宇宙文明を支える稀少金属と海底鉱物資源の採掘計画

19. 宇宙文明を支えるレアメタルと海底鉱物資源の採鉱プラットフォーム

鉱物資源と技術と政治

新しい道具を発明して、人々の暮らしをもっと便利にしたいという願いは石器時代から存在しました。
ああでもない、こうでもない、先人らのたゆまぬ努力と工夫があったからこそ、私たちはエアコンやスマートフォンを持つに至ったのです。

技術革新は、時に大量破壊兵器や環境汚染などを生み出し、人を傷つけもしますが、ウォークマンやスマートフォンが庶民のライフスタイルを大きく変え、日の当たらなかった場所に様々な可能性をもたらすことも多いです。

海底鉱物資源の採鉱システムのその一つです。

本作では、完全自動化された採鉱システムの可能性について、技術と政治経済の両面から説いています。

もちろん、現実社会にそっくり置き換えることはできませんが、想像して下さい。もし、日本の近海で、完全自動化された海底鉱物資源の採鉱システムが稼働し、鉱物資源を輸入する側から供給する側に回ったとしたら、産業はもちろん、政治面でも大きな変化がもたらされますね。

そして、それは国際社会から温かく迎えられるでしょうか。

漁業や観光で身を立てている側に影響はありませんか。

そうした想像力が、真に社会に役立つ技術革新に繋がっていくのです。

サービスでも製品でも、新しい、すごいものを作ればいい、というわけではありません。

大量破壊兵器や環境汚染がそうであるように、一つの技術革新が大勢を不幸に陥れることもあります。

前に進むものは、後先を考えなければならない。

技術革新には常に責任が伴うのです。

このパートは海洋小説『曙光』の抜粋です。

詳しくは作品概要とタイトル一覧をご参照下さい。

冒頭部の無料サンプルはGoogle Drive からDLできます。

【あらすじ】 海底鉱物資源と未来の道筋

洪水で壊滅した故郷の干拓地を再建する為、アイデアコンペに参加し、人工地盤を用いた『緑の堤防』を提案して圧倒的な支持を得たヴァルターだったが、大手建設会社から意匠の盗用を疑われ、作品の取り下げに同意する示談書にサインしてしまう。
自暴自棄になったヴァルターは故郷を離れ、トレーラー村に引きこもっていたが、海底鉱物資源の採掘を目指すアル・マクダエルに見出され、惑星表面積の97パーセントが海洋で覆われた惑星『アステリア』に赴く。

海底鉱物資源の採掘計画の拠点であるアステリア・エンタープライズ社を訪れたヴァルターは、アルの右腕であるセス・ブライト専務からローレンシア島近海に広がるティターン階段と、これに被覆する海台クラストの存在を聞かされる。海台クラストには宇宙文明を支える稀少金属”ニムロディウム”が豊富に含まれており、これを水深3000メートルの海底から採掘することができれば、ニムロディウム市場を寡占するファルコン・グループの一党支配に風穴を開け、政治や経済の流れを変えることが可能であった。

【抜粋】 鉱業の歴史を変える採鉱プラットフォーム

文明を支える鉱物資源

採鉱プラットフォーム事業の為にアルが創設した『アステリア・エンタープライズ社』を訪れたヴァルターは、MIGだけでも十分成功しているのに、なぜそこまで海底鉱物資源の採掘に拘るのかと疑問を投げかける。

セスいわく、エンタープライズ社の位置づけは、MIGとは完全に独立したアル・マクダエルの持分会社らしい。MIGが非上場の株式会社であるのに対し、エンタープライズ社は百パーセント自己資本で設立された有限責任会社で、経営もアル・マクダエルを頂点とするトップダウン方式である。MIGにとって最もリスキーな採鉱プラットフォーム事業の一部を後方支援の形で上手に分散し、万一、失敗しても、ダメージがMIG全体に及ばぬよう取り計らうのが目的だ。

また自己資本のメリットを生かして、物流、ディベロッパー、海洋開発コンサルタントなど、MIGとは畑違いの事業を展開し、そこで得た利益をまた採鉱プラットフォームの開発維持費に充てるという、ユニークな戦略をとっている。

「だが、なぜそんなにまでして海底鉱物資源の採掘にこだわるんだ? ネンブロットに行けば、全長300メートルの無人掘削機がガンガン露天掘りしてると言うじゃないか」

「それは一部の金属鉱山や、石灰や陶石や珪石みたいな非金属鉱床に限った話だ。希少金属、とりわけニムロディウムはそうじゃない」

「未だに奴隷が手掘りしているとでも?」

「機械は使っているが、それに限りなく近い。TVのドキュメンタリー番組などで目にしたことはないか?」

「いや」

だったら、一度は見ておくんだね。宇宙文明を支えているのは科学技術ではなく、鉱害病でボロボロになった人の手だと分かるから

なぜ海底鉱物資源の採掘は進まないのか

※ 上述の続き。ローレンシア島の湾岸地域は順調に発展しているにもかかわらず、科学的な海洋調査はほとんど進んでいない事実を知って。

「ここはステラマリスとは違う。惑星規模の海洋調査もほとんど進んでないし、詳しく分っているのはローレンシア海域だけだ」

「よくそれで海底鉱物資源の採掘に乗り出したな!」

「石油やダイヤモンドだって、起源もメカニズムも定かでないのに採掘してるだろう。それもハイテク技術が誕生するずっと以前からだ。乱暴な言い方をすれば、経済において科学的根拠は大した問題ではない。石油やダイヤモンドがどのように形成されたか、百パーセント確実なことが分らなくても、燃料になり、アクセサリーとして売れれば事足りる。海底鉱物資源も同じだ。起源やメカニズムの解明は科学の領域であって、僕らの課題は、どのように生産し、どれだけ利益を上げるかにある」

「実際的だな」

「ビジネスとは、そういうものだよ」

セスは画像を回転すると、ローレンシア島からティターン海台に至る側面図を写しだした。

「これがローレンシア島とティターン海台を横から見た海底地形図だ。ローレンシア島はテティス・プレートの西半分、凹型の地溝のような谷で分断された左側のプレートの縁に乗っている。島の東側の海底地形は20キロメートル沖から一気に落ち込み、水深4000メートルの深海底に達する。その続きに存在するのがティターン海台だ。ティターン海台は凹型の溝をすっぽり埋め尽くすような形で盛り上がり、海底面からの比高は約1200メートル、頂部は水深3000メートル下にある。全体になだらかな台形で、噴火口などは見当たらない。そして計測が正しければ、凹型の溝と一緒にティターン海台も東西に引っ張られ、年に一センチの割合で横に拡大している」

「再び激しい地殻変動を起こす可能性はゼロ?」

「それを言い出せば、100パーセント安全な場所など無いよ。ただ一つ確かなのは、テティス・プレートにおいて現在も活発に噴火している海底火山はないし、地震もゼロだ。もっとも、我々が気付いてないだけで、数千メートルの深海では、日夜ダイナミックな動きがあるかもしれないがね。だが、それを知るには、お金もないし、調査機材もない。深海調査の高度技能者もなければ、それを研究する人も僅かというのが現実だ」

「何処(いずこ)も同じだね」

「そうだ。海洋調査は陸上の地質調査と違って、とにかく金がかかるし人手も要る。よほどの勝算がなければ着手しない

なぜ採鉱システムの技術革新が必要なのか

※ なぜそうまでして海底鉱物資源の採掘を実現しようとしているのか。歴史を遡って解説。

「Anno(アンノ) Domini(ドミニ)の末期、無人探査機パイシーズが、みなみのうお座星域から一つの鉱石を持ち帰った。そこから発見された新元素ニムロディウムが恒星間飛行を可能にし、宇宙構造物の技術を劇的に変え、本格的な宇宙開発時代が幕を開けた。

ニムロディウムはさながら魔法の添加物だ。鉄や銅などのコモンメタルに微量に添加することにより、高温、高圧といった過酷な環境に耐える強力な超合金を作り出す。有害な宇宙線も完全にシャットし、耐性も驚くほど高い。まさにスーパーマテリアルだ。

だが、時代遅れな宇宙開発法の隙を突いて、ファルコン・マイニング社がネンブロット最大のニムロデ鉱山を手中に収めてから世界の構図が変わった。本来、自由と公正の証である『宇宙の領土はいかなる国家にも属さない』という宇宙開発法を利用して、ニムロディウム市場を独占したんだよ。

以来、ファルコン・グループは国際社会を左右するほど強大な力を持つようになった。なにせニムロディウムが無ければ、宇宙船も飛ばないし、宇宙植民地の地熱ジェネレーターも作動しない。供給がストップすれば、トリヴィアの大都市も数週間で機能停止に陥り、三億の人間があっという間に死滅する。いわば宇宙文明の命綱だ。

そして、この一世紀、鉱業のみならず、政治経済、産業、学界までもがファルコン・グループに左右される状態が続いたが、UST歴一一五年、画期的な精錬技術が誕生した。『真空直接電解法』だ。この精錬法を用いれば、低品位のニムロイド鉱石からも高純度のニムロディウムを効率よく精製することができる。開発したのはノア・マクダエル。理事長の祖父で、MIGの基礎を築いた人だ」

「なるほど。一家総出でファルコン・グループに反撃ののろしを上げたわけだな」

私怨ではない。技術革命だ。ニムロディウムは激しい噴火や大きな地殻変動によって惑星深部から地表にもたらされ、鉱床の大半は地中の奥深くに存在する。高品位のニムロディウム鉱石を採掘するのに、地下数百メートルに坑道を掘り、摂氏四十度近い高温多湿の環境で、重さ二〇キロのマシーンを抱えて何年も岩盤を掘り続ければ、人間の身体がどうなるか、君にも容易に想像がつくだろう。この宇宙文明の時代に信じられないかもしれないが、未だにそうした光景が鉱山の奥深くで繰り返されている。非合法の採掘現場も含めてだ。だが、大量のニムロディウムを含む鉱物が海底から完全自動化で採掘され、より簡易な方法で精製できれば、鉱業も、金属業も、産業全体が変わる。ニムロディウムのみならず、常用金属、希少金属ともに海底鉱物資源の採掘が実現すれば、世界の構図も変わるだろう。我々の目指すゴールは技術による革命だ。そして、ティターン海台の採鉱プラットフォームがそのエポックとなる」

【リファレンス】 深海の鉱山と海底地形

深海底には地上を遙かに凌駕する不思議で、壮大な地形が広がっています。
海が全部干上がったら、至る所、グランドキャニオンのような景観を目にすることができるでしょう。地上からは決して見えませんが、こうしている間にも、深海底のどこかで溶岩が流出し、ガスが噴出し、堆積物が巨大化し、ダイナミックに生きているのです。

こちらは熱水噴出孔に関する動画。多量の重金属を含む摂氏数百度の熱水が地底から勢いよく噴き上がり、まさに真っ黒な噴煙=ブラックスモーカーのよう。そして、その周囲には、コバルト、亜鉛、マンガン、金といった稀少金属が堆積し、熱水鉱床を形成しています。

こちらは海底鉱物資源=海底熱水鉱床の生成のプロセスや採鉱システムに関する動画です。

現実の海底鉱物資源の採掘に対する環境破壊の懸念は「生命の始まりは微生物 産業開発と海の宇宙的価値に掲載しています。

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。

閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

『曙光』上巻 ~”海底鉱物資源を採掘せよ”から”屁理屈だけは超一流”まで



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ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

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