マリー・アントワネットの哀しみが心に流れてきた日

パリが現在のように物騒になる、ずっと以前。

パリとベルサイユ宮殿を訪れたことがあります。

当然ですよね。

ベルばらは少女時代の愛読書ですもの。

ベルばらなくして私の少女期はなかったし、オスカルなくして、今の私は有り得なかった。

オスカルが、6巻のあそこで(ジェローデルとの結婚話の後)、「女でありながら、これほどにも広い世界を……人間として生きる道を……このような、ぬめぬめとした人間のおろかさの中でもがき生きることを……」と言った時から、私の生き方も、そのように定められてきました。ここを訪れずして、自身の人生が完結することはないのです。

そして、2002年。

むずがる連れの手を引いて、ベルサイユ行きの電車に乗り込んだわけですが、「宮殿なんか見て、何が面白いの」と真顔で言われた時は、ちょっとムカっときましたよ。

子供の頃から、王城もカトリック教会も見慣れている家人にしてみれば、はるばるフランスまで来て、またも宮殿に引っ張って行こうとする私の行為は、退屈極まりないでしょう。しかし、私にとっては、ベルサイユ宮殿は聖地の中の聖地。「そんなヒマがあったら、エッフェル塔でも上ろうや」という家人の意見を無視して、ひたすらベルサイユを目指しました。

文句があるなら、ベルサイユにいらっしゃい。

いいえ。

文句がなくても、ベルサイユに行くのが、真のベルばらファンというものです。

そうして、長年の夢が叶って、憧れのベルサイユ宮殿に脚を踏み入れたのはいいですが、豪華なシャンデリアや調度品、目もくらむような「鏡の間」や「王妃の間」を見るにつけ、大輪のバラのように咲き誇りながら、最期は断頭台の露と消えたマリー・アントワネットの哀しみが胸に流れ込み、観光ルートを一巡した後、とうとう階段の踊り場で、人目もはばからず泣き崩れてしまったのです。

私はその時代を体験してないので、マリーの犯した罪がどれほどのものかは分かりません。

事実もあれば、革命の嵐の中で、意地悪く歪められたこともあるでしょう。「パンがなければ、お菓子を食べればいい」など、その典型です。

楽しいことが大好きで、善良な家庭人に過ぎなかった一人の平凡な女が、死をもって償うには、あまりに荷が大きすぎるような気がします。

現代なら、ぺろっと謝罪して、それで終わり。

策を弄して、刑罰を逃れる人も少なくありません。

少なくとも、現代に生きていれば、民衆の前で公開処刑されることはなかったでしょう。

「私が一体、どんな悪いことをしたというの?」

豪華絢爛なベルサイユ宮殿には、そんなマリーの戸惑いが今も漂っているように感じます。

邸内も、園庭も、目を見張るほどに豪華だけど、どこか淋しい感じがするのは、落葉のぼんやりとした光を感じさせるからかもしれません。

日程の都合から、コンシェルジュリーを訪れることは適いませんでしたが、訪れていたら、多分、目が真っ赤に腫れ上がるほど涙したと思います。

民衆に憎まれ、死に値する罪を犯したとしても、世界にたった一人ぐらい、あなたの為に泣く人間がいても罪にはならないでしょう。

今も、あなたを見つめ、理解したいと願う女の子が、日本にはたくさんいます。

だから、天国で、いつまでも薔薇のように咲き続けてください。

今回の記事はこちらからインスパイアされました。

2002年。マリー・アントワネットの寝室
マリー・アントワネットの寝室

2002年
ベルサイユ宮殿

2002年。凱旋門。
パリ 凱旋門

2019年。

18世紀。パリはぶっそうになったな……
パリはぶっそうになったな

マリー・アントワネットのおすすめ本

 マリー・アントワネット〈上〉 (岩波文庫) (文庫)
 著者  シュテファン・ツワイク
 定価  ¥ 1
 中古 90点 & 新品  ¥ 1 から
 5つ星のうち 4.3 (18 件のカスタマーレビュー)

アントワネットやフランス革命を理解するための基本の書。
クラシックな翻訳も手伝って、当時のフランスを体感できること間違いなし。
マリーは本当に悪い女王であり、愚かな人間だったのか。
その答えがきっと見つかるはず。

 王妃マリー・アントワネット (「知の再発見」双書) (単行本)
 著者  エヴリーヌ ルヴェ
 定価  ¥ 1,728
 中古 54点 & 新品  ¥ 1 から
 5つ星のうち 4.0 (19 件のカスタマーレビュー)

歴史のみならず、文化や習慣にも多大な影響を与えたマリーのライフスタイル。
その華やかな生涯を美しいオールカラーのイラストと写真で紹介するビジュアル歴史本。
さらりと読めます。

 マリー・アントワネットと悲運の王子 (講談社プラスアルファ文庫) (文庫)
 著者  川島 ルミ子
 定価  ¥ 487
 中古 10点 & 新品  ¥ 487 から
 5つ星のうち 5.0 (8 件のカスタマーレビュー)

ベルばらやその他の歴史本には詳しく書かれていないルイ・シャルルとマリー・テレーズのその後の運命。
虐待され、孤独のうちに衰弱死した王子の生涯があまりにも哀れ。恐るべき虐待が行われていたことがリアルに綴られている。
今は遺骨も発見され、愛する父と母の墓の側に眠っている。

 ベルサイユのばら 全5巻セット (集英社文庫(コミック版)) (文庫)
 著者  池田 理代子
 定価  ¥ 3,343
 中古 43点 & 新品  ¥ 781 から
 5つ星のうち 4.3 (103 件のカスタマーレビュー)

ベルばらは集英社文庫のコミック版が5冊セットで読みやすいです。私も最終的にこれを買い直し。
上記の「パリはぶっそうになったな」は、ポリニャック夫人の脅しからオスカルを守る為、ジャルジェ家を出たロザリーが、葛藤を乗り越え、再びジャルジェ家に戻ってくる道中で遭遇する場面です。
ポリニャック夫人の権勢も衰え、市民の怒りや不満が暴力という形で顕在化する過程を描いています。

初稿: 2006年12月19日

Photo:David MarkによるPixabayからの画像

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この記事を書いた人

石田 朋子

文芸愛好家&サブカルチャー・ファン。主に70年代~90年代の作品に思い入れがあります。寺山修司の名言『詩を作るより、田を作れ(揶揄)』をモットーに、好きな作品を次代に伝えることを目標にしています。海外在住につき、現代日本とは相容れない所がありますがご容赦ください。趣味はドライブと登山。