ジュラシック・パーク スティーブン・スピルバーグ

生命は道を探し出す スピルバーグの映画『ジュラシック・パーク』

化石に閉じ込められた蚊の胎内から恐竜の血液を採取し、現存する爬虫類のDNAと掛け合わせて、恐竜を現代に蘇らせる。夢のテーマパークはコンピュータシステムで完全に管理され、安全に見物できるはずだった。だが巨額の利益に目がくらんだ職員が恐竜のDNAを持ち出そうとしたことから、システムに綻びが生じ、恐竜たちが暴走しはじめる。スティーブン・スピルバーグが80年代、最先端のCG技術を駆使して制作した本作は、生命をコントロールできると過信した人類への警鐘でもある。たとえ人為的に管理されようと、生命は道を見出し、たくましく生き続ける。

生命は本当にコントロ―ルできるのか

人は、財力と権力を手にすると、何でもコントロールできるように勘違いするらしい。

右といえば、皆が右を向き、左と言えば、皆が一斉に左を向く。

長くそういう立場に居ると、相場も、生き物も、指一本どうにでもできるような錯覚に陥るのだろうか。

インジェン社の経営者で、ハモンド財団の創始者でもあるジョン・ハモンドもその一人だ。

絶海の孤島、イスラ・ヌブラル島に『ジュラシック・パーク』を創設し、世界中から観光客を呼び寄せる準備を進めている。

琥珀に閉じ込められた古代の蚊の体内から恐竜の血液を採りだし、遺伝子操作によって現代に蘇られせる。そして、大きく育った恐竜たちをサファリパークのように放し飼いにし、見世物にする計画だ。

しかしながら、ジュラシック・パークの安全性はまだ確立されておらず、専門家のお墨付きを得るべく、古代生物学の先鋭、アラン・グラント博士に助言を求める。

ハモンドの熱心な要請により、グラント博士は、助手で恋人でもあるエリー・サトラーを伴い、開園準備が進むジュラシック・パークの視察に訪れる。

視察団にはカオス理論で有名な数学者、イアン・マルコム博士と、ジュラシック・パークの経営に参画し、莫大な利益を得ようとする顧問弁護士、ドナルド・ジェナーロの姿もあった。

個性的なマルコム博士を演じるのは、クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』で、嫉妬深い天才科学者を演じ、高い評価を得たジェフ・ゴールドブラム。この作品で一躍スターダムにのし上がった。
彼が黒い服を着ているのは、原作によると、「毎日、何を着ようかと悩むのは時間の無駄だから、黒い服しか持ってない」とのこと。
同じ型の黒スーツを何着も持っている……と言っていた記憶がある。今、本が手元にないので、うろ覚えだが。

黒づくめのマルコム博士

ハモンドの案内で、まずはラボラトリを視察する。

生きたまま琥珀に閉じ込められた蚊の血液袋から、極細の注射針で恐竜の血液を抜き取り、カエルの遺伝子を使って、完全な形に補う。

琥珀の中から蚊の血液を採取して恐竜の遺伝子を取り出す

孵化を待つ恐竜の卵。
最先端の技術に、グラント博士やサトラーらは自らの責務も忘れて心をときめかせるが、、、

孵化を待つ恐竜の卵

冷静なマルコムは、早くも科学者らの見通しの甘さに警鐘を鳴らす。

園内の恐竜は、染色体の制御により全てメスに統一されている。

「脊椎動物の胚というのは本来、すべてメスなのですが、発生段階の適当な時期に特別なホルモンが作用すればオスになり、それを許さないだけです」と遺伝子工学の科学者。

だが、マルコムは主張する。

「すべてを管理することは、到底、不可能じゃないか。進化の歴史を見れば分かるように、生命というのは、決して他に押さえ込まれたりはしない。苦痛を舐め、危険を冒しても、自らの領域を広げていく。それが生命というものだ」

「メスだけで更生されている集団でも、子供ができると?」

研究員が反論すると、マルコムは断言する。

「いや、そういう意味ではなく、生命というのは、何らかの道を探し出す

単純な原生生物が何億年かけて複雑かつ高度な知的生物に進化したように、ジュラシック・パークの恐竜たちも現代の環境に適応し、自ずと生き延びる術を得る、という意味だ。

生命を道を見出すと疑問を呈するマルコム博士

一方、グラント博士も、凶暴なヴェロキ・ラプトルが遺伝子操作で再生することに不安を覚える。

獰猛な肉食獣で、人間より大きく育つ恐竜を本当にコントロールすることができるのか。

凶暴なヴェロキ・ラプトルの子供

だが、ハモンドも、研究者も、ジェナーロ弁護士も、後戻りする気はない。なぜなら、このパークは必ずや莫大な利益を生み出すからだ。

現代に闊歩する恐竜

「こいつは儲かるぞ」とジェナーロ弁護士。

この一言に全てが集約されている。

生命だの、倫理だの、そんな事はどうでもいい。要は、金になるか、否か。それが肝要だ。

儲けしか頭にないジェナーロ弁護士

ハモンドを演じるリチャード・アッテンボローの「Welcom to Jurassic Park」 は映画史に残る名台詞。
「ジュラシック・パークにようこそ」は、80年代、映画新時代の幕開けを告げる言葉でもあるからだ。

CGも、3Dも、今でこそ当たり前だが、当時は画期的な技術だった。
ジュラシック・パーク以前もサイエンスフィクションは存在したが、撮影には本物のセットが使われ、怪獣はミニチュア、宇宙基地は張りぼて、宇宙人は縫いぐるみかメーキャップだった。
だが、ジュラシック・パークでは、CGがいよいよ本格化し、ミニチュアを作らなくても、高度な合成技術によって恐竜の群れを映像化することが可能になった。
ジュラシック・パークに始まった映像革命は、1999年公開の『マトリックス』で頂点を極め、2009年公開の『アバター』でさらなる進化を遂げた。
いわば「ジュラシック・パークにようこそ」は『映像の新時代にようこそ』という映画人からの招待状なのだ。

Welcome to Jurassic Park ジュラシックパークにようこそ

その日の晩餐でハモンドはグラント博士らの意見を求めるが、マルコムの見方は変わらない。

「ここに並べ立てられている、自然への謙虚さの欠如にはめまいがする。
遺伝子というのは、この地球上で最も驚異的な存在であるはずだ。
それなのに、あんたらはオモチャのように振り回している。
あんたらが使ってきた科学力の問題点は、その気になれば、誰でも使えるということだ。
あんたらは他人が書いたものを読んで、次へ進んだだけだ。
自力で得た知識じゃないから、それに対する責任感も、ゼロだ。
天才たちの肩に乗っかって、何を作ってるのか、認識もせずに、ただ完成を急いだ。

その一部を切り取って、きれいに包装し、弁当箱に貼り付けて、がんがん売りつけるだけだ。
できるかどうかという事に心を奪われて、すべきかどうかは考えなかった」

「コンドルはどうだ。今、絶滅の危機に瀕している。もし、わしがこの島で作っているのが恐竜でなくてコンドルなら、君も文句は言わないはずだ」

「コンドルは森林伐採やダム建設が原因で危機に瀕している。絶滅の意味が違う。恐竜たちは誰のせいでもない。自然界の摂理によって滅びたんだ」

「なんという反進歩的な態度だ。とても科学者とは思えんよ。発見の糸口を掴みながら、何の行動も起こさずにいるなどできるかね」

「発見のどこが偉いんだ。あんたがやってるのは、探求の対象をいたずらに傷つけるだけの、いわば自然界のレイプだ」

恐竜の再生は自然界へのレイプと言い切るマルコム

議論の決着が付かぬまま、一行はいよいよジュラシック・パークの園内視察に出かける。

この門構えも流行りました。
ポーランドにも似たようなコンセプトのパークがあちこちに作られました。ロゴまで従姉妹のようで。
きっと世界中の方々に似たようなパークが存在すると思います。
まともに著作権について取り沙汰したら、いずこも賠償金で破綻しますから、権利者も(しょーがねーなぁ)でお目こぼしなのでしょうね。

世界のアイコン ジュラシックパークの入場門

ユラパーク

Tyranozaur (Tyrannosaurus) - JuraPark Baltow (3)

不安な気持ちでサファリカーに揺られながら、恐竜が現れるのを心待ちにする一行。
マルコム博士はコップの水を使って、エリーに『カオス理論』について説明する。

「バタフライ効果さ。北京で蝶々が飛べば、セントラルパークで雨が降るというやつだ。原因は微妙な変化さ。結果に絶大な影響を及ぼす」

手の向き、皮膚の皺、様々な微妙な違いによって、水はその都度、異なる方向に流れる。

このジュラシック・パークも高度な技術によって完全にコントロールされているように見えるが、微妙な変化によって、思いがけない方向に流れると示唆するわけだ。

カオス理論について説明するマルコム博士

「微妙な変化」とは、待遇に不満を持つシステムエンジニアのデニス・ネドリーのことだ。
ネドリーはライバル会社に恐竜の胚の密売を持ちかけられ、わざとシステムエラーを起こして、冷凍庫から胚を持ち出す。

待遇に不満をもつ天才的なエンジニア ネドリー

第二の変化は、島に接近する暴風雨だ。
激しい雨風により、ネドリーの運転する車は森の中で横転。
恐竜に襲われ、命を落とす。

ジュラシックパークに接近する暴風雨

人的な問題もあった。
古代植物について正しい知識を持たない者が、恐竜にとっての毒草を育て、草食動物のトリケラトプスが重度の中毒症状に陥っていた。

毒草で中毒症状を起こすトリケラトプス

ネドリーが故意に引き起こしたシステムラーによって、園内の電源がストップし、恐竜たちを囲っていた電気フェンスも無効化する。
取り残された一行は、凶暴なティラノザウルスのエリアで立ち往生し、ついに弁護士が餌食となる。

強欲な弁護士が頭からぱっくり食われ、溜飲を下げた観客も多かったのでは?
我先に逃げ出して、子供を見捨て、損得勘定ばかりしている利己主義な人間は、こうして報いを受ける。

ティラノザウルスに食べられる弁護士

命からがらティラノザウルスから逃げ出したグラント博士と子供たちは、森の中で恐竜の卵を見つける。

メスばかりで繁殖しないはずが、彼らは自然に遺伝子変異し、子孫を残せるようになっていたのだ。

「ここの恐竜は両生類なんだ。遺伝子配列の欠損を補う為にカエルのDNAを使ったって。恐竜の遺伝暗号を変異させて、カエルのと混ぜたはずだ。西アフリカ産のカエルには、同性しかいない環境だと、性転換する種類がいるんだよ。マルコムの言うとおりだ。生命は道を探し出す」

突然変異の経緯は、マイケル・クライトンの原作で詳しく解説されています。興味のある方はぜひご一読を。

雌ばかりの恐竜が突然変異して卵が孵る

孵化した恐竜の卵。

まさに『生命は道を探し出す』。

今は小さな足跡だが、時を経て、巨大な潮流となる。

生命はそれほどに強く、たくましい。

孵化した卵

かくして園内はパニック状態となり、『コントロールできる』と思い込んでいた科学者も、ハモンドも、命からがら島から脱出する。

壮大な計画も失敗に終わり、茫然と琥珀の中の蚊を見つめるハモンド。

遺伝子操作は遠い夢なのか、それとも順序を間違えただけなのか。

茫然と琥珀を見つめる創始者のジョン・ハモンド

一方、子供嫌いのグラント博士は、逃避行のうちに心を通わせ、安堵の中で帰路につく。
本物の恐竜とは失ったが、大事なものは手の中に残った……という演出が、いかにもスティーブン・スピルバーグらしい。

心を通わせるグラント博士と子供たち

生命は道を見出す

映画の吹替では、「生命は道を探し出す」だが、原作の訳文では「生命は道を見出す」だったように記憶する。これも本が手元にないので、うろ覚えだが。

この作品の主旨は、生命の粗らしい本能と人間の傲慢だ。

多くの人は技術の真新しさに目を奪われるが、負の側面まで深く考えようとしない。

環境破壊、公害病、依存症、デマ、失業、荒廃、無差別殺人、等々、技術革新がもたらした弊害は数知れず、人ひとりの人生、町ひとつが崩壊することも珍しくない。

その責任は作り出した側にあるのか、上手く利用でないユーザーにあるのか。

レーティングやゾーニングといった明確な線引きも、啓蒙活動もなされないまま、「儲かる」となれば、何でも見切り発車でリリースされ、その弊害に苦しむのは、いつでもユーザーの側である。

ユーザーの一人一人が自覚をもち、事前にしっかり調べて……という意見もあるが、身の回りのもの全てについて、素人が丹念に調べるには限界があるし、メーカーの品質保証や謳い文句も、どこまで信じていいのか分からない時代である。

売ってしまえば、後は知らない。騙すより、騙される方が悪い――という態度では、社会的検証も進まず、取り返しのつかないものばかりが世に残される。

中でも、遺伝子は生命活動に直結する領域だ。

食品から未来のデザイナーズベビーまで、遺伝子操作の潜在力は計り知れない。

難病治療のように、福音となる技術もあるだろうが、今まで見えなかったものが見えるようになったり、今まで歩けなかったものが歩けるようになる事は、裏を返せば、生物の常識を覆すほどの威力を有していることでもある。極端な話、短時間で大量増殖する害虫とか、毒牙をもった柴犬とか。

日に新たに生みだされる技術について、私たちは、どれほどの見識を有しているだろう。

それが絶対に安全など、誰が言い切れるのか。

マルコム博士の説く『バタフライ効果』(「風が吹いたら、桶屋が儲かる」とは異なる)のように、人間の些細なミスが大きな悲劇を引き起こすこともある。

機械の誤操作もそうだし、店員の勘違いもそう。技術や製品が完璧であっても、いつ、どこで、何が起きるか分からない。その結果を予測不可能な事として切り捨てるのは、進歩の阻害であり、責任の放棄ではないだろうか。

マルコム博士の言うとおり、「微妙な変化」はそこかしこに潜んでいる。
技術的な盲点もあれば、恐竜の胚を盗み出す為にシステムダウンさせるネドリーみたいな人的要因もあるだろう。起こりうる全ての事態を考慮し、検証を重ねるのは、事業においては非現実的かもしれないが、それでも最大限の努力は必要だろう。なぜなら、相手は人間であり、生命そのものだからだ。

マルコム博士が言うように、遺伝子とは驚異的な存在である。

人間が車や天体望遠鏡やコンピュータを作りだす前から、遺伝子はこの地上に存在し、幾度となく惑星規模の危機を生き延びてきた。

恐竜が死に絶えた後も、氷河期も、一部の生命は生きながらえ、多種多様な生物へと進化を遂げてきた。

分子の集まりに過ぎなかったものが、いつ、どのようなきっかけで細胞分裂を始め、子孫を残す手段を獲得したか、その経緯も完全には解き明かされていない。

虫眼鏡が電子顕微鏡に、石器が電気メスに進化したからといって、人間が万物を操る科学力を手に入れたわけではないし、まして知性や善性において神に追いついたわけでもない。

卓越した科学力で遺伝子を完全にコントロールしたように見えても、遺伝子は、それ自身の生命力によって、人間が意図するのとは全く違う結果をもたらすのではないだろうか。

どんな生命も道を見出す。

40億年かけて驚異的な進化を遂げた遺伝子が、将来、人間に何の悪影響も及ぼさないと、誰が言い切れるだろうか。

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これ、グラント博士の吹替が富山敬さんで、声を聞くだけで泣けるんですよね。
ティラノザウルスに追いかけられる場面も、まるでヤッターマンを観ているようで、「ほぅら、メカのもとだ!」「解説しよう」というナレーションが聞こえてきそう。
おまけにジョン・ハモンドは永井一郎、マルコムは大塚芳忠、といった、そうそうたる顔ぶれで、声優の演技を聞くだけでも価値があります。

ティラノがやって来る場面、恐竜の足音に合わせてコップの水が揺れる演出とか。

恐竜の足音に揺れるコップの水

ライトを向けた途端、恐竜の瞳孔がきゅっと縮むリアリティとか。

この頃のスピルバーグが一番好きかも、です。

細部まで拘った恐竜の目の演出

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最初のTV放映の後、購入した原作本。考古学や遺伝子工学の知識が無いと、ちょっと苦しむ箇所もありますが、テンポもよく、訳文もよかったです。
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