エンド・オブ・キングダム

愛国心とは何ぞや『エンド・オブ・キングダム』

2001年、9・11のテロの後、アメリカを訪れたことがある。

あれほどの悲劇の後だから、さぞかし悲嘆に暮れているだろうと思ったら、ケネディ宇宙センターも、ディズニーワールドも、その他の観光施設も、いずこも通常営業。人々はディズニーリゾートでのんびりくつろぎ、大晦日の打ち上げ花火を楽しみ、デラックスカップのアイスクリームを頬張り、本当にテロの後かと思うほど。影響を感じたのは、空港のセキュリティが異常にピリピリしていたのと、入場者チェックが厳重だったくらい。それを除けば、朝から晩までキンキラキンにクリスマスのイルミネーションが輝き、ショッピングモールは歳末セールで賑わい、ディズニーワールドではミッキーやシンデレラがにこやかに微笑み、何も変わらない。世界中にあれほどの衝撃を与えても、アメリカは何も変わらない……というのが、私の大きな印象だった。

実際、アメリカは広い。日本とは比べものにならないほど、広く、どっしりとして、三億の現代人の暮らしを支えるインフラが充実している。電気や通信は言うに及ばず、空港、高速道路、商業施設、エトセトラ。

こんな砂漠が何百キロと続いている所もあれば……
アメリカ ネバダ州

ラスベガスのように、ギンギラギンの不夜城みたいな大都市もたくさんある。

ラスベガス

夜間、アメリカ上空をフライトすれば、北米大陸の端から端まで、ギンギラギンの夜景を見ることができる。まさに世界中の資源を食い尽くしているという感じ。

アメリカ 夜景

嫌な喩えだが、高層ビルを吹き飛ばしたぐらいでアメリカは揺るがない。大統領が急死しても、翌日には通常営業だろう。

それほどに巨大で、成熟した国土がある。

たまに上空を行き来するアメリカ空軍の戦闘機を見れば、こんな国に喧嘩を仕掛けるなど、とち狂っているとしか思えない。

所得格差やリーマンショックや、いろんな危機を経験しても、元々の国力が桁違いに大きい。

もし、またテロが起きても、ディズニーワールドは通常営業するだろう。金儲けの為か。断じて違う。国家的な悲劇に見舞われても、ミッキーは笑い、打ち上げ花火が夜空を彩る。それがテロに対する最大の報復だからだ。

2016年公開の『エンド・オブ・キングダム』もそんな映画。

2013年の『エンド・オブ・ホワイトハウス(原題:Olympus Has Fallen)』の続編で、またも米大統領がテロの危機に瀕する物語だ。今度は米大統領だけでなく、英国首相の国葬に集ったEUの各国首脳と(なぜか)日本の首相も標的になる。世界中がテロに敏感になっている時期、本当にヤル気かと思っていたら、本当にやっちまうんだから驚きだ。そして、生き残ったのは米大統領だけという、トホホな設定。まあしょうがない。ハリウッド映画だから。

イタリア首相は若い愛人? 奥さん?とウェストミンスターからロンドン見物中に爆破。
エンド・オブ・キングダム

おフランスの首相はボートで乗り付けたところを爆破。
エンド・オブ・キングダム

そして、わが日本の首相は車の中に閉じ込められて、橋桁から転落。
エンド・オブ・キングダム

転落する車がさりげにTOYOTA(´。`)
エンド・オブ・キングダム

公開処刑の場に引きずり出される米大統領。多分、処刑直前にジェラルド・バトラーがテロリストを射殺するんだろうな……と思っていたら、本当にその通りだった。
ここまでドンピシャだと、かえって痛快。

エンド・オブ・キングダム

『アラブ=テロリスト=悪』の構図は相変わらず、絵に描いたような勧善懲悪ストーリーで、今時こんな作品を作る意義があるのかと思うが、案外、こういうのが求められるのだと思う。もう、誰もがうんざりしているのだ。反省を求められるのも、世界平和について考えるのも。本作もそうだが、テロリストにもテロリストの言い分があり、大国のエゴで中東の人々が犠牲になっている現実も知っている。だからといって、我々、庶民にどうせよというのか。アメリカ国民だって、武力解決など望んではいない。でも、上の判断でそうなってしまう。そして、その度に、誰かが犠牲になり、我々にも非はあると反省し、平和を誓い……その繰り返し。そんな罪の十字架を背負うより、勧善懲悪の方が気楽でいい。クリント・イーストウッドが描くような、重い、暗い、先進国の業が漂うような内容は、もううんざりなんだ。――という感じ。

作中では、テロリストも家族をドローン爆撃で殺され、復習もやむなし、のような背景も描かれるが、ほとんど弁護になってない。そして、極めつけがコレ。

ビルを爆破しようと

国旗を焼こうと

人を殺そうと

お前みたいなクソが何度俺たちを狙おうと

言っておくが

1000年後も俺たちの国は安泰だ

エンド・オブ・キングダム

ああ、きっとこの台詞を言わせたかったんだろうな、と。

テロリストにとって最大の報復は、被害を受けても国民の生活はまったく揺るがないこと。

数百人が殺されても、映画館やテーマパークは通常営業するし、宅配便は予定通り到着するし、TVでは相変わらずプロ野球中継や肥満用サプリのCMなど流している。人々はカウチに寝そべり、大人の頭よりでかいポテチの袋を抱えながら、「へぇ~、レディ・ガガもついに○○かぁ」なんてやってる。

道義はさておき、それが『屈しない』の最大意思表明なのだ。武器もって報復するよりも、何よりも。

テロなんてやってるヤツはご苦労さん。自爆したって自分が損するだけ、誰も困らないし、天国もナイナイ (o゜ー゜o) 数百人を吹き飛ばしたぐらいで、本気でアメリカを倒せると思ってるのかね??

愛国心というのは、他民族を憎むことでもなく、政策の異なる層を叩くのでもなく、自国の数千年の繁栄を願うことだ。自分が明日死ぬと分かっていても、自国の未来の為に、リンゴの木を植えることだ。復讐の為にさらなる武力を送り込むより、漫画みたいな活劇を作って溜飲を下げる方がまだマシという庶民感情の上にとりあえず平和がある(テロの度に国民が武力行使を求めるようなら、遠からず世界は滅びる)

『エンド・オブ・キングダム』は、案外、庶民の愛国心を反映しているのかもしれない。(道義的に良いか悪いかは別として)

Amazonプライムビデオで視聴できるので(2017年11月)興味のある方はどーぞ。

エンド・オブ・キングダム [DVD]
出演者  ジェラルド・バトラー, アーロン・エッカート, モーガン・フリーマン, アロン・モニ・アブトゥブール, アンジェラ・バセット
監督  ババク・ナジャフィ
定価  ¥ 1,398
中古 57点 & 新品  ¥ 150 から
5つ星のうち 3.8 (202 件のカスタマーレビュー)

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