生命を選別する宇宙開発 ~どの生物を残し、どの生物を見殺しにするか。人間の究極のエゴ

生命を選別する宇宙開発 ~どの生物を残し、どの生物を見殺しにするか。人間の究極のエゴ

宇宙開発と生物保護

遠からず、地球外生命は見つかると思います。いわゆる火星人みたいなものではなく、最初は微少な生物でしょう。

研究が進み、超高温、超高圧、超低温、超強酸、等々、一般的な生物には過酷な環境でも生息する生物の存在が明らかになってきました。

もはや生物とは奇跡的に地球に誕生したものではなく、ミクロの生命も含めれば、全宇宙に普遍的に存在するものだと思います。

いずれ「生物」とか「生命」の定義も書き換わり、生物と非生物の間には、僅かな差違しかない……という認識に変わるかもしれません。

だからといって、いきなり、椅子や机が生物認定されるわけではありませんが、いずれ科学の定説を覆すような方向に行くだろうと思っています。AIに人権はあるのか、というレベルまできていますから。

そして、人類は本気で火星に有人基地を建設するだろうし、その次は衛星、その次は隣の恒星系、その次は……資本の風に乗って、どんどん外に飛び出して行くでしょう。
現実問題、いつか地球が失われるのは確かなのだし、人類が存続するには、外惑星への移住は必須。それが可能になる頃には、純粋な地球人、火星で微妙に変化した火星人、バルカン人だの、チューバッカだの、多種多様に分化しているかもしれません。

その過程で、地球外生命との遭遇した時、人類はどう対処するのでしょうか。

微生物といえど、その惑星固有のものです。何億年、何十億年とかけて、高等生物に進化する可能性を秘めています。

そこに人類が介入することは、歴史への干渉に他なりません。

その時、何を守り、何を犠牲にするのか、意識改革が求められそうです。

人類がこうした問題が遭遇するのは、23世紀か、25世紀かは分かりませんけども、その頃には、アーマロイドレディみたいなのと、外惑星の土着生物の保護やヴァーチャルアイドルの人権について討論してるかもしれないですね。

【あらすじ】 宇宙人コード

いよいよウェストフィリア近海での深海調査が始まった。潜水艇プロテウスのコクピットで、調査に参加した研究員のノックスは、メテオラ海丘のカルデラ底で発見されたドーム型の熱水噴出孔についてヴァルターに意見を仰ぐ。水中写真にはバクテリアマットとおぼしきものが映っていたが、もしウェストフィリアに生物がいるとしたら、探鉱をとりまく事情はまったく違ってくる……。

人間の究極のエゴ どの生物を排除し、どの生物を残すか

「君はあのドームをどう思う? 地底から水が湧き出して、バクテリアの巣になっているようだが」
とノックスが聞いた。

「あれと似たような熱水噴出孔や冷水湧出帯はステラマリスでもよく目にしました。でも、あれほど毛足の長いものは初めてです」

「確かにな。まるでイソギンチャクかミミズの巣みたいだ。アステリアは今まで一度も宇宙開発法に触れなかったのかい? 俗に言う『宇宙人コード』だ」

ノックスは宇宙開発法で厳しく定められている『土着生物保護法』のことを口にした。

今ではステラマリス以外の惑星や衛星でナノスケールの原始生物が見つかることは珍しくない。だからといって、ナノスケールの生命を発見する度に工事をストップしていたら、数兆とも数十兆とも言われる開発費が宙に浮く。ゆえに曖昧な線引きで「保護すべき生物」とそうでない生物種に区分けしている。「保護すべき生物」に指定されたものはラボラトリで厳重に保管され、場合によっては、開発予定区一帯が立ち入り禁止になることもある。

一方、無視された種はブルドーザーの下敷きだ。それが数十億年かけて独自の進化を遂げる可能性があったとしても、産業活動が優先される。ある意味、「人類の究極のエゴイズム」と言ってもいい。何をもって生命とし、何をもって保護の対象とするか、いまだに万人が納得するような論拠はない。その時々の権威者が科学的判断を下し、その解釈も開発業者の意向で大きく変わる。そして、一方的に線引きされた生命は宇宙の片隅で淘汰され、二度と再び本来の姿に戻ることはない。

「もし、アステリアの熱水噴出孔にも生物圏が見つかったらどうする?」
ノックスがシニカルに笑った。
「宇宙人コードで全ての産業活動に待ったがかかるな。開発者にとって恐怖の瞬間だ」

科学の発達に伴い、それまで生命の存続は絶対不可能と考えられてきた、超高温、超高圧、高酸性などの過酷な環境でも生育する細菌や単細胞生物――いわゆる「極限環境微生物」は数多く発見されてきた。深海でも、水深一万メートルの超水圧の海底や、摂氏数百度の熱水噴出孔といった、想像を絶するような環境で、チューブワームや目のないエビなどユニークな生物が独自の進化を遂げている。そして、アステリアの本格的な海洋調査はまだ始まったばかりだ。全海域をくまなく探せば、土着生物に出会うこともあるだろう。その時、開発公社や政府はどのような態度に出るのか。「自然と科学を愛する人にはウェストフィリアも真の姿を見せてくれる」というダナ・マクダエルの言葉が思い出される。

パイロットと研究者 : 温かい連帯感の中で

上述の続き。新米パイロットのユーリは気泡のサンプリングに挑む。

やがてプロテウスは崖錐の上部に到達した。

垂直に切り立つカルデラ壁の一部が幾度となく崩落し、大量の礫岩が半円錐状に滞積した地形の天辺だ。これが地上のカルデラなら、砂利山のように盛り上がる崖錐を一望できるのだが、深海ではそれらしき斜面の一部がハロゲンライトの下にぼんやり照らし出されるだけだ。それでも深海には何百万年、何千万年、時には何十億年にもわたる地殻活動の歴史が自然のままに残っている。地上の山なら観光道路が敷設されたり、ホテルや展望台が新築されたり、人間の都合のいいように作り替えられていくが、深海は未踏の世界だ。今、目にしている巨大な礫岩も、最後に崩落したのは数年前か、あるいは数万年前か。岩は黙して語らないが、そこには確かに星の生きた軌跡がある。

ノックスはユーリに指示して扇状に盛り上がった堆積物に接近し、水中カメラの映像や覗き窓の外に見える礫岩の一つ一つに目をこらしながら、地学的に役立ちそうなものを採取するよう依頼した。

「これだけで足りますか? あっちの方にも、形状や色合いの異なる岩石が落ちてますよ。必要ならそこまでアプローチします」
ユーリも自分の役回りを理解したように応答する。

そうして一通り崖錐の観察を終えると、ヴァルターはユーリに西に移動するよう指示した。耐圧殻のモニターには、年開けにSEATECHが作成した立体地形図が映し出され、その中にプロテウスの現在位置が赤いマークで表示される。

とはいえ、厳密な位置関係を示しているわけではなく、自船の位置を知らせるソナーの音波が複雑な地形で二重三重に反響すれば正確に把握できないし、受信側の船舶が波や風で大きく揺れたり、定位置からずれれば、それも計算誤差の原因になる。また、SEATECHの地図も一メートル単位のグリッドで抽出されている為、およその地形しか掴めない。

深海で自身の位置を見失い、また船上からも追跡できないのが一番プレッシャーだ。浮上できても、支援船に見つけてもらえなければ、迷子のブイみたいに何時間も大洋に漂うことになる。幸い、彼には迷子の経験はないけれど。

そうして二、三分も経った頃、水中電話のスピーカーから「おい、どっちに行く気だ、進路がほとんど南に向いてるじゃないか。西だろ、西!」とフーリエの声が聞こえてきた。

ノックスとすっかり話し込んでいたヴァルターは慌てて身体を起こし、ユーリの横に肩を並べて計器を確認した。なるほど、プロテウスは方向感覚を無くしたラジコンみたいに蛇行しながら、カルデラ壁とは反対方向に向かっている。

「初歩的な操舵ミスだよ、おい、大丈夫か?」
ユーリの顔を覗き込むと、
「少し疲れてきました。自分がどこを航行しているのか、まったく分からなくて……」
ユーリは目を見開いたまま、ぽかんとした顔で答える。

「みんな、そうだよ。こんな狭い耐圧殻に閉じ込められて、真っ暗な水の中を潜航してたら、まともな方向感覚を無くす。そういう時は、こまめに上に呼びかけて、誘導してもらうんだ。不安なら『不安』と正直に伝える。パニックに陥るより、ずっといい」

<中略>

「あれはガスですか……それとも、他の……」
ユーリが覗き窓に顔をくっつけるようにして尋ねると、
「このメテオラ海丘が生きている証拠だ」
ノックスが言った。

「ガスの成分は詳しく調べてみないと分からないが、地底にマグマ溜まりがあって、地層全体が熱せられているんだよ。地上の火山でも、岩の割れ目から水蒸気や硫黄ガスが噴出している箇所があるだろう。海底ではそれが気泡となって現れる。ガスが発生する機序は同じだよ。気泡は採取できるかい?」

「やってみます」

ユーリがマニピュレーターを操作し、片方に柄の長い取っ手、片方が蓋付きの開口部になった直径十センチほどの透明なガラスの筒を気泡の立っている箇所に近づけた。取っ手を引くと蓋が閉まり、気泡の成分をガラスの筒の中に閉じ込めることができる。だが、泥のように柔らかいシルトの凹みにガラスの筒を突き立てても、気泡が筒の外に漏れて、なかなか上手く採取できない。

「そういう時は、ガラスの筒を突き立てたまま、左右に振って周囲の堆積物を崩すんだ。栓が抜けたみたいに泡が噴き出すことがある」

「左右に……ですか……」

ユーリはその動作がイメージできないように首を傾げる。

「俺が替わろうか」

彼はユーリからマニピュレーターのコンソールを受け取ると、水中カメラのモニターを見ながら、ガラス筒を堆積物の中に深く突き立てた。それから棒で砂山を掻き回すような要領で、多少荒っぽくガラスの筒を左右に揺らすと、噴出孔を塞いでいた堆積物が一時的に取り除かれ、ビール栓が抜けたように気泡がボコボコと勢いよく立ち始める。それを素早くガラス筒でキャッチして、十五秒ほど筒を下向きに維持する。気泡が十分に集まったら、それを逃さないよう、下向きの状態でゆっくり堆積物から引き抜き、もう片方のマニピュレーターで速やかに取っ手を引いて、蓋をする。

<中略>

ガスの採取が終わると、ユーリもだいぶ慣れてきたのか、ノックスにも積極的に話しかけ、ステラマリスの海底の様子も興味深く聞いている。最初はぎくしゃくしていたが、狭い耐圧殻の中で、何時間も同じ世界を共有するうちに不思議な連帯感が湧くものだ。

多くの場合、潜航調査は「一回限りのランデブー」。同じ研究者と何度も乗り合わせることは非常に少ない。一度の潜航調査に何万、何十万ユーロと経費のかかるミッションを自分の都合良くチャーターできる研究者など無いからだ。

それに、せっかく搭乗のチャンスを得ても、海況に恵まれず、潜航自体がキャンセルになることもある。パイロットはともかく、多くの研究者にとっては、生涯のテーマと定める水深数千メートルの海底火山や生物圏を間近で見るチャンスは一生に一度あるか、ないかだ。その万感の思いが強い連帯感を生み出す。長い人生の、ほんの数時間、その場に乗り合わせただけでも、一つ一つのミッションは感慨深い。

そして今、外惑星で生まれ育った新米パイロットのユーリと、ステラマリスの海で研究を積み重ねてきたノックスの間にも、不思議な連帯感が芽生えている。ノックスのベテランらしいアドバイスに熱心に耳を傾けながら、ユーリもこの仕事を選んでよかったと思い始めているのではないだろうか。

そうして調査時間も終わりに近づくと、ユーリは落ち着いた口調で海上のナビゲーションスタッフと連絡を取りながら浮上の準備に入った。

「なんだか、あっという間でしたね」

搭乗前の不安と打って変わって、名残惜しそうに呟く。

「結局、めぼしいものは何も見つかりませんでしたけど、こんなので良かったのでしょうか」

「どんな調査にも価値があるよ」

ノックスが答えた。

「あんな気泡一つでも、メテオラ海丘の全容を解く鍵に違いないし、何年も経ってから『あれは、こういう意味だったのか』と明らかになることもある。どんなデータが決め手となるか、一日を見ただけでは分からない」

「熱水噴出孔や、チムニーや、学術的に興味深いものって、割と簡単に見つかるものですか?」

「それは微妙な質問だな。ヴァルター、君はどう思う?」

ノックスが彼に質問を振ると、彼はプロテウスのパイロットとして務めた日々を振り返り、
「昔に比べればヒットする確率は高いと思う。事前調査の段階で、かなり正確に場所を絞り込めるようになったからね。それに、この辺りは地殻活動が活発で、噴火や地震も頻発してる。アステリアの全ての海水が干上がれば、あそこにも、ここにも、と、興味深い発見がたくさんあるだろう。だが、ここは海底だ。カルデラの形状を一つ調べるにも調査船を派遣して、大層な装置を幾つも使わねばならん。そして、多くの場合、人間の目で確認できるのは全体のごく一部だ。それがどんな形をして、どんな風に活動しているか、音響や磁気や温度などのデジタルデータを加工した3D画像やグラフで推測するしかない。地上の火山なら十キロ先からでもよく見えるし、無人航空機で写真撮影したり、観測衛星でリアルタイムに噴火の様子を分析したり、肉眼で容易に観察できるけどもね。たとえ、この深海にグランドキャニオンやテーブルマウンテンのような素晴らしい自然の造形があったとしても、人間の目で一望することはできないし、存在にすら気付かないかもしれない」

「そうでしょうねえ」

「先の事前調査でも水温の異常から熱水噴出域が認められているわけだし、ここも全く何も無いわけじゃない。いつかは何か見つかるさ。ここにしか存在しない『何か』がね」

【リファレンス】 海底でのサンプリング

JAMSTECの『しんかい6500』の正面。

しんかい6500 耐圧殻 正面

マニピュレーターも大人の掌ぐらいありますよね。

しんかい6500 マニピュレーター

サンプリングの実際。画像をクリックすると、ビデオファイルのURLにジャンプします(JAMSTEC 深海画像・映像アーカイブス)。

こちらはチムニーの採取。ぼろっと崩れそうなのを、根元からしっかり掴んで、基礎岩から剥がします。

沖縄トラフ 伊是名海穴(HAKUREI site) 潜航日 (UTC): 2011/08/19
しんかい チムニーのサンプリング

本作で参考にさせて頂いたバブルの採取。

南西諸島 第4与那国海丘 潜航日 (LST): 2001/05/21
海底のバブルのサンプリング

こちらはホワイトスモーカーのサンプリング。

マヌス海盆 デスモス 潜航日 (LST): 1998/11/04
しんかい ホワイトスモーカーのサンプリング

海底のバクテリアマット。
白いもろもろの中に、地下から熱水(冷水?)のようなものが湧き出す様が見えます。
海底に広がる白色や黄色のバクテリアマットは、その周辺に養分となるメタンや硫化水素が存在する目印となります。

鹿児島湾 若尊火口 潜航日 (LST): 2008/08/14
バクテリアマットとゆらぎ

バクテリアが多量に繁殖してマット(厚い敷物)のような状態になること。特定の環境下でバクテリアが繁殖して生じる。

2011年8月に独立行政法人海洋研究開発機構が発表した、有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査の結果では、三陸海岸東方の日本海溝の海域で、東日本大震災によって生じたと見られる海底の亀裂、断層から噴出すメタンや硫化水素などによって繁殖したと見られる分厚いバクテリアマット、地震発生前には棲息が確認できなかった高密度に棲息するウシナマコ類、などが確認された。
新語時事用語辞典より

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『曙光』下巻 ~”深海調査のオファー”


 著者  石田朋子
 定価  --
 ページ数  1244ページ
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