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恋する瞳 ~人はなぜ眼差しに惹かれるのか~

※ 『ベルサイユのばら』 第七巻 オスカルとアンドレのロマンスに関するコラムです。

古今東西の名作の中で、目について語った言葉で一番好きなのが、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』冒頭、ヒロイン・スカーレットの描写です。

目は、茶のすこしもまじらない淡碧(うすあお)で、こわくて黒いまつ毛が、星のようにそのまわりをふちどり、それが目じりへきて心もちそりかえっている

私は子供の頃からスカーレットの大ファンで、マスカラを塗るようになってからは、「星のようにふちどるまつ毛」を目指していましたが、ブラシ使いが下手で、しょっちゅうダマを作っては、綿棒で拭き取っていたものでした。マスカラはヘレナ・ルビンシュタインを愛用していたのですが、出社早々「あんた、マスカラが目の周りに付いてるで」と言われることも多く、独身時代は恥のみ多い化粧ライフでした。

余談ですが、初めてポーランドを訪れた時、クラクフのユダヤ人地区で有名なレストランに入り、ふと後ろの壁を見上げたら、ヘレナの美しい肖像画が掛かっていたのには本当に驚いたものです。彼女はポーランド人だったんですね。私にとっては、ヘレナのマスカラがポーランドとの縁の始まりだったようです。

ところで、私の二人の子は、スラブ系のハーフの割にはどちらもバリバリの日本人顔で、お尻に蒙古斑を付けて生まれてきた純正モンゴリアンなのですが、二人を連れて歩いていると、道行く人によく言われるのが、「なんて可愛いczarny ocy(黒い瞳)なの!」

日本人が青い瞳にほのかに憧れるように、こちらの人にとっては黒い瞳がとても魅力的に見えるのでしょう。こちらにも黒っぽい瞳の方はおられますが、アジア系の瞳の黒さは格別なようで、あるポーランド人いわく「宇宙を感じる」とか。

有名なロシア民謡『黒い瞳』でも、「惑わしの黒き色(注)」と、人生を狂わせるほどの恋心を黒い瞳に込めて歌っていますが、ブルーやグリーン系の透き通るような瞳が大多数を占める中で、黒く輝く瞳は、ひときわ吸い込まれるような魅力があるのかもしれません。 

「ベルばら」では、アンドレへの愛に目覚めたオスカルが、彼と口づけを交わした後、「黒曜石の、ぬれてきらめく、ただひとつの瞳」と、彼の眼差しを表現しています。普段は凛としたオスカルが情感たっぷりに思いの丈を語る場面なので、この廊下でのキスシーンが好きだという人も多いのではないかと思います。

それにしても、人はなぜ恋をすると見つめ合い、その眼差しに惹かれるのか――それについては、ちょっとした科学的根拠があります。
手足や内臓、耳や舌の神経など、主要な神経の大半が、首の後ろにある延髄を中継して大脳に情報を伝えるのに対し、視神経だけは大脳に直結し、目から得た情報をダイレクトに伝えます。昔から、「目は口ほどに物を言い」とか「目は心の窓」とか言いますが、諺の通り、人間の目は「表に現れた脳」、すなわち『心』そのものなのです

「ベルばら」でも、スウェーデン軽竜騎兵の制服を着てベルサイユ宮に伺候したフェルゼンを、マリーが惚れ惚れと見つめると、周りの貴婦人たちが、
ごらんあそばせ、王妃さまのあのまなざし。夫のある身でありながら、まあはしたない。あんなにうっとりと見とれたりなさって……」と噂し合いますし、マリー自身も、「いまはことばをかわすことはおろか、見つめあうことすらゆるされない……。このからだじゅうが、ぜんぶ目となって、あなたの姿だけをおっているのに……!」と、恋の苦悩を語っています。

このように目は隠しきれない心の窓であり、そこに映るもの、映し出されるものをコントロールする術はありません。

求めれば見つめ、想いは眼差しに滲み出します。

人間の目ほど正直なものはないのです。

人が眼差しに惹かれ、力を入れてメイクアップするのも、そこに真の心があることを本能的に知っているからでしょう。

アンドレと結ばれる前、オスカルは言います。

よかった。すぐそばにいて、わたしをささえてくれるやさしいまなざしに、気づくのがおそすぎなくて……

オスカルにとっては、彼の眼差しこそ、何にもまさる愛の真実だったのかもしれません。

引用文献
「風と共に去りぬ」マーガレット・ミッチェル著
大久保康夫・竹内道之助 河出書房新社刊

(注1)堀内敬三氏の邦訳より

この投稿は2007年~2008年にかけて”優月まり”のペンネームで『ベルばらKidsぷらざ』に連載した原稿のリライトです。

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映画『風と共に去りぬ』の冒頭。「星のような睫毛」を強調するアイメイクです。

数ある衣装の中でも、一番美しいのが、この真紅のドレス。
アシュレイとの仲が町中で噂され、「誕生会に行かない」とごねた時、「行かなければ噂を認めたことになる。娘の為に堂々と顔を出せ」とレット・バトラーに諭され、ぎゅっと顔を作って、招待客の輪に入っていく場面です。

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