One Heart, One Ocean 海に生きる人々の願い ~立場や思想を超えて

One Heart, One Ocean 海に生きる人々の願い ~立場や思想を超えて

一つの海 一つの心

海にも陸にも、本来、境界はありません。人間の都合がそこに境界を設けるのです。
境界によって守られる利益もあれば、いっそう複雑化する問題もある。
何を重んじ、何を優先すべきか、人の見識と歴史的センスにかかっています。

この社会にはいろんな人が暮らしています。
お金持ちもいれば、名もない会社員もいる、そして、多くの人は社会の平和と幸福を願っています。
立場も考えも異なる人々を一つに束ねるのは容易ではありませんが、それでも私たちは明確な指針を示さねばなりません。
なぜなら、私たちは同じ一つの船に乗る共同体だからです。

本作では、『One Heart, One Ocean』というスローガンに託して、海洋社会の指針を示します。

立場の違いはあっても、人はやはり希望のもてる理念に動かされるのではないでしょうか。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。
詳しくは作品概要と記事一覧をご参照下さい。
冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 人々を一つに結ぶ未来のスローガン

海洋情報ネットワークの構築にあたり、ヴァルターと関係者は、同様のオープンデータベース・サービス『汎大西洋ネットワーク』の構築と運営を手掛けるアトランティック・データのエグゼクティブ・チーフとオンラインミーティングを行い、意見を求めるが、先方の見方は厳しく、海洋情報ネットワークを成功させるなら、一般大衆が引き付けられるような「何か」が必要だと指摘され、改めて運営の難しさを思い知らされる。
意気消沈するヴァルターとリズに、海洋情報部のメイファン女史はディナー・クルージングの招待券をプレゼントし、「もっと今という瞬間を楽しんで」とアドバイスする。
二人は幸せな一時を満喫する中、アニバーサリー・ケーキのデコレーションから人々を一つに結ぶ未来のスローガンを思い付く。

【抜粋】 One Heart, One Ocean

ヴァルターとリズはディナー・クルージングの招待を受け、港で待ち合わせる。

幸福を追い求め、安らかに暮らしたい願いはみな同じ

今夜はブルーライン海運公社の関係者や地元のアッパークラスを招いての処女航海であり、専用桟橋にも一目でそれと分かる上品な老夫婦や、美しく着飾った女性客、スーツ姿の紳士らが集まっている。彼もドレスコードに従い、一番見栄えのいいカジュアルスーツとネクタイを身に着けてきたが、どうにも場違いな気がする。人目を避けるように植え込みの陰のベンチに腰掛けると、枝葉の隙間から周りの様子を伺った。

それにしても、この小さな島社会にこれほど裕福な人が存在するのかと我が目を疑うほどだ。アステリアに居住権を有する富裕層の多くは不動産投資と娯楽が目的で、実際に定住しているのは少数だという。彼らはタクシーでも飛ばすようにプライベートジェットでトリヴィアとアステリアを行き来し、サフィールのような会員制施設でクルージングやパーティーを楽しんだ後、本宅に帰って行く。だからこそ、パラディオンのように一般社会から隔絶された安全かつラグジュアリーな海上都市に需要が生まれるのだろう。

それはそれで一向に構わないが、ここに新たな富と権力をもつコミュニティが誕生し、ローランド島―ウェストフィリアから成る第二の経済特区を創設して、既存社会の自由公正な土壌を崩しにかかるなら、看過できないものがある。

誰が絶対的に正しいわけではないが、ネンブロットやトリヴィアのように一党支配で社会が押し潰されるなら――そして、その為に治安が悪化し、リズのように犬の首輪を付けられて、一人でのんびり海岸を散歩することもできない世の中になるなら、やはり大勢が納得し、公共に利益が還元されるような施策をとるべきではないだろうか。

それでも笑いさざめく人々を見ていると、それぞれに暮らしがあり、人生があり、同じ一つの海に生きる同胞であることを痛感せずにいない。マイルズ調査官に教えられた「ネンブロットの平原に立てば、みな同じ」だ。浮き世の悩みなど超越したようなアッパークラスの老夫婦も、ゾーイのようにちょっぴりはみ出た女の子も、人として幸福を追い求め、安らかに暮らしたい願いはみな同じだ。

だが、立場も考えも生活レベルも異なる人々を、どのように一つに結びつければいいのか。フェールダム復興のように、誰にとっても明快かつ、ぶれない目標があれば分かりやすいが、アステリアは寄せ木細工だ。「干拓地」「治水」といった共通のバックボーンもなければ、誰もが共感する未来図もない。

ビジョン。

リズが言うように、何も説明しなくても、パースを見るだけで未来のペネロペ湾を思い描くことができるものだ。何かこれといったイメージやスローガンがあれば、海洋社会の理念も訴えやすくなるのだが……。

One Ocean, One Heart 生きる海は一つ

※ クルーザーの甲板で、アニバーサリー・ケーキが配られる。そこにデコレーションされた『One Heart, One Ocean』のメッセージに目を見張る

「One Ocean, One Heart. いい言葉だな」

「どういうこと?」

「アステリアだよ。オーシャン・ポータルのスローガンだ。誰がどのように領海線を引こうと、海は永遠に一つだ」

「その通りよ。海は誰のものでもないし、その恵みは永遠よ」

それぞれが利益や幸福を追い求めるにしても、共同体には一つの目標が必要だ。どんな社会を作りたいのか、何を目指すのか。だが、今のアステリアには個々を繋ぐ理念がない。みな、漠然と意識はしているが、これという形がない。One Ocean, One Heart ──これをアステリアのスローガンに出来ないだろうか。たとえば、パリには『たゆたえども沈まず』、ロンドンには『主よ、われらを導きたまえ』というモットーがあるだろう。それと同じようにOne Ocean, One Heartをアステリアのスローガンにする。たとえ幾多の勢力がアステリアを分断しても、海は決して分かてない。人の願いも永遠に一つだ」

「素敵ね。誰にでも分かりやすくて、なおかつ愛がある。どんな命も元を辿れば一つの海に行き着くんですもの。たとえ目指すものは違っても、利害で社会を分かつべきでないわ」

「鉱業局のマイルズ調査官が言ってたよ。ネンブロットの平原に立てば、みな同じだと。俺たちは皆、同じ星の物質を分かち合って生きている。宇宙の視点から見れば、MIGもファルコン・グループもないんだよ。俺は立場の違いを越えて、全体に働きかけたい。海が誰のものでもないように、どちらかの側から裁きを下すのは間違いなんだ」

「あなたは何にも縛られることはないわ。私は『アル・マクダエルの娘』としての自覚や責任があるから、どうしてもMIGの側に立った物の見方しか出来ないけれど、あなたは違う。何ものからも自由だから、本当の意味で虚心坦懐になれる。そして、それが説得力になる」

「リズ。俺はね、きっとお目出度い理想主義者なんだよ。誰もが分かりきっていることでも言わずにいられない。なぜって、分かりきったことを、誰もやろうとしないからだ。何事も、こんなものだと妥協するのは簡単だ。見て見ぬ振りすれば、火の粉をかかることもない。だが、それが俺の生き方かと問われたら、断じて否だ。父もそんな平穏は望まないだろう。そこに問題がある限り、自分なりに力を尽くしたい。もう二度とこんな節介はしたくなかったが、それでも俺は父のように生きたいと思う。俺にとってはOne Ocean, One Heartが願いの全てだ。これからも、どんな形でも、訴えかけていきたい」

【リファレンス】

私も最近知ったのですが、『One Ocean』というのはフロリダ州の海洋アドベンチャーパーク『SeaWorld』の標語なんですね。
たかがシャチのショーと思うかもしれませんが、実際、その場で見たら感動しますよ。
人間さまは、シャチに水をかけてもらって、遊んでもらうという……アメリカらしいエンターテイメントです^^; 
(醒めた目で見たら、少々、情けない。シャチに水をかけてもらって、何が嬉しいんだか……)

One Ocean Sea World
https://seaworld.com/orlando/shows/one-ocean/

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。
『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで


 著者  石田朋子
 定価  --
 ページ数  1509ページ
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