海底鉱物資源を採掘せよ 世界を変える金属と深海潜水艇のパイロット

海底鉱物資源を採掘せよ 世界を変える金属と深海潜水艇のパイロット

海底鉱物資源の採掘について

マンガン団塊やコバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床といった『海底鉱物資源』の存在は20世紀半ばから知られてきました。
世界中の海洋機関で研究が進められ、様々な採鉱システムのモデルが設計されてきましたが、いまだ商業的に採算のとれる採鉱システムは確立されていません。

もっとも、パプアニューギニアで展開するNautilus Mineralsや、日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構が牽引するプロジェクトは相当に出来上がっていて、早ければ、21世紀半ばには世界初の採鉱システムがお目見えするかもしれません。

参照 海底鉱物、大量採掘に成功 20年半ば、商用化目指す

ところで、なぜ鉱業なのか……といえば、『鉱業問題が手軽に分かる『コルタン狂想曲』と『ブラッド・ダイヤモンド』にも書いているように、政治、経済、製造、医療、娯楽、地球上の全ての人の暮らしは、鉱物資源に支えられているからです。世界紛争の元を辿れば、たいがい、そこには資源が絡んでいます。どれほど優れた技術や設備があっても、製品の元となる鉱物資源が入手できなければ、全ては絵に描いた餅にすぎないからです。

そして、世界の鉱業における最大の悲劇は、資源産出国の多くが後進国や紛争地域に偏り、豊富な資金や技術を有する先進国の進出によって、本来、恵みを得るべき地元民が何の利益も得られないばかりか、逆に、資本国の思惑に翻弄され、劣悪な環境から抜け出せなかったり、紛争の犠牲になったり、決して幸せを掴むことはできないからです。

しかし、こうした世界の構図も、海底鉱物資源の採掘――それも機械化された安全かつ効率的な採鉱システムによって、大きく変わる可能性があります。もし、日本が、鉱物資源を輸入する側ではなく、世界中に鉱物資源を輸出する側に立てば、それだけでも経済の仕組みは変化し、国際政治にも影響するようになるでしょう。

宇宙開発ばかりが注目され、海洋の方は人気も関心も今一つですが、日本の海洋技術は、世界経済のみならず政治やライフスタイルも変えるポテンシャルを秘めています。世界有数の調査船、調査技術、研究者や技術者を数多く有しています。四方を海に囲まれた日本こそが、世界を変えるトリガーになれるわけです。これは決してマンガではなく、誇張でもありません。嘘だと思うなら、JAMSTEC | 海洋研究開発機構の公式サイトを見て下さい。こんな凄いものが20世紀から運航され、世界のトップクラスの頭脳と肩を並べて研究開発に打ち込んでいるのです。国民の大半が無関心なだけで、海のNASAなのです。

私もまた1995年からこのネタを追いかけ、願いと問題意識を込めて、長編小説に書きました。

サイトには、主に技術的な部分を掲載しています。

少しでも興味を持っていただけたら幸いです。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。
詳しくは作品概要と記事一覧をご参照下さい。
冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

こちらの記事も参考にどうぞ

【あらすじ】 鉱業の未来と潜水艇パイロット

宇宙世紀。みなみのうお座に打ち上げられた探査機が一つの鉱石を持ち帰る。そこから発見された新物質ニムロディウムによって科学技術は著しく発達し、宇宙開発も加速的に進むが、最大のニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社の手にわたったことで、ファルコン・グループによる一党支配が始まる。

膠着した社会に風穴を空けるべく、特殊鋼メーカーのカリスマ経営者、アル・マクダエルは、惑星表面積の97%が海洋で覆われたアステリアの水深3000メートルからニムロディウムを含む海底鉱物資源の採掘に挑む。だが、本採鉱を前にして、プロジェクト・リーダーが失踪し、アルは急遽、水中作業のできる潜水艇のパイロットを探し求める。

数ヶ月前に解雇されたヴァルター・フォーゲルを紹介されるが、その過程で、彼が密かにGeoCADで描く海洋都市『リング』の鳥瞰図を目にする。これこそ海洋社会アステリアの未来を変える図と確信したアルは、違法にデータを覗き見した事実を伏せてヴァルターに接触を図る。

再建コンペで世界的建築士、フランシス・メイヤーと対立した為に故郷を追われ、潜水艇の職も失ったヴァルターは、アルに対しても突っかかるが、切羽詰まった状況からアルの契約書にサインする。

【抜粋】 レアメタルと海底鉱物資源

レアメタルと企業の思惑

鉱業問題が手軽に分かる『コルタン狂想曲』と『ブラッド・ダイヤモンド』にも書いているように、現代文明は金属資源に大きく依存しています。どれほど優れた技術も、形を成す物質がなければ、存在しないも同じです。
本作では『ニムロディウム』という架空の金属元素と、これを豊富に含むニムロディウム鉱石をベースに、巨大な鉱山会社ファルコン・マイニング社と、これに技術でもって対抗するMIGの攻防、運命の渦に巻き込まれていく人物の葛藤と成長を描いています。

UST歴九〇年、トリヴィアが自治権を獲得し、ネンブロットがトリヴィアの『属領(テリトリー)』として取り込まれると、「ファルコン・マイニング社、ファルコン・スチール社を基幹とするファルコン・グループは政財界の中枢にいっそう深く入り込み、鉱業行政のみならず、経済政策、外交、広報、労働問題や福祉に到るまで隠然たる影響力を持つようになった。その結果、ニムロディウムはもちろん、その他の金属資源までもがファルコン・マイニング社を頂点とする企業連合の支配下におかれ、価格、販売、生産量、輸送経路に至るまで、独占的に取り仕切られるようになった。

わけても世界に多大な影響を及ぼしているのは、ハイテク産業の要ともいうべきレアメタル(希少金属)だ。

レアメタルは、鉄、銅、亜鉛といったコモンメタルに微量に添加することで、耐熱性、耐食性、高張力といった金属性能を高め、新素材や技術開発の鍵となる重要な物質である。

だが、「産出する場所がきわめて限定されている」「純金のように元々の埋蔵量が少ない」「純度の高い金属成分の抽出が非常に難しく、複雑な精錬プロセスを必要とする」といった理由から生産者も製造量も限られ、その安定供給には常に政治的、経済的問題がつきまとう。

とりわけ良質なニムロイド鉱床はファルコン・マイニング社に抑えられ、生産も市場価格も彼らの意のままだ。トリヴィア政府も鉱業局の権限を強化し、マイニング社の寡占に対抗したが、鉱業局の幹部までもが収賄に手を染め、業界の浄化には至らない。

ファルコン・スチール社との提携を解消し、独自路線を歩み始めたマクダエル特殊鋼も、ファルコン・マイニング社によって幾度となく原料の供給を止められたり、一方的に原価を吊り上げられたり、常に翻弄される立場にある。

かといってニムロディウムの採掘には地下深く掘削するノウハウが必要であり、何の実績もない企業が真似できるほど甘くもない。誰もがファルコン・マイニング社に強い不満を抱きながらも、正面から「NO」を突きつけることができないのは、彼らが図体だけでなく、世界屈指の採掘技術と設備を誇っているからだ。

海底鉱物資源と技術的困難について

レアメタルの中でも、特に賦存量が少ない金属資源は、金やダイヤモンドよりも高価です。技術と産業の命運を握る稀少金属は、各国とも国家戦略として資源確保に取り組み、安定供給に努めています。
本作では、ファルコン・マイニング社の横暴に業を煮やしたアル・マクダエルが水深3000メートルからニムロディウムを豊富に含む海台クラストの採掘を試みますが、技術的困難に阻まれ、計画は思うように進みません。
水深3000メートルという深海は、超水圧や暗闇に阻まれ、人間の技で御せる世界ではなかったのです。

ニムロイド合金の実用化により、人類は爆発的な勢いで宇宙に進出し、宇宙開発に必要な科学技術は著しく発達したが、海は置き去りにされた。

金属も砕く深海の超水圧、どれほど強力なライトを用いても視界数メートルしか照らせない絶対的な闇、電気も電波も届かない水の世界が技術の前に立ちはだかり、研究は遅々として進まない。海底地形を調べるにも数十名の乗組員を集め、調査船を出し、水中機器のオペレーターや整備士、音響測深や音波探査のエキスパートなどを総動員せねばならず、同じ一平方キロメートル調べるにも、地上の鉱山と海底では掛かる経費も手間も桁違いである。

また、ステラマリスでは深刻な海洋汚染によって自然保護が強く叫ばれ、産業界がより実益をもたらす宇宙にベクトルを向けた影響も大きい。海洋科学に投入される予算も、学問自体も縮小し、水中音響学、船舶工学などの特殊技能を有する人材までもが激減してしまった。
それに加えて、商業的に採算の合う海底鉱物資源の採掘システムは未だ確立されていない。

古来より、海に眠る未曾有の鉱物資源を得ようと国や企業がこぞって研究に取り組んできたが、水深数千メートルの海底鉱物資源を効率よく回収する技術は困難を極めた。

まず正確な埋蔵量を把握する海洋探査が陸の鉱物探査に比べて非常にハードルが高く、一つの海域を調べるだけでも莫大な予算と手間を必要とする。地上の鉱山であれば、観測衛星や無人飛行機を使って地上の様子をつぶさに観察できるが、超水圧と暗闇に閉ざされた深海では海底地形の把握からして困難だ。探査に必要な水中機材の開発費だけでも馬鹿にならず、それを支える人材も年々減少している。Anno(アンノ) Domin(ドミニ)i(西暦)の後期には幾通りかの採鉱システムも考案され、プロトタイプによる試験採掘も行われたが、安全で効率的な手法を確立するには至らなかった。

また採取した海底鉱物や堆積物から商業的価値のある金属成分を抽出・加工する技術も未完成であり、どれほど埋蔵量が膨大でも、陸上の鉱山業を凌ぐ経済効率を達成できなければ、海底資源の有用性はきわめて低いと言わざるを得ない。

結局、海底鉱物資源の採鉱に必要な何十億もの初期投資と、その維持管理に必要な経費を考慮すれば、ネンブロットをはじめとする資源供給地との外交を重視し、技術協力や資金援助を通じて間接的な採鉱政策をとる方がより現実的という見方から、トリヴィア政府はアステリアの海洋開発を断念した。

そして、発見から一世紀以上が経った今も、未曾有の海底鉱物資源は誰の手に渡ることなく、深く静かに眠り続けている。
もし、それを掘り起こせる人間がいるとしたら、アル・マクダエルをおいて他になかった。

【リファレンス】 海底鉱物資源の採掘について

ちなみに本作に登場する海底鉱物資源の採鉱プラットフォームのモデルについては、実際に開発中の『Nautilus Minerals』を参考にしています。

場所は、パプアニューギニア近隣のソロモン海です。

『Offshore Production System Definition and Cost Study』NAUTILUS Minerals
Document No: SL01-NSG-XSR-RPT-7105-001
『Seafloor mining robots and equipment nearing completion to mine for gold, silver and copper』
http://www.nextbigfuture.com./2013/10/seafloor-mining-robots-and-equipment.html

海底鉱物資源の採鉱システムのイメージはこんな感じ。
簡単そうに見えますが、技術的にどれぐらい難しいかは、海洋科学や海洋工学関連の文献を読むと、容易に想像がつきます。

こちらは海底鉱物資源の成り立ちから採鉱システムまでトータルに解説する動画です。

こちらは実際のオペレーションの模様をシミュレーションしたもの。
海底で採鉱機がどのように機能するか、アニメーションで分かりやすく説明しています。

ちなみに水深数千メートルはこういう規模です。

最も深い海底からエベレスト山を立てても、まだ海面に届かない。

海の深いところは、世界で最も高い所より、まだ深いんですね。

海の深さ エベレストよりも深い

海がどれくらい深いか、アニメーションで解説。海の一番深いところは、エベレスト山よりまだ深いのです。

海底鉱物資源に関する参考文献

 海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発— (単行本(ソフトカバー))
 著者  臼井 朗
 定価  ¥ 2,160
 中古 12点 & 新品  ¥ 437 から
 5つ星のうち 5.0 (2 件のカスタマーレビュー)

 海底資源―海洋国日本の大きな隠し財産 (単行本)
 著者  石川 憲二
 定価  ¥ 1,512
 中古 14点 & 新品  ¥ 498 から
 5つ星のうち 4.0 (1 件のカスタマーレビュー)

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。
『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで


 著者  石田朋子
 定価  --
 ページ数  1509ページ
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