「独身のほうがいいとおっしゃる方は、なかなか考えを変えてくださらないし」

[su_row] [su_column size=”1/6″]女[/su_column]
[su_column size=”5/6″]ほんとうに、女はどうしてよいかわかりません
独身のほうがいいとおっしゃる方は、なかなか考えを変えてくださらないし[/su_column][/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]男[/su_column]
[su_column size=”5/6″]そりゃ、あなたがたの腕しだいですよ。わたしなどの心得違いを思い知らしてくださるのは。[/su_column][/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]女[/su_column]
[su_column size=”5/6″]ねえ、はっきりとおっしゃらない? まだ、お見つけになりませんの? どこかに心がつながれてしまったのじゃありません?[/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]男[/su_column]
[su_column size=”5/6″]諺にいいますね。自分のかまどと よい女房は、金と真珠の値打ちがあるって[/su_row]

さて、この台詞は、誰の作品でしょうか。

[su_row] [su_column size=”1/6″]女[/su_column]
[su_column size=”5/6″]それで、あなたはいつも旅ばかりしていらっしゃいますの。[/su_column][/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]男[/su_column]
[su_column size=”5/6″][/su_column]いや、どうも勤めや商売に追い回されましてね。
土地によっては、発つのがずいぶんつらいこともあるんだ。あ
腰を落ち着けてしまうわけにもいかないのでね。[/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]女[/su_column]
[su_column size=”5/6″][/su_column]それはお元気なうちは、そうやって気ままに世界じゅうをお歩きになるのも結構ですわ。
けれど、おいおい お年を召して、やもめのまま、年々お墓に近くなってゆくなんて、
誰しもあんまりぞっとしませんわねえ。[/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]男[/su_column]
[su_column size=”5/6″][/su_column]そう。わたしも先にそれが見えているから、いやな気持ちになりますよ。[/su_row]
[su_row] [su_column size=”1/6″]女[/su_column]
[su_column size=”5/6″][/su_column]ですから、いまのうちに、ようくお考えなさらなくては。[/su_row]

[su_spacer size=”90″]

正解は、ゲーテの『ファウスト』(悲劇第一部 (中公文庫) )です。

翻訳は、今や絶版となってしまった手塚富雄・訳。(参照→文学への愛は時代を超える 手塚富雄のあとがきより

上記だけ見たら、ほとんど現代小説か、どこぞのライフハック系の小説仕立てという印象。

ちなみに、『女』は、ファウスト博士の恋人グレートフェンの乳母マルガレーテ。

『男』は、メフィストフェレスです。

執筆されたのは1770年代から1806年にかけて。

二〇〇年以上も前に書かれた作品にもかかわらず、男女の会話は、現代とほとんど変わりないのが興味深い。

追うマルガレーテ。

逃げるファウスト。

遠回しに男性に改心(結婚)を迫る手管も、現代とほとんど変わりありません。

男性にしてみたら、これこそ悪魔の囁きかもしれませんね。

かのメフィストフェレスでさえ、恐れおののくほどに。

一方、マルガレーテに目を転じれば、家事一筋、子守一筋に生きてきて、はたと気付けば、自分というものが全く失われていた空しさや焦りもなんとなく分かるります。

ほんとうに、女はどうしてよいかわかりません』の一言に、女性の生き様と葛藤の全てが凝縮されており、男性のゲーテがこの台詞を考え出したのは、まさに創作の妙といえるでしょう。婦人公論賞を差し上げたいくらい。

*

それにしても、手塚富雄訳が絶版になるとは文学界の大損失でしょうに。

ゲーテの『ファウスト』といえば、新潮文庫や岩波文庫がロングセラーになっていますが、私が店頭で手に取って読み比べた限りでは、手塚先生のが「古典」と「カジュアル」の真ん中ぐらいで、一番読みやすかったです。もちろん、これは個人の趣味なので、誰が一番という問題ではないですが。

中公文庫のファウストも、大型書店の書架に残っていることがあります。古本市場でもまだ取引されていますので、興味のある方はお早めに。

ゲーテ ファウスト 手塚富雄

 ファウスト 悲劇第一部 (中公文庫) (文庫)
 著者  ゲーテ
 定価  ¥ 5,103
 中古 20点 & 新品  ¥ 150 から
 5つ星のうち 3.3 (7 件のカスタマーレビュー)

あらゆる知的探求も内心の欲求を満たさないことに絶望したファウストは、悪魔メフィストフェレスと魂をかけた契約を結び、人生を体験しつくそうとする・・・。 巨匠ゲーテが80年の生涯をかけて、言葉のきわめて深長な象徴力を駆使しつつ自然と人生の深奥にせまった不朽の大作「ファウスト」の悲劇第一部を、翻史上画期的な、格調高い名訳で贈る。

QUOTE CARD

  • どんな高邁な理想も、言葉だけでは人は動かせない。 身をもって示して初めて、理想が理想としての意味をもつ。 その後、彼は死ぬまで父を忘れず、その生き様を指針にするわけだが、愛とは何かと問われたら、慈しむだけが全てではない。身をもって生き様を示す勇気も至上のものだろう。 誰でも犠牲は怖い。  自分だけ馬鹿正直をして、損したくない気持ちは皆同じだ。  だが、その結果、一番側で見ている子供はどうなるか、いわずもがなだろう。  言行の伴わない親を持つほど不幸なことはない。  たとえ現世で馬鹿正直と言われても、本物の勇気、本物の優しさ、本物の気高さを間近に見ることができた子供は幸いである。 どんな高邁な理想も、言葉だけでは人は動かせない。 身をもって示して初めて、理想が理想としての意味をもつ。...
  • 「創造的」というのは詩を書いたり、絵を描いたり、という意味ではありません。無の平原から意味のある何かを立ち上げることです。 より良く生きる為に、日々、考えること、実行すること、その全てが『創造』です。 どんなに小さくても、昨日よりは今日、今日よりは明日、少しずつでも歩みを進め、善きものを積み上げることを「創造的な生き方」と言います。 「創造的」というのは詩を書いたり、絵を描いたり、という意味ではありません。無の平原から意味のある何かを立ち上げることです。 より良く生きる為に、日々、考えること、実行すること、その全てが『創造』です。...
Morgenrood 曙光

Kindle Unlimited

宇宙文明の根幹を成すレアメタルをめぐる企業の攻防と人間の生き様を描いた本格的な海洋ロマン。専門用語は使わず、予備知識のない人でも分かりやすい内容に仕上がっています。無料PDFも配布中。Kindle Unlimited 読み放題の分冊もリリース。

この記事を書いた人

石田 朋子

文芸愛好家&サブカルチャー・ファン。主に70年代~90年代の作品に思い入れがあります。寺山修司の名言『詩を作るより、田を作れ(揶揄)』をモットーに、好きな作品を次代に伝えることを目標にしています。海外在住につき、現代日本とは相容れない所がありますがご容赦ください。
※ 現在、制作巣ごもり中につき、ほとんど更新していません。