集鉱機と揚鉱管の接続とストレインセンサーの取り付け

37. 無人機による水中作業 集鉱機と揚鉱管の接続とストレインセンサーの取り付け

深海での水中作業、誰がどんな風に接続するのか

世界には、石油リグ、掘削船、海洋調査船、等々、何百、何千という海洋施設が稼働していますが、水深数百メートルから数千メートルに及ぶ深海では、どのようにパイプの手入れをしたり、機材と機材を組み立てたり、設備の点検などを行っているのでしょう。

これは長い間、私の中で謎でしたが、21世紀、YouTubeの登場で、おおよそは理解できました。

こんな小さな無人機で、ネジを締めたり、配電盤のスイッチを入れたり、センサーを取り付けたり、できるんだな、と。

馴れた人なら、数百メートル、数千メートルの海底下にある無人機のマニピュレータのグラバーも、自分の手先みたいに感じるのかもしれません。

それって、RPGで、自分のアバターを現し身のように操作する感覚でしょうか。

ともあれ、針の穴に糸を通すのも難儀する私には真似できそうにありません。

惜しむらくは、日本には石油リグのようなものが存在せず、水中工学のエンジニアや無人機のオペレーターに対する需要が海外に比べて低め、という点でしょうか。水深数千メートルを調査できる素晴らしい技術があるのに、勿体ない話です。その分、海洋土木やインフラの方に流れているのかもしれませんが。

何にせよ、これからますます遠隔操作やロボットの技術が進歩して、海洋=宇宙の間で技術交換が活発化するかもしれません。

私としては、月や火星に行くより、もっと深海に行って欲しいですが。

ちなみに本作に登場する海底鉱物資源の採鉱プラットフォームのモデルについては、実際に開発中の『Nautilus Minerals』を参考にしています。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。

詳しくは作品概要とタイトル一覧をご参照下さい。

冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 無人機による水中作業

いよいよ水深3000メートルの海底から、稀少金属ニムロディウムを含む海台クラストの本採鉱が始まった。
採鉱システムの揚鉱管、高電圧リアクター、集鉱機を繋ぐ接続ミッションで、ヴァルターは潜水艇プロテウスから小型無人機をランチャーし、水中作業を進める。(潜水艇から小型無人機をランチャーするアイデアはジェームズ・キャメロンの映画『タイタニック』から拝借しています。タイタニックでは、アメリカの有人潜水艇アルヴィン号が実際に使われています。ちなみに日本の『しんかい』にはランチャーする機能は無いとのこと。その代わり可愛いバスケットと高機能ハイビジョンカメラがついてます♪)

揚鉱管のフレキシブルホースと集鉱機の接続を行う

プロテウスが水深三〇〇〇メートルの目標位置に到達すると、マードックから連絡が入った。
「現在、集鉱機の位置はプロテウスから西に100メートルほどだ」
「フレキシブルホースの先端は?」 
「集鉱機の前方3メートルだ。ほとんど横並びになっている」
「OK。では、このままもう少し前進する」

程なく、プロテウスのメインモニターにフレキシブルホースの先端、集鉱機、プロテウスの位置関係を示す三次元マップが現れた。音響データからリアルタイムで作成されたイメージ画像だ。さらに80メートルほど前進すると、右モニターにプロテウスの音響ビデオカメラが捉えた集鉱機のイメージが映し出された。

「集鉱機の背面がかなり左に向いている。もう少し左回りして、背面をこちらに向けてくれないか」

「OK。調整するよ」

オペレーション室の集鉱機オペレーターがアンビリカブルケーブルを通じて海上から遠隔操作すると、集鉱機はのっそり左に旋回し、ポジションを整えた。
だが、前から予測していたように、採鉱区全体が約10度傾斜している為、採鉱機も前方が少し持ち上がるような形になっている。だが、これ以上、機体を調整しても完全に水平になることはないだろう。 

続いてルサルカを遠隔操作するノエ・ラルーシュから連絡が入り、
「こちらもプロテウスと集鉱機を捉えた。これから接近して投光器を向けるから、それを目標に前進してくれ」

「了解。あと10メートル、前に移動する」

そうしてプロテウスが集鉱機の背面から10メートル手前まで接近すると、そのほぼ真上にルサルカの強力なハロゲンライトが見えた。ライトが照らし出すわずかな視界に、集鉱機の白い背面と、機体後部に接続されたアンビリカブルケーブルがはっきり目視できる。

ヴァルターはエイドリアンの方に向き、
「今からクアトロを発進させる。俺がコントローラーでプロテウスを集鉱機の左サイドに保持するから、お前の方でクアトロを集鉱機まで接近させろ。集鉱機のアンビリカブルケーブルに絡まないよう、気を付けてな」

「了解」

ヴァルターはエイドリアンと操縦席を変わると、レバーコントローラーと数種類のボタンが付いたコントローラーを持ってカーペットに腰を下ろした。左の覗き窓と操縦席のメインモニターで外の様子を確認しながら集鉱機の左側面に回り込み、集鉱機と同じ高さに位置を保ちながらホバリングする。

エイドリアンはクアトロのコンソールを操作し、プロテウスの前方に取り付けられたランチャーから発進した。ケーブルに繋がれた四〇センチ四方の無人機が小さなスラスタを回転させながら、そろそろと海中を進んで行くのが見える。

クアトロにはソナートラッキング機能があり、ソナーが捉えた目標物までの距離と方位を自動的に算出して、前進操作だけで目標物に接近することができる。またコンソールを神経質にいじらなくても、機体を常に水平に保ち、同じ深度を維持する自動操縦支援機能も備わっており、その点では「大学生でも出来る」というのは本当だ。

「もう一度、対象物の位置を確認しよう」マードックが呼びかける。
「フレキシブルホースの先端は集鉱機の真上、10メートルの位置にある。これから揚鉱管全体を十一メートル下げるから、先端を捉えたら合図してくれ」

タワーデリックから再び揚鉱管がゆっくりと海中に降下され、ちょうど10メートル下がった時、「見えました!」とエイドリアンが叫んだ。

クアトロの水中カメラが、フレキシブルホースの先端に取り付けられた直径30センチの重錘式コネクターをはっきり捉えている。

管制室で見守るリズも、モニターに銀のコネクターがユラユラ映し出されると、ぎゅっと両手を握りしめた。

「僕もルサルカのカメラで確認した。集鉱機の接続部に届きそうか」

「やってみます」

フレキシブルホースは柔軟性に富んだ特殊樹脂で作られ、等間隔でジャバラが施されているため、白と蛍光黄のまだらのウミヘビのように見える。

直径30センチのコネクターはプラグ型、集鉱機の接続口はソケット型になっており、両側の接合パーツが組み合わさると、自動的にロックダウンされる。
エイドリアンはクアトロをもう三メートルほど前に進め、マニピュレータの両側アームをいっぱいに伸ばすと、コネクターの上部に取り付けられたU字型のフックをグラバーでキャッチした。

全長9メートル、幅6メートルの集鉱機はクアトロのカメラに収まりきらないが、何重にも入り組んだ配管やポンプユニット、プロテクトケージに守られた油圧装置、大小様々なスイッチと計器が配された配電盤が暗い水の中に浮かび上がって見える。そして、重機の真上には金属フランジの接続口。直径はフレキシブルホースのコネクターより一回り大きい36センチだ。

エイドリアンはグラバーでコネクターを把持しながら徐々にクアトロの深度を下げ、両者の距離が50センチまで近づいた。

「接続する前に、もう一度接続口を確認しろ。たまに異物や堆積物が被っていることがある」

マードックの指示を受け、ヴァルターもモニターに目を凝らして凹型の接続口を確認するが、特に異常は見られない。

「よし、接合していいぞ」

マードックからGOサインが出ると、エイドリアンはさらにコネクターの先端を近づけ、ゆっくりアームを降ろした。それと同時に向かい合ったフランジが重なり、一見、凹凸が噛み合ったような感じだが、まだ完全に接合していない。

「少し右に回すような感じで、もう一度、ムーブダウンしてみろ」
マードックが助言すると、エイドリアンはコネクターの先端を20センチほど持ち上げ、再び接続口に近づけて、少し右に回すような感じで凹部に押し込んだ。

すると接続面が上手く噛み合ったのか、かちりと音を立てるように金属円盤が回転し、コネクターの先端が自動的に10センチほど内側に引き込まれた。動作が完了すると、金属フランジのグリーンランプが点灯した。

「いいぞ。接続はそれでOKだ。次にT型ピンを抜いて、安全装置を解除しろ」

T型ピンは大人の拳ほどの大きさで、金属フランジの後方二〇センチほど離れた所に差し込まれている。エイドリアンは再びマニピュレータのアームを伸ばし、T型ピンの頭を掴むと、縦向きに回転し、ピンを抜き取った。

「よし、次はダイヤル式スイッチを『CLOSE』から『OPEN』に回せ」

再びアームを伸ばし、T型ピンの右側にある掌ほどのダイヤルを掴むと、『OPEN』に切り替えた。

「パーフェクトだ、エイドリアン。これで揚鉱管は繋がったぞ」

リフトポンプのストレインセンサーの取り付け

※ 揚鉱管のリフトポンプにストレインセンサー(歪み感知器)を取り付ける

10分後、プロテウスはいったんクアトロをランチャーに回収した後、ゆっくり上昇し、ルサルカの照らす光源の下で水中リフトポンプを目視した。

リフトポンプは12個の球状チャンバーからなるハイドロモーターで、横幅5メートル、縦2.5メートル、高さ2メートルの格子型メタルフレームの中に前後6個ずつ並んでいる。空中重量は120トン、プラットフォームに設置された注水ポンプの作用により、一分間に15立方メートルの泥漿を組み上げる力がある。

最初にルサルカが至近距離まで接近し、揚鉱管と水中ポンプのトランジション・ジョイント、ポンプ本体、ポンプ底部とフレキシブルホースを繋ぐコネクターの状態を水中カメラで確認する。

「目視でも、計器の上でも、特に異常はないようだ。そちらに問題がなければ、ストレインセンサー(歪み感知器)の取り付けを開始していいぞ」

ストレインセンサーは揚鉱管にかかる異常な圧力や衝撃を検知するスティック状の装置で、揚鉱管とリフトポンプのトラジション・ジョイントの上部に取り付ける。揚鉱管の歪み、膨張、振動、温度以上などを検知することで機械の変形・破損、システムダウンといった深刻なダメージを回避するのが目的だ。海中に降下してからセンサーを取り付けるのは、パイプが目標の深度に到達し、海中に静止した状態でインストールしなければ感知器がダメージを受けやすいからだ。

「ノエ、ルサルカの投光器をストレインセンサーにフォーカスしてくれ」

ルサルカが一メートルほど上昇し、右上方から投光器を向けると、あらかじめ揚鉱管に取り付けられている黄色いスチール製のプロテクト・ケージがはっきり目視できた。
ケージの長さは約90センチの円筒形で、四本のスチールパイプに守られている。

<中略>

クアトロがプロテクトケージの前まで接近すると、まず左のアームでスチールパイプの真ん中を掴み、機体を固定する。それから右のアームを機体の下方に伸ばし、工具バスケットから黄色いインストールボックスを取り出る。このボックス型ツールの中に細長いセンサーが収納されており、揚鉱管のプロテクト・ケージの中に嵌め込んで、スイッチを入れれば完了だ。

インストールボックスの形状は真ん中が少しくびれていて、プロテクトケージの内側に取り付けられたプラスチック製のブロックとぴったり合うようになっている。彼はインストールボックスの上下を確認すると、型を合わせるようにプロテクトーケージに嵌め込んだ。同時に、ストレインセンサーの上下に取り付けられたフランジボルトが揚鉱管の金具に合わさり、両者が一体化する。

さらに固定を完全にする為に、工具ボックスから六角形の細長いレンチを取り出すと、フランジボルトの六角形の凹みに差し込んだ。続いてグラバーの手首を右にフル回転し、フランジボルトを深く締め付けて行く。これでストレインセンサーが完全に揚鉱管に固定される。まずは上側。そして下側。…

【リファレンス】 水中無人機 ROVの作業の実際

無人機(ROV)を使った海中オペレーションの模様です。参考に。

ライザーパイプ(本作では揚鉱管)のオペレーションを紹介するビデオです。CGアニメーションですが、イメージの手助けに。

水深3000メートルの海底に到達する『揚鉱管』のイメージはこんな感じです。山より距離的に長いわけですから、技術的にどうよ、という話です。

ストレインセンサーにも色んな種類がありますが、これはあくまで一例として。
水深数十メートルならともかく、数百メートル、数千メートルにもなれば、水圧の破壊力も半端ないですし、鉄パイプは真っ直ぐでも、洋上のプラットフォームと、深海底の重機の位置は必ずズレてきますから、常にポジションを垂直に保ち、なおかつ、パイプの歪みもチェックする、非常に重要なポイントです。
パイプが途中で折れるより先に、洋上のプラットフォームが引きずられて、採鉱システムが激しく損傷する危険性もあるでしょうしね。

ストレインセンサー

ストレインセンサー

ストレインセンサー

無人機 オペレーション

海洋調査でも、石油リグでも、とにかく海中というのは暗い。これは撮影用に横からライトを照らしてますから、まだ明るく見えますが、それでも数メートル先が闇なのは変わりません。加えて、海中の浮遊物(プランクトンや舞い上がった堆積物)も多いですから、視界は非常に悪い。場合によっては、魚が機材に絡んでくることもあります。(それをROVが救出するビデオも見たことがあります)
技術も日々進歩していますので、数十年後にはもっと性能の良いライトやカメラが登場するでしょうけど、それでも「暗闇の作業」は変わらないと思います。

無人機

海外では女性も洋上プラットフォームで技術者として働いています。一生ものの技能職です。

プラットフォーム

Photo : http://www.oceaneering.com/rovs/rov-personnel-and-training/

日本には石油リグは存在しませんから、それを専門とするオペレーション業者もメーカーも注目されませんが(プラットフォームの設計・建造や部品の製造を請け負う会社はあります)、海底油田やガスの採掘が盛んな国では、オペレーティングや関連メーカーが一大産業になっています。

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『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで



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ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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