鉱山会社の寡占

39. 鉱山会社と稀少金属の寡占 ~それでも海洋技術は簡単に真似できない~

文明の根幹を成す鉱業

鉱業の難しさは、山でも、海底でも、現存の技術で地中の様子を正確に知ることはできないという点にあると思います。

私が以前、視聴した科学番組では、「現在の技術で正確に把握できるのは、地下10センチほど」という解説がありました。
確かに、地震波を用いた物理探査や、地中のサンプルを採取するボーリング調査、重力探査による地質構造の把握など、いろんな方法がありますが、いずれもデータ解析によって得られる数値やマップから「こうだろう」という予想を導くもので、地中の内部を直視するわけではありません。
たとえば、X線や核磁気共鳴によって、人間の体内の様子を知ることはできますが、実際を知るには、お腹を切開して、直に胃や腎臓を見るしかないわけで、検査結果から得られるデータと、肉眼で見る胃の中の状態には、同等であって、同一ではないわけですね。胃の透視検査で腫瘍の存在が指摘されても、実際に手術して、胃を切開するまでは、その実態が分からないのと似ています。

地下数十センチでも、内部の様子が正確に分からないのに、地下数百メートル、数千メートルとなれば、尚更です。

さらに水深数百メートルから数千メートルの海洋に覆われていれば、海底の地質や地層など、100パーセント正確に分かるわけがありません。

考え得る限り、物理的に正しい数値と推測をもって、「ここにあるだろう」という確率論から資源調査を始めるわけですから、ほんの100メートル四方の海域を調べるにも、調査船を出し、操船スタッフを募集し、様々な調査機器を揃え、、、と莫大な経費と手間がかかります。これほどコストが嵩むぐらいなら、既に存在が分かっている鉱山を掘り返す方が、うんと利口ですよね。ある程度、肉眼で確認できる地上の方が、はるかに分があります。

このパートでは、圧倒的な資本と技術と業績を誇る、世界有数の鉱山会社マイニング社が、MIGの海底鉱物資源の採掘成功を受けて、それじゃ我が社も、と、進出を図ります。そこには様々な思惑があるのですが、政治力でも圧倒的に優れた大企業が乗り込んでくるとあって、MIGの現場は戦々恐々、ここも連中に食い荒らされるのかと暗澹たる気持ちになりますが、ヴァルターだけは、海洋技術の困難を知り尽くしており、簡単には真似できないと確信します。

それよりも、社会的に有益な情報を共有し、計り知れないポテンシャルを秘めた経済特区として世界にアピールすることが、MIGのさらなる発展を促し、マイニング社の寡占を抑制する――というのが、彼の主旨です。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。

詳しくは作品概要とタイトル一覧をご参照下さい。

冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 鉱山会社の進出と海洋資源調査権

海底鉱物資源の採掘の成功に湧く中、ファルコン・マイニング社が広大な海洋資源調査権を取得し、北方の巨大な火山島、ウェストフィリアの探鉱に乗り出す。MIGとファルコン・グループは因縁の間柄、寡占、脅迫、環境汚染、人権侵害、鉱業局の支配など、黒い噂も多く、リズはマイニング社の進出に心底怯える。リズの置かれた厳しい立場と、トリヴィアの属領としての弱さを知ったヴァルターは、彼女とMIGの安全を守るため、海洋情報ネットワークの構想を思い付く。生き字引のようなダグとガーフからアステリア開発史と鉱業の現状について聞いたヴァルターは、さっそく草案に取り組む。

【抜粋】

資源調査権とマイニング社の思惑

海底鉱物資源の採鉱システムの本稼働に歓喜するのも束の間、宇宙文明の根幹を成す稀少金属ニムロディウム市場を一手に収める巨大鉱山会社ファルコン・マイニング社が北方の離島ウェストフィリアに進出し、広大な海域に資源調査権を獲得したとのニュースが流れる。
ある程度、予想はしていたが、あまりの動きの早さに誰もが動揺を隠せない。
だが、海洋技術の困難を知るヴァルターは、資源調査権を獲得したところで、一朝一夕に採鉱システムは真似できないと看破。
それでも、鉱業界の巨人が腰を上げ、MIG(マクダエル・インダストリアル・グループ)の採鉱事業のみならず、アステリアの既存社会を威圧しようとしているのは確かだ。
MIGの将来と恋人のリズを守る為、ヴァルターは海洋情報の公開と共有を思い付く。

※ 採鉱プラットフォームの食堂にて

インディラと話した後、夕食に行くと、食堂では作業員らが壁掛けTVから流れるニュースに釘付けになっている。

ディスプレイには北の高緯度に位置する島の地図と、周辺の海底、および島全土に散在する金属資源や天然ガスなどの分布図が映し出され、先週、ファルコン・マイニング社がアステリアのウェストフィリア島全土、約35000平方キロメートル、および周辺の海域400キロメートル四方に渡って海洋資源調査権を申請したことが報じられている。認可が下りれば、来年春より金属資源探査を目的とした本格的な調査が開始される予定で、活動拠点として、年末にも、ローランド島ニューベリー湾沿岸に建設中の高層オフィスビル『スカイタワー』にアステリア支社をオープンするという。

ファルコン・マイニング社は既に600億エルクの活動資金を保有し、80億エルクを資源探査、鉱量把握試錐、陸上選鉱設備や付属港湾設備の建設に当てるらしい。

ウェストフィリア海域の金属資源のポテンシャルは膨大で、特に海底の硫化物鉱床については、一日平均九千トン、一トンあたり九十五エルクの請負採鉱を計画しており、産業界から注目が集まっている、とのことだった。

ニュースが終わると、食堂がにわかに騒がしくなり、
「意外と早かったな」
「一日平均9000トンって、ここの倍じゃないか」
「あんな極地に採鉱基地など建設できるのか」
誰もが不安と懐疑を口にする。

彼はたまたま近くに居たダグとガーフィールドの隣に座ると、
「ファルコン・マイニング社って、そんなに大きな会社なのか?」
と尋ねた。

「鉱山会社としての規模は世界第四位だが、ニムロディウムに関しては採鉱から販売まで市場の九割を独占してる。やってることは阿漕(あこぎ)だが、ニムロディウムが無いことには宇宙船も飛ばないからな」

「なぜマイニング社だけがここまで巨大化したんだ?」

「第一にニムロデ鉱山というバカでかい鉱床を手に入れた。しかも彼らのバックにはクレディ・ジェネラルという巨大金融グループがついて、ありとあらゆる業界にコネクションがある。第二に、採掘した原鉱を粉砕して分級洗浄し、高品位の精鉱を回収するノウハウに長けている。つまり、違法採掘でトラックいっぱいにせしめても、そこからニムロディウムを豊富に含む精鉱を分離する技術がなければ使い物にならないということだ。他にもニムロイド鉱石を採掘している会社は幾つかあるが、マイニング社に比べたら、鉱床の規模も選鉱技術も遠く及ばない」

「だが、なぜウェストフィリアに? 陸地の大半が氷原みたいな高緯度の島で、港も、道路も、何も無い所だろう。そんな島で採鉱を始めようと思ったら、インフラを整えるだけでも莫大な経費が必要じゃないか」

「オレが思うに、ウェストフィリアは口実だね」
ダグがコーヒーをすすりながら言った。
「海洋資源調査権なんてのは、あくまで通行手形に過ぎない。たとえ魚一匹しか見つからなくても、結果はさほど重要じゃないんだよ。それより進出の足がかりとしての意味合いの方が大きい」

「どういう意味?」

「アステリアは経済特区だから、企業活動には細かな規約がある。『税制の優遇や公的扶助を得られる代わりに、事務所や倉庫は区内に設立しなければならない』「最初の一年間で収益の数パーセントから数十パーセントを投資をしなければならない』『技術系従業員の四十パーセントをトリヴィア領内から雇用しなければならない』等々。投資や減税目的にペーパーカンパニーを作ったり、用地を買い占めたりするのを防ぐためだ。そこでアステリアに進出するための手っ取り早い方法の一つに『海洋資源調査権』がある。調査するだけだから、特区法で定められた投資も、企業監査も、従業員の雇用も必要ない。期限の半年間、申告した条件で調査を行い、そのデータを開発局に提出するだけだ。調査に必要な施設や設備は比較的自由に持ち込めるから、とりあえず権利を取得して、その間に足場を固めればいい。マイニング社も調査の拠点としてローランド島にオフィスを開設し、ウェストフィリアの資源調査に取り組む傍ら.事業拡張の準備を進める手はずなんだろう」

「だが、そんなことをすれば、誰でも調査権を掲げて進出できるじゃないか」

「民間企業がアステリアで海洋資源調査権を取得し、調査を継続するには、開発局に『調査費』を上納しないといけない。1キロ平方メートルにつき月額三百エルクだが、調査範囲が1000キロ、2000キロにも及べば、上納金だけで月数百万になる。それを半年、一年と払い続けることを考えれば、資金のない中小企業には到底無理だ」

「なるほど」

「自治領政府も馬鹿じゃない。本当に実力のある企業だけがアステリアで産業活動できるようにフィルタリングしてる。政府にしてみれば、たとえ海洋調査だけでもマイニング社が進出してくれるのは有り難いだろう。調査船を一隻走らせるだけで税収になる」

海洋技術は簡単に真似できない

ファルコン・マイニング社の動きを知って動揺するリズに対し、「海洋技術は簡単には真似できない」と力付ける。

「いずれこういう動きはあるだろうと予測してたけど、まさかこんなに早いとは思わなかったわ。パパは『来るべきものが来ただけの話』とまるで動じてないけど、私、なんだか嫌な予感がしてたまらないの。パパは『あんな所に草木一本生えない』と言ってたけど、本当なの?」

「聞いた話では、島の大半が氷原で、夏期でも平均気温が五度前後の寒冷な所らしい。人が永住するには非常に厳しいだろうね。産業施設を建設するにも、ローレンシア島みたいに発展するには何十年とかかると思うよ。今度の資源調査で有望な鉱床が見つかって、排他的な探鉱権を取得したところで、実際に生産に着手できるのはさらに十数年も先の話だ。君が恐れるようなことは何も起こらない」

「でも……」

「『海洋資源調査』と一口に言うけどね、野山を探査するのとは訳が違うんだよ。地上のことなら観測衛星でおおよその地質も把握できるけど、海はたとえ水深数メートルの沿岸でも、特殊な音響調査機や水中カメラを使ってデータを取得しないといけない。地質サンプルを採取するにも、ツルハシで地面を掘り返すのと同じようにはいかないんだよ。そんな技術的問題が山積する中で、直ちに水深数千メートルの世界が把握できると思うかい? 俺は断言してもいい。どれほどの資本、どれほどの技術をもってしても、海底鉱床のターゲットを絞って本格的に採鉱に乗り出すには最低でも五~六年はかかる。たとえ有望な鉱床が見つかっても、採鉱システムの出来が悪ければ、無価値な石塊を吸い上げるだけで一銭の得にもならないだろう。海台クラストの採鉱に成功したのは運も大きい。あれだけの人材を揃えるだけでも、企業にとっては大変な投資だよ」

【リファレンス】 現代の鉱業問題

近年、注目を集める『紛争メタル Conflict Mineral』。現代文明の根幹を成す稀少金属の多くが第三国で産出され、武装グループの資金源になっています。日本でも時々、講演会や展示会が催されているので、機会があれば是非。
ゴルゴ13でお馴染みの 鉱業問題が手軽に分かる『コルタン狂想曲』と『ブラッド・ダイヤモンド』 でも詳しく紹介しています。

興味があれば、このあたりの本も読んでおきましょう。鉱業と人間社会の関わりについては次の章で取り上げています。
ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄 (朝日文庫)

ボコ・ハラム:イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織

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 著者  石田朋子
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宇宙世紀。みなみのうお座に打ち上げられた無人探査機が一つの鉱石を持ち帰る。
そこから発見された新物質ニムロディウムにより宇宙開発の技術も飛躍的に向上するが、最大の供給地であるニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社の手に落ちてから、政治経済の寡占が始まる。

これに風穴を開けるべく、特殊鋼業界の雄、アル・マクダエルは惑星表面積の97%が海洋で占められた惑星アステリアの水深3000メートルの海底から、ニムロディウムを含む海台クラストの採掘を試みるが、本採鉱を前にプロジェクト・リーダーがなぞの失踪。アルは急遽、潜水艇のパイロット、ヴァルター・フォーゲルに仕事をオファーするが、その過程で、彼のPCに秘められた干拓型の海洋都市『リング』の鳥瞰図を覗き見てしまう。

『リング』がアステリアの未来を変えると確信したアルは、ヴァルターをアステリアに連れ出すことに成功するが、アルの愛娘、エリザベスが彼に恋したことで、運命の筋書きが狂い始める。

一方、何も知らないヴァルターは、採鉱プラットフォームにとって余計な新参であることを自覚しながらも、徐々にスタッフと心を通わせ、水深3000メートル下で揚鉱管の接続作業に挑む。

だが、ファルコン・マイニング社を中心とする勢力が海のニムロディウムと観光資源を虎視眈々と狙う中、それはほんの始まりに過ぎなかった――。

ニーチェの名言『これが生だったのか、よし、それならもう一度』をテーマに、鉱業、海洋科学、建築、情報ネットワークなど、様々な雑学を織り交ぜてお送りする人間ドラマです。

目次

第一章 運命と意思
フォルトゥナ号
ローエングリン
オランダ人船長
第二章 採鉱プラットフォーム
アルバトロス
ミッション開始
ウミガメ
接続
第三章 海洋情報ネットワーク
ファルコン
海洋情報部
ローランド島
恋風

One Heart, One Ocean

文書情報 A5版 50字×23行(二段組) 972頁

Google Driveで上巻・下巻の冒頭を収録した無料サンプルも公開中。
内容確認にご利用下さい。
https://drive.google.com/drive/folders/1ehyYuBvgueggJjrjw7S8ZoBsbdicL9-h?usp=sharing

発行元サイトでは本作に登場する施設や技術の画像や動画を紹介しています。参考にどうぞ。
https://novella.blog/morgen/info
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海洋小説『曙光』MORGENROOD

ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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