

冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 素人相手のプレゼンテーション

ヴァルターとリズは海洋情報ネットワークが海洋社会の重要な情報基盤になると信じて、必死のヒアリングとPRを続ける。その甲斐あって、産業振興会のメンバーを中心に「プロトタイプを構築してはどうか」という提案が持ち上がる。願ってもない申し出にヴァルターは喜ぶが、一方、過去の薬物使用や意匠の盗用疑いについて中傷メールをばらまく者があり、不安な雲が広がる。リズは、思い詰める彼にいっそう寄り添おうとするが、彼は過ちについて打ち明けることを拒み、ますます距離を置こうとする。
産業振興会の実力者でもあるキプリング社長の好意で、ステラネットの新オフィスの一室をワーキングスペースとして借りられることになったが、そこに顔を出したのは、一流企業の社員とは思えぬ弾けた女の子、ゾーイだった。ゾーイは彼のプレゼンテーションを聞いた後、「あなたは商業ベースで物を作ったことがない人ね」と鋭い批評をする。

【抜粋】 プロジェクト・マネジメントと大衆の理解

海洋情報ネットワークの構築にあたり、IT会社ステラネットのアナンド・キプリング社長は、そのアイデアがどこまで一般人に理解されるか、プレゼンテーションするように促す。

一般人にも分かりやすく説明する

ヴァルターはキプリング社長の立ち会いで、ゾーイを含む十名の若手社員を対象に海洋情報ネットワークのプレゼンテーションを行うことになった。先日、産業振興センターで基金設立の話し合いを持った際、一般人の意見も参考にした方がいいというキプリング社長の提案があったからだ。

これまでは海洋関係の専門家ばかりを相手にネットワークの必要性を説いてきたが、実際に運営するとなれば一般ユーザーの使い心地も考慮しなければならない。内外に公共サービスとしての必要性を示すなら、ゾーイのように海洋分野とは全く無関係で、なおかつ将来社会の中核を担う一般層の支持を取り付けることは必至、というのがキプリング社長の意見だ。

三階のミーティングルームに集まった十名はいずれも二十代から三十代前半のIT技術者や事務員で、海に関しては「遊び」以外の関心はない。
彼がモニターボードの前に立つと、十名の若手社員はめいめいのタブレット端末にメモを取りながら彼のプレゼンテーションに耳を傾けた。

ゾーイはいつもの穴あきジーンズに『All pain, No gain (骨折り損のくたびれもうけ) 』と大きくプリントされたジョークTシャツを身に着け、ブルーのマスカラで色付けした長い睫毛をぱちぱちさせながら、冷やかし半分に彼の話を聞いている。

十五分ほどでプレゼンテーションを終えると、ゾーイが開口一番に言った。

「で、それがアステリア全体の発展にどう繋がるの?」  

ゾーイがケロリと言った。

「だって、一般人には、海の水がどれぐらい塩辛いとか、沖合の海底地形がどうなってるとか、全然知ったことじゃないもン」

「知ったことじゃないって、君たちの暮らしに直接関わる話だぞ」

「そんなこと言われたって、全然実感ないわよ。ディンギーヨットで遊ぶ時、私が気にかけるのはせいぜい降水確率と波の高さぐらい。それ以外は、あってもなくても同じ。だって、専門的な用語をずらずら並べられても理解のしようがないし。『市民の暮らしに直結するネットワーク』とか『アステリア全体の公益』とか力説されても、え、何それ? ぐらいにしか思わない。一体全体、何がしたいわけ? あなたの説明では全くイメージが掴めない。イメージできないものは、いくらメリットを強調されても自分で積極的に利用しようという気にならないわ。勝手にやれば、って感じ。正直、PCのレビュー・サイトの方が有り難いぐらい」

彼は唖然とし、後方に座っているキプリング社長に視線を遣ったが、キプリングも肩をすぼめて苦笑いするだけだ。

すると、ゾーイの隣の若い男性社員が挙手し、
「僕はまだアステリアに来たばかりで、海のこともよく分かりませんが、海洋情報ネットワークの全体像は何となくイメージできます、学生時代、IT会社で研修して、地質データベースの構築を手伝いましたから。地図や地名で検索すると、すぐにその場所の地質データが呼び出せる。分析レポートや調査した会社の情報などもです。それの海洋版ですね。でも、扱う分野がより広範な気がします。悪く言えば、漠然とし過ぎて、具体的に何を目的としているのか分かりにくいような……」

「プロトタイプでは、海上安全局が提供しているような汎用情報と、特に社会的関心の高い海洋鉱物資源のデータを重点的に取り扱う考えだ」

ゾーイがすかさず言葉を返した。
「だから、その『汎用情報』という意味からして分からないのよ。専門家同士はツーカーかもしれないけど、私たちは何をもって『汎用』というのか、そこから付いて行けない。それは波の高さ? それとも水温?」

「だから、海上安全局が無償で提供しているような内容だよ」

「そんなの、見たことない」

「だったら、見ればいいじゃないか。海でヨット遊びするなら必須だろ」

「ええ、そうかもしれない。でも、一般人は、そんなこと気にも留めないわ。だって、水温が二十度でも、二十五度でも、ヨット遊びには大して影響ない。晴れの日にクルージングするのに、いちいち海上安全局のホームページを開いて一から十までデータをチェックする人間がいるの? 海を見て凪いでいたら、誰だって今日はOKだと思うし、ヨット仲間のブログを見てたら、風速十五メートルでも乗りこなしたと自慢げに書いてある。一般人の認識なんてその程度よ。そんな素人を相手にあなたが口をしょっぱくして必要性を説いたって、みんな、ぽかんと聞き流すだけよ」

さすがに彼が返事に詰まると、ゾーイはストロベリーブロンドの髪を掻き上げ、

「きつい言い方してごめんなさい。でも、あなたと何も知らない一般人の間には相当な温度差があると思うわ。あなたは『海を知る』というけれど、私たちヨット仲間の『知る』感覚とずいぶん違うもの。喩えるなら、あなたは海洋科学の専門書を素晴らしいと思い、私たちはヨットのシート捌きに感動する。あなたが水温だの地形だの気にしている傍らで、私たちは浜辺でバーベキューを楽しむのよ。その感覚の違いがある限り、あなたがどれほどネットワークの重要性を叫んでも、一般人には理解し難いと思うわ」

「俺の話はそれほど複雑怪奇か?」

「複雑とか何とかの話じゃないの。あなたはネットワークの意義が一般にも広く理解されて、アステリアでも絶対に機能すると確信があるようだけど、大多数にとってはそうじゃないってことよ」

すると、一番左端に座っていた男性社員がゾーイの方を見、
「ちょっと待てよ、ゾーイ。そんな言い方では何の価値もないみたいじゃないか。つまり、フォーゲルさん、ゾーイが言いたいのは、あなたがこちらの側に立って話してない、ということだと思います」

「こちらの側?」

「そう。専門知識も持たず、情報管理にも何の関心もない、いわば普通に生活している人たちの側です。あなたの言葉を借りれば、『一般ユーザー』です」

先ほど発言した男性社員も再び口を開き、

「僕も地質データシステムを手掛けて、つくづく思ったのですが、同じデータを扱うにしても、メインユーザーを誰に絞るかでインターフェースもサービスも全然違ってきます。一口に『地質』といっても、不動産業者と地学者では求めるデータも目的も全く異なるでしょう。海洋情報ネットワークの場合、『専門家も、一般ユーザーも』というコンセプトは共感しますが、実際にサービスを提供するとなれば、対象が広がりすぎではないですか。そして、あなたは専門家も一般ユーザーも同じように必要性を理解し、同じ動機や目的意識をもってネットワークを利用するように期待しておられるけども、実際問題、それは有り得ないと思います。それこそゾーイの言うように、一般人はそこまで専門的なデータを必要としませんし、そもそも何の役に立つかも解りません。海水浴に行くのに、いちいち塩分濃度や海底地形を調べる人がありますか? ヨット乗りだって、そこまで詳しく調べ上げる人は少数派でしょう。頭では必要性を理解しても、現実には必要としない、その感覚の差異をゾーイは言ってるのだと思います」

「そう、一言で言えば独善的なの」

ゾーイは穴あきジーンズの膝を叩いた。

「あなたはもっと自分以外の価値観も推し量るべきよ。皆がどんな気持ちでディンギーヨットを繰り出すか。皆が皆、深海調査で海に出るんじゃないのよ」

すると、皆のやり取りを黙って聞いていたキプリング社長が「もうその辺でいいだろう」と割って入った。

「皆の意見は率直で、それぞれに耳を傾ける価値がある。こういう話はどうしても分かる者同士だけで討議がなされ、それ以外の視点や感覚はなおざりにされやすいからね。ヴァルター、君も専門知識も関心も持ち合わせない一般人を相手にプレゼンテーションをしたのは初めてだろう。だが、一般人の感想はこんなものだ。それも頭に入れて、今後の参考にしたらいい」

そして参加した社員らの顔を見渡すと、

「それにしても君らの認識はそんなものかね。海に暮らして、天気予報以上の関心はないと? アステリアには海台クラストの採掘プラットフォームもあるし、海水や波力エネルギーを利用したユニークな技術開発も急ピッチで進んでいる。他にも、洋上発電プラントや人工漁場、海中ホテル、可動式フローティングハウスなど、世界でも稀に見る海洋都市が開かれようとしているんだよ。金属、建設、化学、エネルギー、あらゆる分野で何が起きつつあるか、まるで知ろうという気がない?」

だが若い社員らは互いに顔を見合わせ、
「そんなニュース、日常的に見聞きしないから」
「どれほど革新的なのか、数値やイメージで示してもらわないと、ピンとこないです」
「正直、今の生活レベルで十分、かな」
「花火やクルージングのイベント情報は気になるけどね」

最後にゾーイが口を開いた。

「そもそも、こんな小さな島で何が出来るの。産業界や学術界がどれほど頑張っても、せいぜい数十万人が暮らすので精一杯でしょう。いずれ飽和状態で頭打ちになる島にどんな未来が開けてるというの? 観光に来る人や事業で儲かる人は楽しくていいかもしれないけど、ここで一生を暮らさなければならない人間にはとっくに先が見えてるわ。エルバラードに匹敵するような立派な大学が設立されるわけでもなければ、ギガントの飛び回るような工業団地が建設されるわけでもない。スポーツの世界大会や文化的催しも夢のまた夢、せいぜい観光客目当ての安っぽい野外コンサートが開かれるぐらいでしょう。正直、トリヴィアの友人が羨ましい。勉強や仕事の環境は最高だし、これからまだまだ発展するのが手に取るように解る。遊びだって、こことは比較にならないくらい色んな楽しみがあるし、ファッションだって最先端。アステリアなんて所詮、大都会から切り離された絶海の孤島だもの、チャンスもなければ選択の余地もない、私たちはね、オギャアと生まれた時から天井を見てるのよ。これ以上高くならない、どん詰まりの天井。そりゃあ、いつかは発展するんでしょうけど、その頃には私もよぼよぼのお婆ちゃんよ、こんな離れ小島に生まれ落ちたことを一生不運に思いながら過ごすんだわ」

ゾーイが日頃の鬱憤をまき散らすと、
「君らの『行き詰り感』は理解できるよ。うちの娘も同じことを言い続けて、結局、ステラマリスに帰ってしまったからね」
キプリング社長もしみじみと言った。
「だったら、なおさらこの海の可能性を探り、誰も見たことのないようなサービスやコンテンツを創り上げたいとは思わないかね。だが、それには『海を知る』ことが不可欠だ、専門家のみならず一般市民にも広く親しまれるような情報サイトを作ろう、というのがヴァルターの主張だよ」

世の中の9割は『分からない人、努力しない人』なのよ

プレゼンテーションの後、ゾーイとランチを食べながら

ゾーイはトマトソースのパスタをフォークに巻きながら、「さっきは気を悪くした?」と、しおらしく訊ねた。

「いや、別に。君たちの意見は興味深かったよ」

「本当に?」

「本当だ」

「その割に、ずいぶんショックを受けたように見えたけど」

「面と向かって酷評されれば、誰だって固まるさ。今まで何度も同じことを説明してきたが、君らのように面と向かって『解りません』と言われたのは初めてだ」

「だって、解らないものは解らないんだもの、解ったような顔で頷いても、あなたの仕事の為にはならないでしょう。私ね、あなたのことが好きだから、正直に感想を言ったのよ。嫌いな奴なら適当におべっかつかって、『ブラボー、すごい、天才ですね!』で終わりよ」

「その気持ちは分かるよ」

彼が頬を緩めると、ゾーイもマスカラの睫毛をぱちぱちと瞬き、

「私ね、小学生の頃からプログラムを書き始めて、高校時代には『アプリパーク』や『デジタルコマース』で自作のアプリケーションを販売していたの。アプリといっても、女の子向けのアドレスブックやメモ帳の類いでね。たいした儲けにはならなかったけど、ヴィンテージのジーンズやパソコンを買うには十分だったわ。だけども、カスタマー相手って大変。自分では『使い方なんて見れば分かるだろう』と思うけど、これが案外通じないの。グリーンの吹き出しにメッセージを書き込むとか、メイルをくわえた小鳥のイラストをフリップすれば送信されるとか、簡単に思うけど、通じない人には本当に通じないのよ。そしてカスタマーレビューには『使い方が難しすぎます!』『インターフェースがイマイチ』なんて文句を書かれる。えっ、どうして? こんな簡単な操作がなぜ分からないの? 私の方が首を傾げたくなるぐらい。でも、ユーザーってそういうものよ。同じ人間だけど、知識も思考回路も全く違う。右に回すものを左に回したり、黄色いものが緑に見えるような人もいるわ。そういう体験を通じて、万人に通じるものを作るのがいかに難しいか、骨身に染みたの。だから余計であなたの話がお目出度く感じたのよ。立派なシステムを作れば、誰もが同じように機能を理解して、使いこなせると信じ込んでいる。でも、私に言わせれば、それこそ大きな間違い。ぱっと見て内容をイメージできないものは、その一秒で大半が価値を失うのよ」

「どういうこと」

「あなたがいかに完璧なオープンデータ・システムを構築しても、大衆が理解しないものは利用されない。そして利用されないシステムはいつか廃れて、赤字の元になる」

「じゃあ、君ならどうするんだ」

「さあね、それこそ専門家じゃないから、分からないわ」

「君だってその場の思いつきを並べてるだけじゃないか。文句を言うだけなら小学生だってできる」

「自身の見解がなければ批評してはいけないの? レビューを書いてる人たちをごらんなさいよ、まさにクレームを並べるだけ、自身のアイデアなんてありはしない。でも、私はそれを謙虚に受け止めてるわ。中には箸にも棒にもひっかからないようなのもあるけど、『操作が分かりにくい』と感じている人がいるのは事実だからよ。そして、これからあなたが相手にするのは、そういう一般大衆。あなたの提供する情報サービスをちらと触っただけで、一斉に批評を始めるのよ。『分からない方がおかしい』なんて態度をとったら、理解されるどころか反感を買うだけ。分からない人には説明書きを添えたって分からないのよ」

「だが、分からないなら、理解するための努力も必要だろ」

「そうね、まさにその通り、でもあなたなら、アプリケーションのバグに遭遇した時、自分でプログラムの一から勉強して、自分で解決しようなんて考える? 製品の開発元にクレームを入れるか、使用を中止するか、どちらかでしょう。海洋情報ネットワークも同じよ。ちらと見て、意義もメリットも理解できず、ただ専門用語が羅列されているだけのサイトを見ても、関心すら持たないわ。それなら私の友人が運営してるマリンスポーツのハウツー・サイトの方がよっぽど為になる、少なくとも『理解するための努力』なんてユーザーに求めないから」

だんだん彼の表情が険しくなると、ゾーイも少し躊躇したが、最後にとどめを刺すように言った。

「あなたは商業ベースで何かに取り組んだことがない人ね。立派なレポートを仕上げれば、それだけで褒めてもらえる学生レベルの経験しかない。分からない人や努力しない人は蚊帳の外に置いてきぼりで、逆になぜ『分かろうとしないのか』なんて責めるのよ。でも、そんな情報サービスが広く普及すると思う? 私たちが相手にするのは九割以上の『分からない人、努力しない人』なのよ」

【リファレンス】 プロジェクト・マネジメントについて

プロジェクトマネジメントは事業のグローバル化、IT化、リモート化などに伴い、これからますます必要とされる技術です。
情報としてはこのあたりが参考になるかも。
SI Object Browser PM プロジェクトマネジメント管理ツールプロジェクト管理の重要性や機能について詳しく説明されています。

Think!MANAGEMENT
マネジメント(課題管理)、ロジカルシンキング(論理思考)、ファシリテーション(合意形成)を軸に、みなさんの“ゴールをカタチに、毎日を確かに”する活動に役立つ情報をお伝えします。

プロジェクトマネジメントの極意は「一人の優秀なリーダーが睨みを利かせて、ぐいぐい統括する」ではなく、「同時進行で作業にあたる複数グループをいかに結束し、現状把握に努め、コストや作業の無駄を省いて、大きな成果を上げるか」の一言に尽きると思います。いわば、人間力、俯瞰力が大いに求められる仕事であり、たとえば、ITネットワークのプロジェクトマネジメントにあたっては、必ずしも人より抜きん出たITのスキルが必要というわけではない、要は自分より優れたスキルを持つ人々をどう動かし、効率よく仕事を進めるか、という事なのですね。
キプリング社長がヴァルターに「やってみれば」と勧めたのは、彼自身、突出した土木やITの知識技術があるわけではないけれど、仲間や協力者を集め、それぞれの長所を活かして、まとめあげる力があるからです。そして、社長自身も、自分より優れたスキルをもつ若手社員を上手に動かし、利益につなげる才覚があるのです。

順不同になりますが、プレゼンテーションの前、アナンド・キプリング社長は、ヴァルターにこんな話を持ちかけます。

*

プロジェクト・マネジメントについて

※ 海洋情報ネットワークの構築に向けて、ステラネットのキプリング社長から助言

「君、興味があるなら、プロジェクト・マネジメントの勉強をしてはどうだ」

「プロジェクト・マネジメント?」

「そうだよ。海洋情報ネットワークのようなプロジェクトを効率よく管理するスキルやノウハウを身に付ける」

「それは資格ですか?」

「そうだな、一口にプロジェクト・マネジメントと言っても、国際的なライセンスから、分野の限定された修了証書みたいなものまで内容もグレードも様々だ。もっとも資格は資格に過ぎず、取得したからといって、すぐさま管理職に取り立てられるわけではないからね。逆に、無資格でも立派な親方はたくさんいる。だが、自身の経験だけで動くのと、理論を習得して実地に活かすのではまったく違うはずだ」

「でも、何の為に?」

「何の為? アイデアを具現化して、人を動かす為だよ。まさか君一人で企画、営業、制作、財務管理まで一手に引き受けるわけではないだろう。わたしだって、社長といえど一から十までITに精通しているわけじゃない。特にこの世界は、十も二十も年の離れた若い世代の方がはるかに進んだ知識やセンスを有している。だから、その差を素直に認めて、互いの資質を活かせる関係を築くんだよ。その上で必要な作業を分担し、各部署の達成度を見ながら効率よくプロジェクトを推し進めてゆく」

「でも、俺は元々潜水艇のパイロットで、経営管理の経験は皆無ですし、いきなりプロジェクト・マネジメントと言われてもピンとこなくて」

「だが、君のやってきた事はそのものだろう?」

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『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで



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ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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