生命の始まりは微生物 産業開発と海の宇宙的価値

生命の始まりは微生物 産業開発と海の宇宙的価値

生命の起源と海の価値

古来より、生命の起源をめぐって、様々な説が取り沙汰されてきました。

宇宙から有機物を含む小天体が飛来して、地球に生命の素となる物質を供給した。

プレ生命ともいうべき微少な存在が突然変異的に生命活動を営むようになった。

はたまた宇宙人の植民地化まで……。

宇宙人の植民説はともかく、天体衝突説、突然変異説、どれもが本当で、どれもが真実という気がします。

生命誕生に至る道筋は一つではなく、様々な要素が複合的に絡み合い、何億、何十億という時の積み重ねを経て育まれたもの。

どの要素が欠けても成り立たないし、どのプロセスを抜かしても、結実には至らない。

全ては歯車のように影響し合い、巨大な潮流を創り出す。

宇宙的な時間の流れから見れば、人類の栄枯盛衰などほんの一瞬に過ぎないし、ましてや個人の寿命など。

にもかかわらず、人の心は宇宙より広いと思えるのは、人間の内側にも何かを創り出すエネルギーが満ちているからではないだろうか。

【あらすじ】

水深3000メートル下からニムロディウムを含む海底鉱物資源を採掘すべく、アル・マクダエルは海上採鉱プラットフォームを建造するが、本採鉱を前に、プロジェクトリーダーが失踪するという憂き目に遭う。急遽、海中技術に長けた潜水艇のパイロットを探し求めるが、海洋技術センターから推薦されたのは、職も失い、故郷にも居られなくなった放浪中のヴァルター・フォーゲルだった。
トレーラー村に引きこもる彼となんとか接触を図るが、彼の態度は好戦的で、アルの言説にいちいち食ってかかる。
海底鉱物資源の採掘にも否定的なヴァルターに対し、アルは理由を問うが、彼の答は素っ気ない。
しまいには、環境破壊を持ち出し、アルの意見を論破しようとする。

【抜粋】 たかが微生物にも:生命の起源と海の宇宙的価値

「だいたい俺はアステリアの海底を掘り返そうという考え自体が気にくわないんだ」

「なぜ? 未曾有の鉱物資源だぞ?」

「それは企業家にとってだろう。海の生き物は違う」

「アステリアの海に生物は無い」

「あるさ。ここに証明されてるじゃないか。ローレンシア海域でも、赤道直下でも、数種類のプランクトンが発見されている。全海域をくまなく調査すれば、もっとたくさんの生物が見つかるはずだ。それを無視するなんて、おかしいじゃないか」

「たかが微生物だぞ。こういう事はどこの惑星開発でもつきものだし、ステラマリスも同様だ。生態も分からぬ微生物までいちいち保護の対象にしていたら、開発事業などとても成り立たない。保護すべき生物が発見されたら、その時点で対策を考える。それより。我々が今為さねばならないのは、我々自身の世界をいかに構築するかだ」

あんたら企業家は『たかが微生物』と言うが、人間だって『たかが微生物』から進化したんだ。海の中で、何億年という時間をかけて。アステリアの海も生きている。ステラマリスの海と同じように生きているんだ。その生命の萌芽を、自分の事業の為に摘み取ってしまうつもりか? あんたに『我々の世界』があるように、アステリアの微生物にも『我々の世界』がある。もっとも、あんたみたいに海の本当の価値を理解しない企業家に、踏みにじられる生命の痛みなど分かりやしないだろうがな

「ヴァルター。わしは慈善事業家ではない。今、お前と環境問題を論じている場合ではないのだ。確かに微生物にも価値はあろう。だが、わしには自分の事業に連なる何千、何万という人間を養う義務がある。それは海のプランクトンを飼育するより、はるかに重大な責務だ。アステリアの海には未曾有の鉱物資源が眠っている。海のニムロディウムの採鉱に成功すれば、大企業の寡占も緩み、地下数百メートルの過酷な環境で、重さ数十キロのドリルを抱えてニムロイド鉱石を採掘している人々も、過酷な労働から解放されるだろう。今は目に見えないが、アステリアの海には計り知れない社会的価値がある。それでもまだ数種類のプランクトンの為に海底鉱物資源の採掘を中止しろと言うのかね」

「だったら、あんたが見殺しにした微生物は口を揃えてこう言うだろう。『今は目に見えないが、アステリアには十億年の生物学的価値がある』。生命の進化は文明の進歩より緩慢だ。だが確実に変化している。人間が介在しなければ、アステリアも何十億年という歳月をかけて独自の進化を遂げるだろう。あんたら企業家は、実利に結びつかないものは何でも『無駄』『無益』と切り捨てるが、アステリアの本当の価値が分かるのは、あんたの会社が潰れて、人類が滅び去ったその後だ」

【リファレンス】 海底鉱物資源の採掘と環境破壊

小説では、主人公のヴァルターが環境破壊をネタにアルに噛み付きますが、実際、海底鉱物資源の採掘が海洋環境の破壊であるとする主張はあります。

洋上プラットフォームからの重油や産業廃棄物の流失
タンカーや石油リグでも問題になっています。

鯨やイルカなど、海洋生物への騒音被害
海の中では音波は遠くまで伝わりますから、イルカのように超音波でコミュニケーションをとっている生物への被害が懸念されます。

破砕機や集鉱機が海洋性植物までカットしてしまう
海底の重機には植物と鉱物を選別する機能はありませんから、貴重な海洋性植物の群生を破壊する可能性は高いです。

地学的にもユニークな熱水噴出孔を破壊する
たとえ活動を終えたデッドチムニーでも、地学的にはもちろん、生物学的にも貴重な存在であることに代わりありません。海底鉱物資源の採掘は、これらを根こそぎ破壊しますので、様々な悪影響が予想されます。

ミクロの生命圏を脅かす
目に見えなくても、海底には様々な生命が存在します。たとえ微生物でも、海洋システムの一端を担う貴重な存在です。未だ解明されていない部分も多いので、たとえ水深数百メートル、数千メートルの海底であっても、これらの生命圏が破壊された時の影響が皆無とはいえません。

作中では「ヘリクツばかり並べおって」と苦言を呈していますが、ヴァルターの主張も決して誤りではないのです。

海底鉱物資源の採掘によって懸念される海洋汚染と環境破壊

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。
『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで


 著者  石田朋子
 定価  --
 ページ数  1509ページ
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