情報共有 海洋情報ネットワーク

40. 忍び寄る大企業の寡占 ~情報共有と知識の浸透が社会と産業の発展を促す

社会問題を生みだす”無知”

情報共有といえば、OneDriveやGoogle Driveのようなオンラインストレージを使ったファイルの共有を連想しますが、現代社会においては、法律や地図、ハザードマップや政府広報、一般常識や暮らしの知恵に至るまで、社会に役立つ情報に誰もが手軽にアクセスできる環境が非常に重要です。

こうした知的基盤の拡充は、今後ますます重視され、設備、手法、コスト、あらゆる面において改良が進んでいくでしょう。

なぜ情報なのか、と問われたら、無知(馬鹿の意味ではなく)は誤解を生み、庶民を利益から遠ざけ、社会の混乱を引き起こす原因ともなるからです。

また正しい情報の普及は、寡占や不正、争いの抑止力ともなり、社会の健全な発展を促します。

社会問題の根底には、大抵、『無知』が存在し、そこを正そうとしない限り、物事は決して良い方に向かいません。

今後、いっそうITが発達するに伴い、その手段はますます簡便となり、全てがパーソナル化する中で、情報の取捨選択の機会も激減するかもしれません。

そして、それは、社会に劇的な進化をもたらすでしょうか。

多くのユーザーはそうは思ってないでしょう。

何故なら、情報の正否を決定づけるのは、結局、人間だからです。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。

詳しくは作品概要とタイトル一覧をご参照下さい。

冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 鉱山会社の寡占に抗う情報共有のアイデア

海底鉱物資源の採鉱システムの完成に湧たのも束の間、鉱業界の巨人ファルコン・マイニング社がついに腰を上げ、北方の離島ウェストフィリア近海に広大な資源調査権を獲得する。ウェストフィリアを足がかりに、海台クラストの採鉱事業や既存社会に圧力をかける意図がありありと分かるだけに、古参スタッフらは戦々恐々だ。
だが、海洋技術の困難を知るヴァルターは、採鉱システムも、海洋調査も、そう簡単に真似できないと説き、ファルコン・グループの一党支配に対して、情報共有で対抗する術を思い付く。

【抜粋】 情報共有と産業の発展

ヴァルターは、アステリア開発の生き字引のようなマッコウクジラの兄弟、ダグとガーフから開発史について聞き、彼らでさえ、海洋調査や湾岸開発の経緯を正確に知っているわけではないことを指摘する。

「ほら見ろよ、あんた達だって、自分が採掘している鉱物資源の情報の出所を正確に知っているわけじゃない。ということは、誰も海の事など何も知らないのと同じだ。MIGであれ、マイニング社であれ、実に奇妙だと思わないか?」

「それで情報管理をやれと?」

「そう。俺達の手ではなく、自治体を上げて取り組む」

ガーフは巨漢を揺すって哄笑した。

「お前の一存で物事が動くわけないだろう。第一、情報管理のシステムを整えたところで社会全体にどんなメリットがあるというんだ?」

「俺は実例を知っている。ステラマリスの『グローバル・シーネット』が良い見本だ」

ステラマリスにおいては、各国が領海権を保有し、領海内の海洋調査データは官庁や専門機関が厳重に管理している。一方、民間企業によるソリューションサービスや研究機関によおるシェアなど、権利や責任の所在も複雑で、一口に「誰のもの」と断言はできない。また海洋調査を行う組織も、官庁、自治体、民間企業、研究組織など非常に多岐にわたり、蓄積されたデータも膨大だ。これを百カ国以上、数十の機関や企業が協賛してオープンデータシステムを構築し、どこからでも手軽に検索や情報交換できるようにしたのがグローバル・シーネットで、遠方の海象や海底地形、潮流や水温変化なども瞬時に把握できるようになったことから、海上の安全や臨海開発、海洋科学の発展に大いに役立った。

対して、アステリアは歴史も浅く、全海洋が一つの「経済特区」に括られ、国境も領海権も存在しない。海洋情報を管理する法律も統一され、情報管理ははるかに容易いはずだ。

しかしながら、現時点では公共の海洋情報サービスは質も機能も限定されており、情報管理や活用に関する明確なガイドラインもない。これでは有用なデータも活かされず、区民には遠くの海で何が起こっているのか知る手立てもない。

一方、ファルコン・マイニング社が既存の海洋調査データを元に採鉱プランを立てているにしても、鉱物資源の賦存状況を正確に把握するには、まず島のインフラを整え、基地を築かなければならない。それを建造するには、第一に大型タンカーも係留可能な港湾施設が必要で、船舶を運航するには、地形、潮汐、海流、水温、化学分析など、詳細な海洋データが必要になる。

まして深海の鉱物探査をしようと思ったら、音響測深機と解析システム、高分解能の水中カメラ、無人探査機、グラブ型採泥器、船上研究施設といった専用の設備はもちろん、熟練の航海士、機関士、クレーン操縦士、無人機オペレーター、IT技師、司厨部など、何十名もの技能者と、海洋科学や地学の専門家が必要で、調査チームを組織するだけでも、どれだけの資金と手間が必要かしれない。

ファルコン・マイニング社や系列会社が大艦隊を率いてウェストフィリアに上陸しようと、本格的に活動できるのは数年先の話であり、その間に海洋情報共有システムを整え、アステリア全体の連携を図り、海洋開発をより良い方向に導くことは十分に可能だろう。

<中略>

俺もそれが絶対的に有効とは言わないよ。だが、今の靄がかかったような現状より、一つの情報システムを通じてアステリアの方向性を明確にした方が、健全なものを呼び込めるはずだ。ネンブロットの問題も数々の違法行為や寡占や裏取引を『宇宙文明の基礎』という建前で黙認してきた結果だろう。ロケットを飛ばす為なら、闇市場のプルトニウムでも厭わないのと同じだ。だが、アステリアはそうはならない。開示すべき情報は開示して、社会の合意を取り付けながら一歩ずつ進んで行く。ウェストフィリアで勝手をしたくても、海の情報はガラス張りで、誰もが知り得る権利がある。

情報共有システムの構築と社会への問題提起

採鉱システムのプロジェクト・サブリーダーであるマードックに、別れの挨拶に訪れた際、今後の予定を聞かれて、海洋情報ネットワークの構築に携わりたい意思を明かす。

「海洋調査データの共有システムのアイデアを形にしようと考え中だ。ここで必要とされるかどうかは分からないが、問題提起だけでもしたいと思って」

「それもいいかもしれないな。せっかくアステリアに来たんだ、一日中PCに向かってデータをいじったり、機械の整備だけで終わるのも勿体ない。二年後、故郷に帰るにしても、ここで色んな人に会い、様々な経験を重ねた方が先々の糧になる。それで情報共有システムの目的とするところは何だ?」

「縦横の連係を図る。各機関に散在する情報資産を一つのオープンデータ・システムで繋ぐんだ。何時でも、何所からでも、有償あるいは無償で手軽に検索できるサービスを提供する。データ共有を通じて共同体意識が芽生えれば、区民の意識や社会の方向性も変わる」

「だが、そう上手く行くかな。どこも生き残りをかけて必死だ。皆のため、社会のためなんて、そうそう人が動くものじゃない」

「そうかもしれない。でも、故郷の仲間も、たった四人で復興ボランティアを始めた。週末ごとに軽トラックを借りて、山のような瓦礫を一つ一つ取り除いて、土を耕し、苗を植え、気の遠くなるような作業だったが諦めなかった。それが今では随一のVZW(非営利活動法人)に成長して、再建運動の先陣を切っている。今でもよくデ・フローネンは何故あれほど上手く機能したのか考える。最大の理由は、活動の目的が明確で、人々の愛郷心を掻き立てるものだったからだ。今は誰もが新しい土地で利益追求に奔走しても、いずれ帰属を求めるようになる。産業の実験場ではなく、我が町に対する愛重だ」

「あなたの言いたい事は分かるわ」
ミセス・マードックが頷いた。
「誰もが仮住まいの気持ちで社会の基盤は育たない。めいめいが好き勝手にしだしたら、それこそネンブロットの二の舞だもの。もっとも大企業に通用するかは分からない。でも、社会を構成する大多数に確たる姿勢があれば、一部の横暴は十分に阻止できると思うわ」

「だが、それも時間がかかるぞ。仮にシステムは構築できても、理想通りに運ぶかどうかは実際に稼働してみないと分からない。プラットフォームのように採鉱量や売上高といった数値で効果が測れるなら分かりやすいが、情報サービスは顧客の満足度みたいに漠然とした部分が大きいからな。利用率が高いからといって、それが即、理想の社会に繋がるわけでもないし」

「そうかもしれない。だが、全ては声を上げることから始まると思う。『緑の堤防』も相手がプロだから、俺は素人だから、と遠慮してたら、形にすらならなかっただろう。俺の父親がよく言っていた。『たとえ、お前が世界を変えるアイデアを持っていたとしても、それを口にしなければ誰にも伝わらない。だから勇気をもって話してみよう』。こんなこと、人に訴えたところで何もならないかもしれない。でも、口にしなければ何も始まらない。たとえ肩透かしにあったとしても、一度は考え得る最高のものを提示したい。何もせずに通り過ぎるより、自分でも納得がいく」

何のための企業理念か

※ 上記の会話の続き

「だからこそ、今から海洋情報のガイドラインを明確にするんだ。それは単なる情報管理に止まらない。いかに調べ、活用するか。その指針を定めることは、アステリアの方向性を考えることでもある。今のまま経済特区として拡充するのか、あるいは全く新しい海洋都市の構築を目指すのか。まだまだ歴史の浅い海だからこそ、柔軟に舵を切ることができる。新しい事への興味や挑戦も掻き立てやすいだろう。ステラマリスでは、情報共有サービスによって、独自で海洋調査を行うのが難しい中小企業でもデータを元に技術開発を行い、新規ビジネスを立ち上げたり、大手プロジェクトに参画したり、いろんなチャンスを得ていた。会社の規模は小さいが、非常に精度のいい調査データを提供する民間企業が国際的に信用を得て、公的プロジェクトに抜擢された例もある。産業に限らず、学術、観光、応用は幅広い。アステリアが海洋社会として共通のポリシーを持てば、マイニング社だって俺様風を吹かせるわけにいかないだろう。俺は大衆の良心を信じる。大企業だろうが、大物政治家だろうが、世論で倒せる時代だ」

「お前も理想肌だな。正論を並べて協力してもらえるなら、とうの昔に優良企業に変わってる」

「だからといって、最初から清濁併せのむような理念を掲げる人間もないだろう。大学のモットーも、企業方針も、ぶっちゃけ奇麗事のオンパレードだ。友愛だの、社会的使命だの、歯の浮くような台詞が並んでいる。それでも最初から俗世に擦り寄るような目標を掲げた大学や企業を誰が信用する? 理念は理念として美しくあるべきだし、正しい標語があるから、人も公義を意識する。どうせ大きな力に勝てないにせよ、正面から意義を問いたい。社会に問題を提示する為にも」

【リファレンス】 実際の海洋情報共有サービス

海洋情報管理、および、情報基盤に関する元ネタはこちらです。

残念ながら、どこのURLからクリップしたPDFファイルか分からないので、EVERNOTEの公開リンクを貼っておきます。興味のある方は、ぜひご一読下さい。

海洋管理のための海洋情報の整備に関する研究 日本水路財団

海洋情報ネットワーク

海洋情報ネットワーク データベース

海洋基本計画への提案 ~海洋技術フォーラム~

海洋情報ネットワーク

海洋基本計画

「海洋情報ネットワーク」の後半に書いてますが、海洋のフィールドは非常に幅広い。学術や産業はもちろん、外交や国家戦略も深く関わってきます。(アステリアは国境がないので、国益に関する話は無いけれど)
「この分野だけ」と区分けできないのが海の難しさであり、また可能性の幅広さでもあります。

海上保安庁の一部門として、『海洋情報クリアリングハウス』が存在します。(海洋情報ネットワークのモデルではありません)

海洋情報クリアリングハウス

こちらはアメリカの海洋大気庁のオフィシャルサイト。

海洋大気庁

海洋大気庁

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。

閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで



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ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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