学界に名誉の旗を立てるだけが学問か? 血塗られた貴石と科学者の誇り

学界に名誉の旗を立てるだけが学問か? 血塗られた貴石と科学者の誇り

閉ざされた鉱山の秘密

『学術調査の立ち入りさえ許さない』――というのは、某有名企業の鉱山のエピソードからヒントを得ました。
そこでは、従業員の立ち入りには、原理食施設並のセキュリティ・システムがしかれ、エックス線や金属探知機や、あらゆる手法を駆使して、鉱物の不法持ち出しをチェックしているそうです。10グラムでも万単位で取引される鉱物となれば、その価値は金塊以上ですから。【ロブ・ライナー監督の映画『ミザリー』にも、鉱物を不法に持ち出した労働者に対して、両足首を切断し、生涯、鉱山から逃げ出せないようにする、というエピソードがありました。(映画ではあまりに残虐な為、両足首をハンマーで砕く演出に変わっていましたが。原作はスティーブン・キングです)。今も第三国では銃を構えた民兵に囲まれて採掘している現実を思うと、あながち作り話でもないのだろうと想像します】

その企業は、政治的にも、学術的にも、情報操作を完全に否定していますが、企業機密を理由に、学術員の立ち入りさえ許さない=その鉱物がどのように形で存在するか、地学的に調査することさえ許さないようでは、世間に疑念を抱かれても仕方ありません。私たちが信じている科学的な定説――「○○は××の地層からしか産出しない」「○○の埋蔵量は××である」――もどこまで本当なのか、疑い出せばキリがありません。

そして、それがまかり通っているのは、単に一企業の営利が目的ではない、政治的、軍事的、商業的、様々な思惑が絡み合って、今のシステムを形成しているからでしょう。

地動説やオイルショックのように、一つの科学的真実は、国家の根幹をも揺るがす影響力を持っています。

富の源泉を守る為なら、天動説も無理矢理、押し通すかもしれません。

本作は、こうした陰謀系エピソードから着想を得ています。
それが政治的デマなのか、現実の根拠に基づくかは、いろんな資料に目を通して、ご自身で判断して下さい。

読んでみると面白い
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このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。
詳しくは作品概要と記事一覧をご参照下さい。
冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 血塗られた貴石

北方のウェストフィリア島の探鉱に乗り出したファルコン・マイニング社の社長ロバート・ファーラーは、自らが出資するウェストフィア開発公社の視察にやってくる。
ファーラー社長の手中には、数十年前、美しい乙女から暴力で奪い取った、青い貴石があった。
稀少金属ニムロディウムの針状結晶を含む貴石は、アル・マクダエルの実姉ダナが鉱物学者の恋人から贈られたものだった。
ウェストフィリア島のマグナマテル火山で、”見つけてはならないもの”を見つけてしまった鉱物学者の父子は悲惨な事件に巻き込まれる。

【抜粋】 科学の良心とねじ曲げられた学説

稀少金属の針状結晶とブルーディアナイト

アステリアに向かう船のコンパートメントで、ロバート・ファーラー社長は、ウェストフィリア探鉱の狙いである青い貴石ブルーディアナイトと向かい合う。

ファーラーはいつも後生大事に持ち歩いているイタリアンレザーのアタッシュケースを開くと、紺のベルベットをあしらった細長いジュエリーケースを取り出した。そこにはプラチナの台座に収められた青いペンダントが今も恋人に思いを馳せるように輝いている。

女の小指のように円くカボションカットされたこの石は、海のように深みのあるロイヤルブルーで、光を当てると、石の中央からまるで神の目が光を放つように六条の星彩効果(アステリズム)が現れる。しかも、微かではあるが、光源によってロイヤルブルーからピンクパープルに色調が変わり、これまで様々な宝石を目にしてきたファーラーでさえ目を見張るほどの逸品であった。

しかも、この石は鉱業的にも計り知れないポテンシャルを秘めている。
石の中に含まれる針状結晶(インクルージヨン)が純度99.99パーセントのニムロディウムで構成されているからだ。

通常、ニムロディウムは酸素と強固に結合した「酸化ニムロディウム」という形で存在し、単体のニムロディウムは地上には存在しないことで知られている。

だが、ウェストフィリアで採取されたこの石は、元素鉱物ともいえる高純度のニムロディウムを含み、生成の過程も、性質も、大きな謎に包まれている。研究が進めば、従来の常識を覆す画期的な発見になるだろう。

にもかかわらず、存在を公にできないのは、この貴石が暴力によってもたらされたものだからだ。

不正には学問で立ち向かう : ある鉱物学者の闘い

ダナ・マクダエルが鉱物学者の父子、イーサン・リースとダニエル・リースに出会ったのは子供時代だ。鉱物や鉱業に関することは、イーサン父子から教わった。なぜロバート・ファーラーとファルコン・マイニング社がウェストフィリア島に関心を示すのか、その悲しい経緯をダナがリズとヴァルターに語って聞かせる。イーサンの哲学は、不正には学問で立ち向かう、というものだった。

実際、イーサンの語るニムロディウムの話はエキサイティングなものだった。

私もアルもMIGの一員として知識を深めるのは当然の義務だったから、専門の先生に付いてある程度のことは学んでいたけど、イーサンの話は科学知識にとどまらない、『物質と社会』、しいては文明の根源に迫る、非常に哲学的なものだった。

あなた方も知っているでしょう。

Anno(アンノ) Domini(ドミニ)の末期、無人探査船パイシーズがみなみのうお座から持ち帰った一つの鉱石が人類にニムロディウムという新物質をもたらし、それまで絶対不可能とされた恒星間航行エンジンや極限環境構造物の建造を可能にした。技術が「船」なら、ニムロディウムはまさに「追い風」。石油がAnno(アンノ) Domini(ドミニ)時代の礎となったように、ニムロディウムも宇宙文明を支える絶対不可欠な物質として、世界の頂点に立っている。

ニムロディウムがなければ宇宙船も飛ばないし、宇宙船が飛ばなければ食料や工業原料を外惑星からの輸入に頼っている辺境の植民地もたちまち生命線を絶たれてしまう。その他にも、地熱ジェネレーター、エネルギープラント、住居シェルター、車、携帯電話、医療器具に至るまで、ニムロディウムはありとあらゆる製品に用いられている。まさに文明の根幹を成す物質よ。それを制する者が世界を制するのも当然の成り行きだった。

いちはやくニムロデ鉱山を手に入れ、探鉱や精製の技術まで独占したファルコン・マイニング社が公共の利益を尊重するわけがない。先駆けて成功した企業が先行者利益を得るのは当然としても、彼らのやり方は、不当な裏取引や価格操作、鉱業行政の買収、違法労働や環境汚染の隠蔽など、悪質きわまりないものだった。

そんな中、より安価で効率よくニムロディウムを精製する方法が開発されたら?

あるいは、ニムロデ鉱山以外で高品位のニムロイド鉱石が大量に見つかったとしたら?

ファルコン・マイニング社の優位も大きく揺らぐわね。

それを金属業の立場から揺るがしたのがノア・マクダエルお祖父さまの『真空直接電解法』で、鉱物学的な立場から突破口を探っていたのがイーサン・リースだった。

イーサンはよく言ってたわ。

鉱物学者として石の起源を追い求め、学界に名誉の旗を立てるだけが学問だろうか。マイニング社のやり方を批判するのは簡単だが、批判するだけでは決して問題は解決しない。鉱石は富と権力の源泉でもあるけれど、一方で不可能を可能にし、人々の生活に進歩と救いをもたらす。わたしは鉱物学の立場から世界を変えたいと。

でも、それは学者としての社会的生命を失いかねない危険な行為だった。

マイニング社は真実をねじ曲げても自社の利益を守ろうとする。

たとえば、ニムロディウム鉱床の成り立ちには、以前から多くの疑問がつきまとっていた。

一般にニムロデ鉱山は「小天体の衝突によって惑星深部の物質が表面に噴出した」と言われているけれど、それだと、ニムロデ鉱山から遠く離れた鉱区や、同じ恒星系の惑星にも少なからず存在する現象に説明がつかなくなってしまう。また、小天体が衝突したという割には、それを裏付ける物的証拠が何もなく、年代さえ正確に測定できない。

にもかかわらず、マイニング社は「企業機密」を理由に部外者の立ち入りを許さず、学術調査にも協力しなかった。誰かが新しい学説を立てようとすれば、あの手この手で妨害し、御用学者を使って完膚なきまでに叩き潰した。それこそ大量のニムロディウムを含む鉱物が予期せぬ場所から出てこない限り、彼らは『小天体衝突説』を主張し続け、一切の反論を許さない。

でも、別の見方をすれば、彼らの理論を突き崩すのは簡単だった。「存在してはならないもの」を彼らの眼前に突きつければいい。その証拠を得る為に、一部の地学関係者はアステリアに注目していたの。

符号に秘められた宇宙の意図を読み取る

イーサン父子が見つけたブルーディアナイトの為に、父子は凄惨な事件に巻き込まれる。それほどに稀少金属ニムロディウムの機密保持に執念を燃やすロバート・ファーラーとファルコン・マイニング社の野心を知り、リズ、ヴァルターは、ウェストフィリアの調査に不安を呈する。そんな彼らに、ダナからアドバイス。

「マイニング社は今もブルーディアナイトを追いかけているのですか」

「そうは思わない。ブルーディアナイトの事は一握の人間しか知らないし、当時の関係者の大半は既にこの世にないから。ウェストフィリアに目を向けたのは、他企業と同じく、鉱業的ポテンシャルに目を付けたからでしょう。それに小天体衝突説の虚偽がばれて、今も必死に釈明してるぐらいだから、次はもうちょっとまともなやり方でアプローチするんじゃないかしら。現社長のロバート・ファーラーも、先代のドミニクに比べたら、まともな方だから」

「ウェストフィリアはどうです?」

「学術的にも、産業的にも、依然として興味深い場所であることに変わりないわ。本腰を入れて調査すれば、ブルーディアナイトに匹敵するものがいくらでも見つかるはず。イーサンがよく言ってたわ。『人間には想像もつかない方法でニムロディウムを凝集する何かが存在する』。それが山なのか、海なのか、私にも見当がつかないけれど、アステリアには、ネンブロットともトリヴィアとも異なる物質循環のシステムがあるのは確かよ。あなたならよくご存じでしょうけど、アステリアの海も広大で、調べても調べてもきりがないほど。科学的に判明している部分は数パーセントにも満たない。あなたもウェストフィリアに行くなら、ただ目の前のデータを追うのではなく、その符号に秘められた宇宙の意図を読み取ることよ。もっともこれはイーサン・リースの受け売りだけども」

【リファレンス】 アステリズム(星彩効果)

私もその他大勢の女性と同じく、宝石大好きです。

色やきらめきが……というより、惑星のダイナミズムを直に感じられる鉱物だからです。

どうしたら、炭素の塊が、あるいは、微量のクロムやマンガンが、こんな美しい石を作り出すのか、まさに宇宙の奇跡としか思えないですよね。

地球のみならず、他の惑星や衛星には、人類がまだ目にしたことのない鉱物がまだまだたくさんあると思います。

その中には、大粒のサファイアやルビーも凌駕するような、美しい鉱物も存在するでしょう。

23世紀の奥様方は、衛星エウロパで採取された、水色の美しい宝石を身につけているかもしれません。(水色かどうかは知らんけど)

不思議で、美しい鉱物の数々……

その多くは王族に献上されてきました。まさに富と権力の象徴です。それを作り出した宇宙には何の意図もないのに。

宝石のスター効果(アステリズム)はこちらに詳しい解説があります。カボション・カットからどのように星彩効果が現れるか、図解で説明。

<スター石 Star stones と アステリズム Asterisum>http://www.nihongo.com/aaa/jewelry/stone/star/Star.htm

こちらの記事も参考になります。

スター効果(アステリズム)
http://www.istone.org/asterism.html

サファイアに関しては、こちらの記事など興味深いです。加熱・非加熱の違い、インクルージョン、品質の見分け方などが掲載されています。

http://www.suwagem.com/jp/dictionary/quality/book2-14/3.html

こちらは、様々な種類のインクルージョンが紹介されています。鉱物大好きになります。

http://srilanka-jewels.com/index.php?main_page=inclusion

こちらは光源によって星彩効果が現れる様子を撮影。溜め息ものの美しさです。

こちらはインクルージョン入りのカラーチェンジド・ガーネット。光の当たり具合によって、紫色がネオンのように現れるのを見て取ることができます。

こちらは非加熱のアレクサンドライト。光源によってパープルからピンクに色を変えるのが見事です。

紛争ダイヤモンドのドキュメンタリー。豊かな鉱物資源は決して地元民を幸福にしない。

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『曙光』下巻 ~”深海調査のオファー”


 著者  石田朋子
 定価  --
 ページ数  1244ページ
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