一般人にも分かりやすい海の情報の玄関口 オーシャン・ポータルを作る

一般人にも分かりやすい海の情報の玄関口  オーシャン・ポータルを作る

知識の門戸を広げる

一口に『知識』といっても、専門家にしか分からない高度なものから、子どもにも理解できるレベルまで様々です。
たとえば、「月蝕」という現象は小学生でも知っていますが、次の月蝕がいつ、どこで起きるかは、高度な知識をもった科学者でないと分かりません。
それでも、その現象が何を意味するのか、基礎的な知識を広めることは、無用な恐怖や混乱を避けるために必須です。
知識がなければ、稲妻を恐れ、日照りに生け贄を捧げる原始のままですから。

しかし、知識を得るのも、説明するのも、面倒なものです。

とりわけ複雑なことは、よほど興味がない限り、一般人は真剣に向き合おうとしません。

そこで、どうするか。

漫画を用いたり、体験型施設を作ったり、人気俳優を案内役に起用したり、あの手この手で興味を引こうとします。

それまでチンアナゴに何の興味もなかった人が、水族館でチンアナゴを見て、こんな不思議な生物がいることに感銘を受ける。

それは夏の一コマで終わるかもしれないし、チンアナゴよりポケモンGoの方がもっと面白いと思うかもしれない。

必ずしも、主催者の狙い通りに興味を引くとは限りません。

それでも、年間何十万と訪れる客の中に、一人くらい、自然環境や海洋生物に興味をもってくれる人があるかもしれない。

海洋学科に進学したり、水族館の飼育員になったり。可能性は無限です。

たとえ何万分の1の確率だからといって、知識を普及することを止めれば、そこで道も途絶えてしまうんですね。

とはいえ、イラスト一枚描くにしても、お金がかかりますし、イベントや施設の建造となれば、十万、二十万で片の付く話ではありません。

その点でどうしてもマイナーなもの、難解なものは、後回しにされがちですし、大衆性を意識し過ぎ て、展示がお粗末に終わることもあります。

一番の問題は、自治体や企業に、金銭的にも学術的にもサポートする意思がないことでしょう。

本作では、ゾーイの指摘を受けて、一般向けの海洋情報ポータルサイトの制作を提案します。素人にも分かりやすい『海の玄関口』です。

惑星表面積の97パーセントを海洋が占めるアステリアでは、島が発展するには、海の基礎知識が欠かせません。産業の創出や安全対策は言うに及ばず、学術、観光、教育など、様々な分野の根幹を成すものです。

それは果てしない道程かもしれませんが、止めてしまえば、未来も失われます。

知識の普及(教育)なしに社会の発展も有り得ないのです。

↓ 京都水族館のチンアナゴ
一般人にも分かりやすい海の情報の玄関口  オーシャン・ポータルを作る

【あらすじ】 海洋情報ネットワーク基金と『海の玄関口』

海洋情報ネットワークの構想は様々な関係者から支持され、プロトタイプ構築の基金設立へと繋がっていく。
しかし、依然として予算が大きな問題であることに変わりなく、本当に大勢の支持を得て、国家的なプロジェクトに発展するのか、不安は尽きない。
そんな中、一般層の関心を高める為、海の玄関口となる『オーシャン・ポータル』を提案する。

【抜粋】 一般人にも分かりやすく

海洋情報ネットワークの基金設立へ一歩前進するが、本当にそれが機能するのか、現場の懸念は拭えない。そんな中、リズは改めてオープンデータベースの重要性を説き、一般人にも分かりやすい海の情報の玄関口『オーシャン・ポータル』のアイデアをヴァルターが提示する。

魅力的な海のポータル・サイトを作ろう

「今年はアステリア始まって以来のイベント・イヤーです。特に四月からサマーシーズンにかけて、商業施設やオフィスビルのオープニングセレモニーが目白押しで、各界から多数の要人や招待客が来訪する予定です。ネットワーク構想を実現するなら一日も早く体裁を整え、その必要性を積極的にPRすべきでしょう。そこで前回のミーティングでも話が出ましたように、ひとまず産業振興会で『基金』を設立し、プロトタイプ構築の資金としたいのですが、皆さまのお考えはいかがです」

メイファン女史が意見を募ると、長年、産業振興会の要職を務めてきた高齢の男性が真っ先に口を開いた。

「その点に異存はないよ。トリヴィア政府のバックアップがなくとも、観測システムや情報共有の必要性は明らかなのだから、一日も早く基礎を固めて活動を始めた方がいい。ある程度、見通しが立てば、遠からず公的プロジェクトとして再編され、資金面でも人材面でも拡充が期待できる。まぁ、問題はどこまでクオリティの高いものに仕上げられるかだね。構想を練ってみたものの、海洋安全局の情報サービスと大差ないようでは何のメリットもない。また、あまりに大風呂敷を広げても、しまいに収拾がつかなくなり、プロジェクト自体が破綻するのが目に見えている。提案者の彼が言うように、『一般市民にも広く開かれた』というのが理想ではあるが、実現しようと思ったら、技術面でも資金面でも負担が大き過ぎる。ステラマリスのように何世紀もの蓄積されたアーカイブが存在するならともかく、アステリアはたかだか数十年の歴史だ。しかも人間社会は二つの離れ小島にしかない。同じ情報サービスを提供するなら、目に見えて実利に結びつく、高度で専門的なものに特化すべきではないだろうか」

「わたしも同意見だよ」と隣の男性も口をそろえた。

「一般人は、どちらかといえば遊びにしか興味がない。技術開発だ、新産業の創出だと立派な看板を掲げたところで、一部しか関心を示さないだろう。確かに彼のアイデアは素晴らしいし、メイファン部長やキプリング社長がそこまで高めたいという志にも共感する。だが、現実はどうだ。産業振興会の勉強会に足繁く通う顔ぶれも、毎回ほとんど同じじゃないか。あれほどメディアで啓蒙しても、所詮、この程度かとがっかりさせられることも多い。それと同じことになれば、また一つ赤字プロジェクトを抱える羽目にならないか。大多数を対象としなくても、本当にそれを必要とする海洋産業や研究分野に絞り込んだ方がはるかに良い結果が得られるような気がする。末端に普及するのは、それからでも遅くはない」

と、その時、隣に座っていたリズが思いがけなく強い口調で言った。

「実利や専門性を第一とする理事らの意見は尤もですが、それこそ海上安全局の情報サービスを拡充するだけで十分ではありませんか。わたくし共が海洋情報ネットワークを新鮮に感じたのは、『一般に訴えかける』という点です。そもそも一般人が遊びにしか興味を持たないのは、ボート遊びやリゾートホテルのように娯楽色の強い情報ばかりが前面に押し出され、学問や産業に繋がるような、素人でも分かりやすい情報が不足しているからではありませんか。一般人が興味を持つのは、不思議なものや美しいものです。そうした心の体験が海への想いを深め、好奇心を掻き立てるのですわ。どうせ作るなら、アステリアならではの、個性あるものを構築しませんか。ステラマリスとは異なる、海の玄関口です」

「しかし、ミス・マクダエル、そういうことなら、それこそ観光サイトで十分じゃないですか。お気持ちは分かりますが、下手に一般向けの情報と科学的情報を混ぜない方がいいと思います。あれもこれも取り込めば、作る側も混乱します」

先ほどの高齢男性が穏やかな口調で疑問を返すと、代わりにキプリング社長が答えた。

「先日、我が社で若い社員を対象にプレゼンテーションを行ったのだが、皆さんのご指摘通り、一般層の見識にはがっかりさせられる点も多い。だが、見方を変えれば、社会や周りの大人が『資源』としての海の価値を教えなかった原因も大きいだろう。TVゲームしか経験のない子供にプログラミングの面白さを説いたところで何の反応もないのと同じだ。実際にソースコードを見せて、それがアプリケーション上でどのように動作するか、両方示して初めて子供も納得する。海も同じだよ。周りにボートとキャンプの話題しかなければ、それが全てになるのは当たり前だろう。観光業界は儲かるかもしれないが、肝心の『人』は育たない。次代の産業を担う高度技能者や創業者だ。我々が欲しているのは、ディンギーヨットの名手ではなく、ミス・マクダエルのように社会資源として海の価値を理解し、産業振興会の勉強会にも足繁く通う若手のはずだ。だったら、その取っ掛かりとなるものを整備するのも我々の責務だと思うがね」

海の情報の玄関口:オーシャン・ポータル

※ 上述の続き。分かりやすいウェブサイトとして、オーシャン・ポータルの構築を提案する。

「娯楽性やメッセージ性に富んだ『オーシャン・ポータル』はどうです? 俺が少年の頃、よく通っていた海洋博物館の公式サイトが非常に優れたものでした。水族館のライブ中継やヴァーチャル飼育、フォトギャラリーなど、家族向けコンテンツの他に、海の百科事典や魚の図鑑など、学術的な内容も充実していました。アステリアも、これから調査が進めば、興味深い自然現象が次々に明らかになるでしょうし、海洋開発の歴史を編纂して、巻物風に紹介するのも意義深いと思います」

「そんなものに人が興味をもつかね」

「歴史は共同体の基盤でしょう。ここには独自の文化もなければ民族もない、いろんな属性の寄せ集めですから、皆を一つに結ぼうと思えば、全体の共感を呼び起こすキャッチコピーが必要だと思うんです。とりわけ、ここで生まれ育った若い世代はアイデンティティの基盤となるものを欲しがっています。自分が何もので、どんな社会に暮らし、この先、何処へ向かうのか、明確な道筋を求めています。その根本となるのが歴史ではないですか。俺は歴史のある土地に生まれ育っているから、逆に彼らの不安や閉塞感が何となく分かるんです。アステリアは属領だけれど、だからといって何の個性もないわけではない。ここがどういう経緯で開かれ、今後どんな海洋社会を目指すのか、分かりやすく示せば、意外と興味を引くのではないでしょうか」

<中略>

「手記的なものなら素人でも手がけることができるでしょう。開発が本格化した三十年前から、ここで根を張って仕事に打ち込んできた人が大勢います。いわば歴史の生き証人です。そういう人たちがまだ現役で活躍しているうちに、貴重な資料や証言、記念の物などを残せませんか。時と共に人々の記憶も薄れたら、感動も何も残らなくなる。それに、何かの形を残せば、その人たちにとってもこの地に生きた証になるでしょう」
「それを海洋情報ネットワークに取り込む?」

「一般向けのコンテンツとして提供することは可能でしょう」

「金は誰が出すんだね」

「……それはまた後で考えます」

「実務がからむと、君は弱いな」

「その為に専門家がいるのですわ」

リズが言い添えた。

「会計、広報、営業、法務、研究。それら全てを提案者がこなす必要はありません。海洋学の専門家でなくとも、ブレーンを組織して海底鉱物資源の採掘をすることは可能です。JP SODAの創始者も元は製塩業ではありませんか。必要とあらば、皆で知恵を出し合えばいいことです。アイデアの提案者が資金集めから営業まで、一手に引き受ける義務はありません」

【リファレンス】 モナコ海洋博物館

海洋学者でもあったアルベール一世の業績を記念して作られたモナコの海洋博物館。 

専門家向けの研究施設から一般向けのイベントやアトラクションまで、知る、学ぶ、遊ぶ、様々な工夫がなされています。

モナコ海洋博物館

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。
『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで


 著者  石田朋子
 定価  --
 ページ数  1509ページ
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