ハムスター

ハムスターとネズミ講と世界の不公平 【猫日記 3】

我が家の庭には、五匹のハムスターが埋まっている。

最後まで愛情たっぷりに育てられた子、生まれた時から虚弱体質で、いまいち顧みられることなく、小さなケージの中で一人淋しく死んでいった子、一人で淡々と暮らし、いつの間にか事切れていた子、それぞれに個性も生き方も異なる。

我が家で最大の悲劇は、「どちらもメス」といわれて購入した二匹のハムスターが、実はオスとメスで、一ヶ月ほど経ったある日、六匹の子供を産んだことにある。
いつの頃からか、巣箱の中からミィミィ音がするので、メス同志、愛に目ざめたのかと思ったら、なんと子供に授乳中ではないか。

ハムスターチューブの中で、二匹、折り重なったようになっていたのは、サフォーの愉悦ではなく、子作りだったらしい。

当然のこと、うちでは八匹も飼いきれないから、(捨てたい……)という邪悪な考えが脳裏をよぎった。

しかし、せっかく生まれた子供たちを、こっちの勝手で捨てたりしていいものか。

ペットショップにも問い合わせたが、衛星上の問題で、家庭で生まれたハムスターを引き取ることはできないと。

どうするんだよ、どうするんだよ、と、とにかく、飼育ケージを2個買い足し、八匹のハムスターを世話をしていたが、子供たちがトコトコ歩き出したのも束の間、このカップルはまたも子供を産んだ。今度は5匹。

ほんの2ヶ月の間に、2匹のハムスターが、13匹に増えたということは……

四ヶ月後には、30匹以上。

六ヶ月後には、100匹以上。

一年後には……

これぞ本当のネズミ講。

●●みたいに、元締めにお金がガポガポ入ってくるわけじゃなし、今、ここで処分しなかったら、我が家は大変なことになる……というので、ある晩、とうとう決心した。

わざとケージの入り口を数センチ開き、「ここから先の人生は、お前たちで決めなさい」と、一晩放置したのだ。

すると、ハムスター母さんはどうしたか。

一夜のうちに、新たに生まれた5匹のベビーハムスターを口にくわえて、冷蔵庫と壁の隙間に引越し、第二の巣作りを始めたのだ。

ということは……二ヶ月もしない間に、冷蔵庫の裏手でまた子供が何匹と産まれ、結局、ネズミ講ではないか!

こちらの恐怖をよそに、ハムスター母さんは夜な夜な冷蔵庫の裏から現れては、私が用意した餌を頬いっぱいにくわえて、子供たちに与える日々。

我が家がハムスターに食い潰されるのは、いつの日のことか。

戦々恐々と暮らしていたら、いつの頃からか、ハムスター母さんの姿も、子供たちの姿も見えなくなった。

どうやら巣の場所を変えたか、独り立ちしたのだろう……と安心していたら、数週間後、家人が庭先の物置の影に、食い殺された五匹の子供たちの死骸を見つけた。いずれも頭をかじられて、無残な最後であった。ストレスに耐えきれなかったハムスター母さんは、子供を食い殺して、どこかに去ったらしい。

こんな事があってから、私は二度と生き物は飼わないと決めたし、子供たちにもそう言い聞かせてきたのだが、ほとぼりが醒めると、今度は「猫飼う」。

結局、飼ってるけど、今度はパイプカット手術を受けさせて、とにかく子供は作らないようにしている。

人間のエゴといえばその通りだが、面倒みきれず死なせるぐらいなら、きっちりバースコントロールした方がいい。

その後、ほどなく最後のハムスターも死亡し、数年続いたハムちゃんとの暮らしも終わりを告げた。

十分に愛したかと問われたら……なんともいえない。毎日、数匹の世話をして、精神的にプレッシャーだったから。

ハムスター

ハムスター

海の向こうでは、人間がゴミみたいに殺されて、食うや食わずやで苦しんでいるのに、一方では、猫やハムスターが毎日たっぷり食事を与えられ、手厚く世話されている。彼らの命は、猫やハムスターにも劣るのだろうか。何なのだ、この異様な地上の不公平は。

人間の生命は尊いとか、どんな命も平等とか、あんなのきれい事とつくづく思う。

現実には、ゴミみたいに殺される方が圧倒的に多く、オギャアと生まれた場所で人生の大半が決まる。

人間が努力して変えられる部分など10%か20%くらい。

後は、生まれた場所、生まれた時代、外的な要因に左右されて、荒波に揉まれる小舟みたいに無力なものだ。

本当はそうだと誰もが知っているくせに、命の平等や努力の尊さを説くのは、半分ホントで、半分インチキというものだろう。

あなたも、私も、運がよかっただけ。

ただ、それだけに過ぎない。

能力や人柄のおかげ(だけ)では、断じてないのだ。

こんな家庭(家)に生まれさえしなければ……という例を多々目にするので、余計でそう思う。

何事も、一概に責めることはできない。

広告
>海洋小説『曙光』MORGENROOD

海洋小説『曙光』MORGENROOD

ニムロディウムという架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどをテーマに描く人間ドラマ。水深3000メートルに眠るニムロディウムの採掘は世界を変えるのか。生の哲学を中心に海洋社会に生きる人々の願いと攻防を描きます。Google Driveにて無料サンプルPDFも配布中。

CTR IMG